Core:s~Last Record~

りょか茶

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第一話

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 ――全ては約700年前、この世に星が降り注いだことから始まる。当時の事を記した書物によるとまるで世界の終わりが訪れるのではと錯覚するほどの絶景だったそうだ。
 それから少しして後に魔物と呼ばれる異形の怪物が姿を現した。その怪物はまさしく人々が想像上で作り出し、畏怖していた存在そのものであった。人々は異形の怪物に対抗する術を有しておらず、半年と経たないうちにこの世は魑魅魍魎が支配する混沌と化した。
 その圧倒的な暴力の前に人類が滅亡するのも時間の問題と思われていた時、各地で魔物に対抗できる持つ者が現れ始めた。彼らは団結し、魔物という強大な敵に挑んだ。熾烈な戦いの最中も力を持つ者が増え続けていた。しかし、倒せど倒せど無尽蔵に湧き出てくる魔物に戦線がいつ崩壊してもおかしくないと悟り、彼らは生存区域を当時、施設が整っていた八都市に絞るという決断を下した。これにより戦線の数は大きく減少し、戦線の崩壊は免れ、各都市は平穏を手に入れることが出来た。魔物の確認から約280年後の事である。

 それから長い月日が流れ、183年に各都市に存在した魔物に対抗する組織を統合し、現在『魔害対策組織 Core:s』と呼ばれる組織が誕生した。当時問題視されていた都市毎の戦力の格差を解消し、各都市を繋ぐ交通路の確保や組織の技術を利用した一般的な製品の開発など都市生活の改善にも貢献している。組織が設立されてからというもの、魔物による被害は最小限に留まっており、人々は平穏に都市生活を過ごすことが出来ている。


 パタン。本を閉じ、車の中から外を眺める。車には乗りなれないせいか妙に心が落ち着かない。

 ぼうっと外の景色を眺めていると肩を叩かれる。振り向くとそこには緑髪の少女が居た。

「あ、驚かせてごめん。もしかして君もCosの試験受けにいくの?」

 CosというのはCore:sの略称で、今日はCosの入隊試験日。この少女はとても受験者には見えないけど…。

「そうだけど…君ってことは…?」
「うん!実は私もなんだよね。えへへ…。」

 彼女は恥ずかしそうに俯く。

 どうみても15歳くらいにしか見えないけどその年齢で試験受けるってことは相当な実力者ってことか…?

 彼女の年齢に疑問をもっていると何か勘付いたのか不服そうな顔でこちらを見てくる。

「私のこと子供みたいだなって思ったでしょ、今!」
「え!?そんなことないけど…。」
「絶対嘘!図星って顔してたもん!」
「いや、してないって!」
「してたよ!絶対~!」

 そんな分かりやすく顔に出てたかと思いつつ否定する。両方とも変な意地を張ったせいか少しずつ声が大きくなっていく。

◇◇◇

「む~。いい加減認めたらどう~?」
「本当に思ってないって…少ししか…。」

 このまま続けても埒が明かないと思ったので本当のことを打ち明けることにした。

「思ってたんじゃんやっぱ!?」 
「本当に「…お客様、車内ではお静かに。」…すいません…。」」

 言葉を返そうと思ったらスタッフの人が現れて注意されてしまった。少し騒がしくしてしまった。同乗者の人たちにも頭を下げる。

「怒られちゃったじゃん…君が認めないからだよ~?」
「俺のせいなの?」
「ごめんごめん。冗談だって。いや~ちょっと緊張してたんだけど君と話してたら和らいだ~ありがとね。」

 ニコっと笑みを浮かべる。
 そう言われると確かに先ほどまでより心が落ち着いているように感じる。俺もかなり緊張してたみたいだ。

「こちらこそ。あ、自己紹介まだしてなかったね。俺は木月 灯夜きづき とうやよろしく。」
「私は四十万 風香しじま ふうか。あ、子供っぽく見られやすいけど私17歳だからね!?」

 ぐいっと顔を近づけて念押ししてくる。
 一個下か…言われれば17歳に見えなくもないかな…?

「また疑ってる~。全く…私のどこがそんなに子供っぽく見えるのかな…。」

 四十万さんはしゅんとし、俯きながら考え始めた。
 少しすると何かひらめいたのか顔を勢いよく上げる。

「木月君は私のどこが子供っぽく見えると思う!?」

 今度はキラキラとした視線でこちらの回答を心待ちにしている。

 そのコロコロと変わる表情と仕草かなぁ…と過りはしたが、出会って間もない人間が言っていいものか悩んだためやめておくことにする。

「…子供っぽく見えること悪いことだと思ってるみたいだけどいいんじゃないかな。親しみやすいし、なにより四十万さんの魅力の一つだと思うよ。」

 実際、四十万さんと話していて親しみやすさは感じたし、初対面の相手にここまで感じさせるのは凄い魅力だと思った。
 四十万さんは思ってたのと違う答えだったからかきょとんとしている。

「うーん…子供っぽく見えるのが魅力…魅力…?魅力…!魅力!うん!私の魅力!ってあれ?なんか違うような…まあいっか!子供っぽく見えるのも私の魅力だから、ね!木月君♪」

 四十万さんは納得したようで満足げに鼻歌を始めた。俺も一安心と思って、息をつく。視線を正面に移すと見覚えのある制服を着た人物が佇んでいた。――さっきのスタッフさんだ。

「お客様、車内ではお静かに。」
「「すみません…。」」

 再び注意されてしまった。もう一度車内に居る人たちへ頭を下げる。
 気をつけねば、と思った時、四十万さんが肩をちょんちょんと突き、振り返った俺に対して耳打ちしてくる。

「また怒られちゃったね。」

 えへへ、と笑みを浮かべながら頬を掻く四十万さんに釣られ、ふふっと笑みがこぼれる。そこには先ほどまで確かに感じていた不安や緊張はなく、ただ穏やかな時間が流れていた。
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