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01:見習祓魔師、黒羽アキラ
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黒羽アキラは夜を片付ける。
渋谷の雑踏が眠りにつく頃、ネオンの隙間に“それ”は湧く。
人の後悔、嫉妬、未練――感情の澱が、形を持ったもの。
「……はあ。罰として人間やってる身に、残業は重いんだがな」
黒羽アキラはそう呟き、コンビニの自動ドアから出た。年齢は二十歳。黒髪に眠そうな目、どこにでもいそうな日本人男性――表向きは。
名刺にはこう書いてある。
怪異対策コンサルタント 黒羽アキラ
実態は、夜の街に沸く悪霊処理班。
そして彼自身、かつては数千の悪霊を束ねた“レギオン”だった。
「ねえアキラ、まだ? もう感情指数が赤に振り切れてる」
インカム越しに聞こえるのは、相棒の祓魔師・白石ミナトの声だ。
生真面目で融通が利かないが、腕は確か。アキラの監視役でもある。
「分かってる。今、現場に着いた」
路地裏に足を踏み入れた瞬間、空気が変わる。
湿った憎悪の匂い。人型に歪んだ悪霊が、壁にへばりついていた。
『……ユルサナイ……』
「はいはい。気持ちは分かるが、迷惑行為だ」
アキラは軽く手を振る。次の瞬間、彼の影が“増えた”。
無数の黒い羽根が、地面から立ち上がる。
かつてレギオンだった名残――制限付きとはいえ、悪霊を縛る力。
『ギ、ギィ――!』
「安心しろ。祓うだけだ。消滅まではさせない。
……俺が“やられてきた側”だからな」
皮肉混じりの優しさ。
影が悪霊を包み、静かに霧散させる。
「処理完了。封印レベルB」
「早いわね……っていうか、また勝手に能力使ってない?」
「勝手じゃない。“最小限”だ」
インカムの向こうで溜息。その直後、路地の奥から拍手が聞こえた。
「いやあ、相変わらず綺麗な仕事だねえ、元・大悪霊さま」
姿を現したのは、赤い角を隠すフードの男。
悪魔の情報屋・バルド。アキラの“元部下”でもある。
「その呼び方、やめろって言ってるだろ」
「無理無理。だって事実だし。
あ、報酬は例の“呪い付きスマホ”でいい?」
「現代に順応しすぎだ、お前……」
こうして、アキラの夜は過ぎていく。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
翌日の怪異コンサルとしての営業時間。
アキラは小さなオフィスで、企業向けの“怪異対策プレゼン”をしていた。
「――以上が、オフィスに溜まる負の感情への対処法です。
観葉植物と、定期的な雑談を推奨します」
「雑談……ですか?」
「ええ。人間関係、放置すると一番ヤバい怪異になります」
それは経験談だった。元・悪霊レギオンとしての。
クライアントが帰った後、ミナトが腕を組む。
「……意外と真面目に働いてるのね」
「罰だからな。
“人を守れ”。それが条件だ」
受肉した時、祓魔師から言い渡された“罰”。
悪霊として犯した罪を、人間として償えという命令。
「でもさ」
ミナトがふと笑う。
「あなた、楽しんでない?」
アキラは一瞬だけ黙り、窓の外を見る。
夕暮れの東京。人の営みが、眩しい。
「……まあな。
悪霊だった頃より、退屈はしない」
その夜も、街に影が生まれる。
アキラはコートを羽織り、インカムを付けた。
「怪異対策コンサル、出動する」
元・悪霊レギオン。
現・見習祓魔師。
黒羽アキラは今日も、
夜の街を――少しだけマシな場所にするため、働くのだった。
渋谷の雑踏が眠りにつく頃、ネオンの隙間に“それ”は湧く。
人の後悔、嫉妬、未練――感情の澱が、形を持ったもの。
「……はあ。罰として人間やってる身に、残業は重いんだがな」
黒羽アキラはそう呟き、コンビニの自動ドアから出た。年齢は二十歳。黒髪に眠そうな目、どこにでもいそうな日本人男性――表向きは。
名刺にはこう書いてある。
怪異対策コンサルタント 黒羽アキラ
実態は、夜の街に沸く悪霊処理班。
そして彼自身、かつては数千の悪霊を束ねた“レギオン”だった。
「ねえアキラ、まだ? もう感情指数が赤に振り切れてる」
インカム越しに聞こえるのは、相棒の祓魔師・白石ミナトの声だ。
生真面目で融通が利かないが、腕は確か。アキラの監視役でもある。
「分かってる。今、現場に着いた」
路地裏に足を踏み入れた瞬間、空気が変わる。
湿った憎悪の匂い。人型に歪んだ悪霊が、壁にへばりついていた。
『……ユルサナイ……』
「はいはい。気持ちは分かるが、迷惑行為だ」
アキラは軽く手を振る。次の瞬間、彼の影が“増えた”。
無数の黒い羽根が、地面から立ち上がる。
かつてレギオンだった名残――制限付きとはいえ、悪霊を縛る力。
『ギ、ギィ――!』
「安心しろ。祓うだけだ。消滅まではさせない。
……俺が“やられてきた側”だからな」
皮肉混じりの優しさ。
影が悪霊を包み、静かに霧散させる。
「処理完了。封印レベルB」
「早いわね……っていうか、また勝手に能力使ってない?」
「勝手じゃない。“最小限”だ」
インカムの向こうで溜息。その直後、路地の奥から拍手が聞こえた。
「いやあ、相変わらず綺麗な仕事だねえ、元・大悪霊さま」
姿を現したのは、赤い角を隠すフードの男。
悪魔の情報屋・バルド。アキラの“元部下”でもある。
「その呼び方、やめろって言ってるだろ」
「無理無理。だって事実だし。
あ、報酬は例の“呪い付きスマホ”でいい?」
「現代に順応しすぎだ、お前……」
こうして、アキラの夜は過ぎていく。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
翌日の怪異コンサルとしての営業時間。
アキラは小さなオフィスで、企業向けの“怪異対策プレゼン”をしていた。
「――以上が、オフィスに溜まる負の感情への対処法です。
観葉植物と、定期的な雑談を推奨します」
「雑談……ですか?」
「ええ。人間関係、放置すると一番ヤバい怪異になります」
それは経験談だった。元・悪霊レギオンとしての。
クライアントが帰った後、ミナトが腕を組む。
「……意外と真面目に働いてるのね」
「罰だからな。
“人を守れ”。それが条件だ」
受肉した時、祓魔師から言い渡された“罰”。
悪霊として犯した罪を、人間として償えという命令。
「でもさ」
ミナトがふと笑う。
「あなた、楽しんでない?」
アキラは一瞬だけ黙り、窓の外を見る。
夕暮れの東京。人の営みが、眩しい。
「……まあな。
悪霊だった頃より、退屈はしない」
その夜も、街に影が生まれる。
アキラはコートを羽織り、インカムを付けた。
「怪異対策コンサル、出動する」
元・悪霊レギオン。
現・見習祓魔師。
黒羽アキラは今日も、
夜の街を――少しだけマシな場所にするため、働くのだった。
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