元悪霊レギオンの見習祓魔師

たま3

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02:悪霊レギオン、滅びの夜

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 まだ彼が名前を持たなかった頃。
 人の言葉を使うなら、“悪霊レギオン”と呼ばれていた存在。

 闇そのものが、彼だった。

 都市の地下、廃棄された宗教施設。そこを巣に、無数の悪霊が跪く。

「ねえ、そろそろ飽きたわ」

 艶やかな声が、闇を切り裂いた。
 黒曜石の柱に腰掛けているのは、悪魔・ヤクシニー。

 長い黒髪、妖艶な笑み。血と欲望を糧にする上級悪魔。

「人間の街、壊すだけじゃつまらないじゃない?」

「……壊しているつもりはない」

 レギオンは答えた。声は重なり、複数で一つ。

「人間が勝手に壊れていくだけだ」

 怒り、恐怖、絶望。
 それらが溜まる場所に、彼らは“現れる”。
 ただそれだけのこと。

「相変わらず理屈っぽいのね」

 ヤクシニーは笑い、指を鳴らす。
 次の瞬間、都市の一角で悲鳴が上がった。

「ほら。始まったわよ」

 感情が爆発し、悪霊が増殖する。
 レギオンの配下たちが、歓喜のざわめきを上げた。

 ――この夜までは、それが日常だった。

 異変は、静かに始まった。

「……消えた?」

 配下の一体が、唐突に“いなくなった”。
 祓われた感触。だが、神気が薄い。

「祓魔師?」

 ヤクシニーが眉をひそめる。

「妙ね。結界も術式も、ほとんど感じない」

 次の瞬間。

 空間が、裏返った。

 音が消え、闇が凍る。
 そして――誰かが、そこに“立っていた”。

 性別不明。
 年齢不明。
 顔すら、認識できない。

 ただ、人の形をした“何か”。

「――――」

 声は聞こえない。
 だが、意思だけが叩きつけられる。

 ″裁定″する。

 レギオンの配下たちが、一斉に崩れ落ちた。祓われたのではない。存在を分解された。

「……っ、なに、あれ……!」

 ヤクシニーが初めて、焦りを見せる。

「レギオン、アレは――」

「分かっている」

 レギオンは前に出る。闇が収束し、巨大な影となる。

「我が名は――」

 名乗ろうとした瞬間、否定が走った。

 名を持つことすら、許されない。存在の根幹を、直接削られる感覚。

「……なるほど」

 レギオンは笑った。
 それは初めて、自我から生まれた感情。

「“罰する者”か」

 謎の祓魔師は、ゆっくりと手を上げる。
 術式も、呪文もない。

 ただ、世界がそうなる。

 レギオンの半身が、消滅した。

「――ッ!!」

 数千の悪霊が、悲鳴と共に消える。
 それでも、レギオンは立っていた。

「ヤクシニー」

「なによ!」

「逃げろ」

「……は?」

「これは、勝てる相手ではない」

 一瞬の沈黙。
 そして、ヤクシニーは歯を噛みしめた。

「……借り、作ったわね」

 彼女は空間を裂き、退路を作る。

「死なないで。
 あんた、嫌いじゃなかったんだから」

「それは光栄だ」

 次の瞬間、ヤクシニーは姿を消した。

 レギオンと、謎の祓魔師。
 世界は、二つの異物を拒絶する。

「――――」

 無言の裁定。
 レギオンは、最後の力で抗った。

 闇が砕け、影が散る。

「……なるほど」

 崩れ落ちながら、レギオンは理解した。

「滅ぼすのではない。
 作り替えるつもりか」

 祓魔師の手が、彼に触れた。

 その瞬間、レギオンは“分割”された。
 罪、力、記憶、衝動。

 そして――

 人として、生きろ。

 声なき命令。

 闇が、白に塗り替えられる。

 次に意識を取り戻した時。
 彼は、二十歳の日本人男性として、地面に倒れていた。

 名前も、居場所もない。

 ただ、胸の奥に残る感覚。そして胸の痛み。

――彼女は逃げ切れたのだろうか。
――突如現れ、裁定した祓魔師。
――そして、奪われた闇。

 それが、黒羽アキラの始まりだった。
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