遥かな星のアドルフ

和紗かをる

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第2章「憲兵隊准尉の憂鬱」

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 猫種の元上官ミント少尉がミュンヘン郊外に自分の小隊を引き連れて到着したのは、黒の家旅団が命令受領してから二週間後。
 彼女の部隊も吸収されるだろうと考えていたユリウスだったが、参謀役のリッヒは彼女の周到な準備を見て気が変わったらしく、補給物資の手配を依頼した。
 その補給物資が届いたのが今日と言うわけだ。内容は武器弾薬、食料に医療品、また特に気を遣って彼女達が発注したのが、黒に銀のラインが入ったおそろいの第一種礼装、それと何やら染め方を失敗したかのような、暗緑色に斑染めされた軍服人数分。
 そのほか馬車で四台分くらいの量になるが、その全てをユリウスは点検したわけではなく、何処となく補給目録からすれば量が多いなぁ程度の認識だった。
 それよりも、彼にとっての注目事項は、かつての同室仲間、ついこの間までは同じ憲兵隊司令室に赴き、胸を・・・・・・いや、それは事故だ。
 とにかくミント・シルバー憲兵少尉が憲兵隊所属のまま、補給物資輸送の責任者を務めていたことだ。自分の部隊は強制的に黒の家旅団に吸収されてしまったと言うのに、自分のこの状況を見て助けに来るどころか、同じ轍を踏まないように準備万端こしらえて高みの見物しにきやがって・・・・・といった所がユリウスの心情だった。
「さて旅団長殿の許可も出たことだし、いちゃラブする?」
「するわけねぇ!一体なんだってんだこの状況」
「落ち着きなさい准尉、いい?あの旅団長と参謀は子供ってハンデが有りながら良くやってると思う、実際参謀本部やうちの憲兵隊司令部相手にあのいい加減な命令書を盾にして、可能な限り最大限の支援を要請している、もう一個師団級の物資をね」
「一個師団!?そりゃ分捕りすぎだろう?」
「それでも!彼女達はそれを要請していて、便宜上命令書に従う限り、参謀本部も憲兵隊司令部も援助しなけりゃならない、これはあっち側の連中も予想してなかった事態よ」
「あっち側ね」
 参謀本部の半分以上を牛耳るポーランド合衆国政府の意向を反映させている種族たち。犠牲の羊にする予定が、このままだと羊ではなく獅子になりかねない勢いなのだ。黒の家は周辺の地方部隊を招集し、その指揮下に収める事もやり始めている。困惑して呼応している部隊はまだ居ないが、命令系統的には従う義務はある。
 もしミュンヘン周辺の地方部隊、及びハンガリー同盟との国境線に張り付いている警備師団まで取り込んだとすると、ドイツ連邦最大の軍閥が生まれてしまう可能性が出てきている。
「今はそこまで読んでいるのは極々一部の幹部だけだけどうちの司令官は気づいているし、そのうち皆が気付く、その時この旅団をどうするのか?あんたも決めておきなさいよ」
「シルバー少尉、搬入の指示をお願いしま~す」
「あ~はいはい、弾薬なんだから丁寧に、暴発させたり湿っぽいところは駄目だからね、じゃあ私は行くけど、基本憲兵隊司令は今回の事態をネガティブには思考していない、どちらかと言うとこの喜劇を楽しく観劇していると言った所、お手並み拝見ってね」
「ああ、まだどうなるかなんてわからないしな」
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