気がついたらファンタジー世界でモブ幼女?鍬から始める農民生活、生き残り

和紗かをる

文字の大きさ
16 / 34
第4章 腹ペコ幼女、森を行く

4-4

しおりを挟む
「ふぃ~助かったぁ」
 しんなりしたお化け鳥、襲ってくるときはすごく大きく感じたけど、しんなりした後は、くちばしだけは私の体を貫通する事ができるくらい大きいけど、体自体は小さくて細い。
「これ、食べれるところないよなぁ」
 言った瞬間に、自分の言葉にびっくりする。
 妖精女王に教わった。私の体の中にはハルの魂の欠片があって、それが飢餓的な空腹感を抱えていて、今の私に影響を与えていると。その影響なんだろうけど、しんなりとしている、まだ生きている鳥を食べると自然に発想した自分が怖い。
 生き物を殺して、捌いて、その肉を得るなんて・・・。
 そりゃ前の世界では鶏肉だって、豚肉だって、牛肉だって美味しくいただいていた。やる事は同じなんだろうけど、直接命を奪うことが食べることと、私の中で直結していない。
「ハル?大丈夫」
 お化け鳥がくっついたままの石を抱えてボンヤリしていた私を心配して、ユルヘンが近づいていてきた。
「えっ、あっ、うん、大丈夫、ちょっと疲れただけだから・・・」
「そっか、でもハル凄いねぇ、弓もないのに鳥を捕まえちゃうなんて、本当に」
 何気なくユルヘンが私の手からお化け鳥付きの石を受け取った。あまりにも自然な動きだったんで私も違和感なくユルヘンに石を手渡していた。
「変な鳥・・・、って、あっ」
 するとユルヘンの背後にいた黒っぽい影から手が伸びてきて、その石を奪うと、お化け鳥の毛を毟り、ばくっと噛み付いた。
「ちょっ、ちょっとぉ、勝手に食べるなよ~」
 な、なにっこの野性味にあふれた影は?よく見ると、私たちと変わらない体の大きさから子供の様に見える。毛の塊がふさふさの服を着ている。服から出ている部分が全体的に毛で覆われていて、指先がやけにかわいらしく短い。でもなにより違っていたのは、頭のつくりのほうだった。
「あの、なんで耳がそんなに長いの?」
 思わず幼稚園の頃に語り聞かせで知った赤ずきんちゃんの言葉がよみがえる。
 あれはおばあさんに成り代っていたオオカミが、赤ずきんを騙そうとしていたシーンだったっけ。
「んぐ、んぐ、はぁ、なんだお前、このあたりの奴で俺たち知らないのか?」
 知らない、知らない。耳が頭の上に並んでピンと立っている人なんて知らない。
 顔も毛で覆われていて、鼻がツンっと前に出ている。
「でもだって、それじゃあウサギさんみたいじゃない・・・?」
 ユルヘンの影でお化け鳥をんぐんぐ言いながら咀嚼しているそれの顔は、私の知っているウサギそっくりだ。
 体も二足歩行で立っているけど、服から出ている足も毛で覆われていて柔らかそう。
「ユルヘン?」
「ああ、彼らは兎人だよ、狩が得意で人と協力する事も多いんだ、村に下りてくることは少ないけど、森には集落もあるみたい」
 ふ~ん、そうなんだ。さすが異世界ファンタジー、妖精さんが居るくらいだから、二足歩行するウサギさんがいても不思議じゃないのかな?
 不思議の国のアリスに出てくる、丸っこい時計ウサギよりも、だいぶたくましいけどね。
「えっと、私はハルで、こっちはユルヘンだけど、兎人さんのお名前は?」
「ああっ?お前変な奴だな、兎人に挨拶なんてどこの世間知らずだ?まぁいいや、俺は狩人のブレフトだ、助けてもらったから、森の事なら何でも聞きな」
 私たちと似たような子供の癖に、なんか偉そう!
 私が捕まえたお化け鳥を、勝手に一人で食べちゃうし!
 まあね、どうせ私にはガブリと噛み付くなんて事出来なかったけどさ・・・。
「ブレフト、君は何でこんなところに?」
「あ?えっと、まあな、訳ありでよ、獲物探していたらさ・・・」
 むむっ、なんか変。狩人とか言ってるけど、もしかしたら
「ブレフト~?もしかしてだけど、貴方、狩出来なくて腹ペコで倒れていただけなんじゃないの?」
「ぶっ、なっ何を!そっそんな事あるわけないじゃないか!」
ありゃりゃりゃ、これは図星だったかな?
「えっ、そうなの?兎人って狩は得意って聞いていたけど」
「うっせいうっせい、兎人だって得意だったり苦手な事があるんだい!どうでも良いだろうっそんな事は!大体おまえらこそ、こんな時間に子供だけで森に来るなんておかしいだろっ」
 確かにブレフトの言うとおりだ。私もユルヘンも十代に満たない子供。夜の森に居ていい筈がない。
 でも、私にはお父さんを助ける使命があるんだ。
「あのねブレフト、僕たちはアーベさんの狩小屋に向かっているんだ、このハルのお父さんが怪我したって聞いたからさ」
「お父さん?ふんっ確かにあの小屋に数週間前から別の人が来たって話はきいたな、なんだよ怪我とか、やっぱり狩はあの人くらいで、他は駄目なんだな」
 ブレフトの口ぶりから、兎人さんたちの間でもアーべ叔父さんが知られていることがわかる。しかも割りと好意的に。けっこうすごい人なんだな、あのアーべ叔父さんって人。領主さんとも知り合いみたいだし、ユルヘンも憧れていたって言ってたし。
「そんな言い方するなよ、ハルのお父さんだってすごい人なんだぞ、町で盗賊三人を追い返したって聞いたし」
 わぁお、赤髪お父さんもただの人じゃないみたい。盗賊三人追い返す農夫って、それは凄いと思う。不良漫画のヒーローみたい。
「ふんっ町なんか行ったことないから知らねぇよ、俺らは森で生きてるんだからさっ」
「森より町は凄いんだ、人も一杯居て、銅貨だって使えるんだぞ」
 なんか、ユルヘンとブレフトが意地の張り合いみたいになっちゃってる。
 クラスでもあったなぁこんな事。私は傍観していただけだけで、巻き込まれないようにしていたけど
「ねぇブレフト、ユルヘン、町とか森とか、どうでもいいの、今はお父さんの居る小屋に向かいたいの」
「そうだね、ごめんハル」
「へっ、小屋の場所ならもうすぐさっ、オーライル・フィルの礼だ、ついてきな」
 ブレフトがユルヘンを押しのけて歩き出す。
 ちょっとムッとした顔をしたユルヘンだったけど、暗闇で私がはぐれない様に服の裾を掴むと、ムッとした顔を止めて、いつもの優しそうな顔に戻った。
 本当、男子って単純で、面倒くさい・・・。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

処理中です...