気がついたらファンタジー世界でモブ幼女?鍬から始める農民生活、生き残り

和紗かをる

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第5章 モブ幼女と森の精霊(ブクスフィ)

5-2

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耳が痛くなるほどの静寂な森かと思ったけれど、意外にも夜の森は色々な音で溢れている。風が木々の葉っぱを揺らす音。梟の様な夜の鳥の鳴き声。鈴虫みたいな虫の声。色々な音が溢れていて、干草にシーツを引いた慣れないベッドに横になっても賑やかな音に耳を傾けていたら、いつの間にか寝てしまった。
 何かに気づいて、ふと目を開ける。
 木で閉じられた窓の様な所から漏れる光はまだ暗い。
「寒っ」
 薄い夜具をひっぱりもう一度、温かさを求めて丸くなろうとするけど、何かが邪魔をして丸まれない。
「なによっもう」
 思い切り夜具を引っ張ると、不意に抵抗が無くなりその勢いで夜具が宙を舞ってしまう。
「にぎゃ」
「?なんの声」
 一緒に寝ていた飼い猫をベッドの下に突き落としたかな?
「にぎゃぎゃっ、酷いな、力を貸した我にこの仕打ちとは!人の子よ、失礼にもほどがあるぞ」
 ベッドから横を見ると、宙を舞った夜具の真ん中がポッコリと膨らんで暴れている。
「あ、ええと、ごめんなさい」
 薄い夜具を取ると中から不貞腐れた顔をした、ダルマジロが出てきた。
「まったく、人に物を頼んでおきながら自分はぐ~ぐ~寝ているとはなっ」
「ごめんて、ジローほ~らよしよし」
 抱き寄せて、飼い猫にするようにジローの頭から頬に当たる部分を撫でる。最初はされるがままに撫でられていたジローだったが、何かに気づいてふいっと離れて空中に浮いた。
「よせっ、まったく、話にならん、とっとと報告をするとしよう、おぬしの父親は確かに呪いを受けておった、今はまだ大丈夫だがあの呪いを放置すると手足に浸透し、さらに手足を切らずに放っておくと命にかかわる」
「手足っ!命に関わるの?」
 思っていたより悪い話だった。寝ぼけていた私の頭が一気に覚めた。
 もしかしたら杞憂で、呪いでもなんでもなくただの怪我って可能性を願っていた。
 でも、その願いは裏切られた。
「でも、その呪いは解けるんでしょう?方法、あるよね」
「前にも言ったがブクスフィの呪いは妖精女王にも、もちろん我にも解除は困難だ、一番良いのは、その呪いをかけたブクスフィに直接呪いを解除させることだろう、それ以外の方法を我は知らぬ」
「なら、話は簡単だよ、すぐにその、ブクスフェ?だっけ、それを探して呪いを解除させようよ、呪いは間違いですって」
 あの優しげな父親が、たとえ妖精とか魔物の一種だって呪われる事をしたとは思えない。使い古された言葉だけど、話せばわかるはず。話さなければ判らないんだから。
「そう言うと思った、ブクスフィは妖精女王と違って昼の眷属だ、明るくなってから探すのが良い、ただこれも前に言ったが、やつ等はとにかく頑固な一族だ、心してかかる必要があるぞ」
「判ったわ、とにかく朝日が出る前に行こう」
 何でここまで、アルナウトと言う名の赤髪父が大事で、助けようと思うのか?少し考えてすぐに気づいた。
 これは私、春風の気持ちじゃなくて、ハルの気持ちなんだって。
 あの家族の中で生きてきて、ハルにとってはアルナウト父さんが唯一の希望で、大好きな存在だったんだろう。この年齢で慢性的に飢餓状態を経験していても尚、一緒にいたいって思える人なんだ。
 そんなハルの気持ちはよく判る。私にとっても、訳のわからない場所に来て優しく微笑んでくれて、私を助けてくれそうな家族はあの人だけだったんだから。
 それから私はジローにブクスフィについて判る事を聞いたり、この家に入る前に拾ったいくつかの石をこすり合わせて少しでも投げやすい形に削った。
 どうもハルは石を投げるのが得意らしく、飛ぶ鳥にも当てるくらいだからすごい才能を持っていると言える。でも腕力が低いせいで、当てる事ができるだけになっているけど。
「さて、行こうか」
 うっすらと空の端っこが紫色に染まり、夜が終わる。私はじっとその時を待っていたから、すぐに行動を開始した。
 出来るだけ音を立てないように、部屋のドアを開けて外へ。ホラント村の家より小さなヘイチェルさんの家は木造で、すぐに外に出られた。
「ふ~」
 外に出ると、ひんやりとした空気に、森の緑の匂いが混じって、いわゆる高原の朝の空気みたいだ。両手を伸ばして、ん~と体を伸ばすと、ピキっと体が鳴る。
「本当に良いのか?一人で行っては危ないかも知れぬぞ?」
「いいの、あんまりユルヘンに頼っても良くないし、それに危ないならなおさらだよ」
 ユルヘンは良い子だし、ここまで一緒に来てくれただけで充分。ブクスフィの居場所は森のさらに奥の危ない場所になる。そんな所に私とハルの気持ちだけで巻き込むのは良くない気がする。
「それに一人じゃないでしょ、ジローがいるし」
「ふんっ、妖精女王に頼まれているしな、最低限の事はしてやろう、だが期待はするな、自らの身は自らで守る気でいたほうが良いぞ」
 それだけ言うと、フイッと空中を滑るようにジローは森の奥へと入ってしまう。
「ちょっと、見失うから勝手に行かないでよ~」
 なんだろう、照れているのかしらん?
 昼の森は、夜の森とはまた違った顔を見せてくる。
 夜の森は数歩先は暗く見通せないけど、昼の森は高い木の隙間から強い光が降りそそぎ、ずっと先まで見通せる。元の世界で見た動物の神様と人が争う有名なアニメ映画のワンシーンみたいだ。
 遠くでリスみたいな小さな生き物がチョロチョロと走っているのも見えて、危険なんて何もないように思える。
 元の世界でも大型の肉食獣は夜行性が基本で、日が高く上っている時間は寝て、狩を行うのは夜と決まっている。昼に襲うのは、縄張りとか子供を守るためで、飢餓状態でなければ不用意に近づかない限り大丈夫・・・の筈。
 私のその辺りの知識は、図書室のカラー写真豊富な動物図鑑だからどこまで正確か判らないし、魔物の生態なんか判らないから、絶対ではないけど、それでも目安くらいにはなると思う。
「ねぇジロー、この辺りの代表的な魔物って、どんなのが居るの?」
「むぅ、この辺りとは言っても我はこの辺りに詳しくはない、だから一般的なことになるが、そもそも、人が何を魔物と読んでいるのか我は知らぬ、世界には様々な種族がいるからな、我らケットシーも人にとってなんと呼ばれていることやら・・・」
 ふむ、そりゃそうだよね。人がなんて呼んでいても、その動物たちが自分たちがなんて思われているかなんて知るはずもないか。
「じゃあ、人と兎人、妖精さんとケットシー以外で、多い種族って?」
「ふむ、それ以外ならば、やはり判りやすいのは二本足で立って歩く種族だろうな、二本足で歩かない種族は戦闘能力が高い傾向にあるな」
 なるほど、二本足で立って歩く種族ってのは、漫画とかでよく見る亜人種って奴かな?ゴブリンとかオークとかがそれになるんだと思う。
 そうなると、それ以外はドラゴンが有名どころかな?たしかにゴブリンとドラゴンなら戦闘能力は絶対ドラゴンが高いだろう。
「二本足で立って歩く種族ってどんなのが居るの?ゴブリンとか?」
「数が多いのはやはり人だが、それ以外には小鬼のコボルト、豚頭のヴァーリン、斑猫のパンテーラ、兎人のコレインだな、で?ゴブリンとはどんな生き物だ?」
「子供くらいの大きさで、肌が緑色の鬼みたいな顔、粗末な服装でナイフとか、棍棒とか持ってて、一杯いるイメージかな?」
「それなら小鬼のコボルトが近いな、肌の色が緑色だけではなく茶色とか土色が多いと言うな」
 完全にゲームとか小説とか、私が知っているファンタジーと同一って事はないみたい。
 その後も、ジローによるこの世界講座をしばらく聞きながら、私たちは森の奥へと順調に進む
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