気がついたらファンタジー世界でモブ幼女?鍬から始める農民生活、生き残り

和紗かをる

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8章アーベ砦の戦い、モブ幼女大活躍・・・しません。

8-2

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「自分が生き残るためだけにウイルズ・アインを殺すのが嫌なのかな?」
本当、異世界転生の本とかもっとよく読んでいればよかった。異世界に行った主人公は魔物とか、魔族とかと戦争に近い殺し合いをしていた筈だ。そうじゃなきゃ異世界で成り上がれないし、成り上がって見返す所までがワンセットなんだから。
そこで、彼とか彼女は何を考えていたんだろう?
平和の国に生まれて、おそらく死ぬまでは飢餓とか戦争とか知らずに、ほぼ世界的に見て幸せの部類に入る生活をしていて、いきなり異世界に転生とかして。
その時に私にはなかったけど、他人に秀でるスキルとか貰って、たぶんだけど、その時は、異世界?ヒャッハー!これで俺も、私も、主役級でいい目が見れるぜ~とか、忙しくて冷たい現実が終わって、やっとのんびりできる。だから田舎に引きこもって愛のある生活がしたいとか、元の世界で出来なかった事を望むんだと思う。
でも、それが全部叶えられちゃうだけだと、お話にならないから、悲劇もトラブルも起こると思う。その中には動物や魔物を倒すパートもあるはずで、そこで、悪いやつは死んで当然、殺されて当たり前って心理になるだろうか?
残念ながら私にはどうしてもそうは思えない。同じ国に生まれた者のメンタリティで言えば、悪い=殺すは無いと思いたい。思いたいけど異世界物の本をあまり読んでない私にはそこから先の想像が出来ない。
翻って今の私の状況だ。
普段は森になど入ってこないウイルズ・アインという見たこともない魔物が森に攻めてきている。守りの中心は森の妖精ブクスフィ。けど戦いは森の外縁部からアーべ砦のあるこの辺りに拡大。ブクスフィは外縁から敗退して、ここで巻き返しを狙っている?のかな。周囲の動物たちもその話を知り、無防備な集落や巣に留まる事を不安に思い、このアーべ砦に集まって、ろーじょーせんの構え。
今日明日にもウイルズ・アインが攻めてくるって構図なわけだ。ジロー曰く、ここで抑えなきゃホラント村も危ういらしい。
「ここまで考えても、やっぱり戦う事しかないってなるよねぇ」
 なんだろう、何が引っかかっているんだろう?
命を奪う事?否だ。自分とかユルヘン、ジローが殺されそうになったら、私はその相手の腕に噛み付いてでも止めてやるっと思う。その時に悠長な事を言うつもりも無い。戦う事?これも否だ。私は戦わないんじゃなくて、戦えない。何が戦うって事になるのかってなるけど、私個人は誰かを直接傷つける力が無い。さっきと矛盾しているけど、気持ちと方法は別って事だ。
ガンッ!
「痛っ、このドアって引きじゃないの?押しだったっけか?」
 アーベ砦の中心、元狩小屋のドアを開けて、中に入ろうとしたんだけど、考え事をしながらだったから、ドアを開けようと手を伸ばしたけど、ドアは開かず思いっきり鼻を強打してしまった。痛い・・・。
「痛~、もぅ・・・、ん、でもこれって」
何か痛みとともに、何かがカチリとはまった気がした。
何が疑問で、何が気持ち悪かったのかが判った気がする。たしか小学生の時にネットを使う際の注意事項の授業で聞いていたこと。
自分が正しいと思って発言したとしても、どこかの誰かに対しては傷つける言葉になるかもしれない。だから発言をする時にはその先に相手がいる事を考えて発言しないと炎上したりするんだと。正しさってのは一方通行じゃなくて、相手にもそれはあるんだと思っていないといけないって。
つまり、私たちには、森とアーベ砦、ホラント村を守りたいって理由があって、戦わなきゃいけないってなってるけど、相手のことが全く判っていない。
普段は森に入ってこないウイルズ・アインがなんでいきなり森に一杯入ろうとしているのか?ブクスフィに妨害されて、仲間が傷ついているのに、それでも突き進んでいるのはなぜだろう?ウイルズ・アインと言う生き物は暴虐の魔物で、ただただ攻めてきているって言うのはオカシイ。
ウイルズ・アインはウイルズ・アインで森に入らなければならない理由があるんじゃないのか?それを全然知ろうとしないで、戦うのが気持ち悪さの正体だった。
「ジロー!」
 振り返ってジローを探すが、すでに動物会議は終わっていて、さきほどの場所にジローのふよふよした毛並みは見えない。
代わりにヘイチェルさんを中心に数人が血相を変えて、動き回っている。
「担架もってきて!何人かで、暴れないように抑えて!」
 見るとヘイチェルさんと数人の兎人さんが、誰かを地面に抑え付けている。押さえられている人は数人に押さえられているにも関わらず暴れて、抑えようとする人間を跳ね飛ばしている。寝転がった状態で上に乗ってくる兎人さんを跳ね飛ばすとか、すごい力だ。
「誰でもいいから、早く!」
ヘイチェルさんの悲鳴が響く。すぐに動いた人もいたが、何が起こっているのかわからずに、見ているだけの人も多い。
 最初、私もその他大勢の傍観者でいた。そのまま見ているだけのほうが私らしいかったんだけど、つい私の目線の先に飲み水補充の為に水が入った桶が見えてしまった。そして、これ使えるんじゃない?とか、気づいてしまった。気づいてしまったらもう無視はできない。
自分の中では颯爽と、実際にはおそらくよたよたと桶を持って騒ぎの中心に向かう。
だけど、忘れていた。私は、いやいや私じゃなくてハルの体はとても不器用にできているのだ。何も無いところで躓いたり、尻餅をついたりするくらいは。
「ひゃあっ」
結果どうなるかと言えば、騒ぎの中心にたどり着く前に、小石か何かに躓きバランスを崩しそうになる。
「ハル!もぅなにやってるのさ」
どこから現れたのか、ユルヘンが片手で私を、片手で桶を支えてくれた。
細身で、見た目は貧弱な少年にしか見えないユルヘンだけど、いつのまにこんなに逞しくなったのか
「僕だって、最近は力仕事しているからね、木材よりハルのがだいぶ軽いし」
にっこりとするユルヘン。ユルヘンいい人レベルが1上がりました~♪とかね。
「あ、ありがとうユルヘン、ちょっとお願いね」
「いいけど、これ、どうするの?」
「暴れる何かには水をぶっ掛けるのがいいって思ってね」
猫の喧嘩じゃないだろうけど、それでも薄寒い今の時期に頭から水をかぶったら少しは落ち着くんじゃないかな?
私とユルヘンは力を合わせて、騒ぎの中心にたどり着くと、せ~ので暴れる人の頭から水をぶっ掛けた。それまで白めで暴れていた人は、頭から水をかぶせられたせいで、一瞬動きを止めた後、ビクビクと痙攣した後、ぐったりとなった。
「たすかったわ、皆、あちらに運びから手伝って、ハルとユルヘンは少し離れていてね、感染病とか呪いだったら大変だから!ほらっ近づかないの!」
誰かが運んできた担架に乗せられた暴れていた人が運ばれていった。顔をよく見ていなかったけど、暴れていた人はアーベ叔父さんだった。さっきまでは白目で酷い形相で暴れていたので気づかなかった。良く考えればここには人間は私とユルヘンとアルヘルム父とアーベ叔父しかいない、数人相手に暴れるって事で気づくはずの事だった。
「ユ、ユルヘン・・・」
「だ、大丈夫だよ、ヘイチェルさんに任せておけば、ハルのお父さんだって治したんだし、アーベさんだってすぐに良くなるよ」
 そういってユルヘンが慰めてくれた。
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