誰かが尾鰭をつけたがった話

片喰 一歌

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時忘れの海

組織の名

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『かっこいい! 武力衝突もなくはなかったんだろうけど、ざっくり言えば自分たちの頭脳で地位を勝ち取ったってことだよね。でもさでもさ、気になったんだけど、なんかイケてる名前とかついてないの? あったら知りたいんだけど!』
 
 地位……については誤解を生じてしまったようじゃから、あとで訂正を加えるが、組織名はもちろんあるぞ。名付けは重要じゃからな。方向性を決定付けるうえで欠かすことのできぬものじゃ。

 しかし、名称自体は目新しいものではないのではないかと思う。ある意味、期待外れかもしれん。

『……というと?』

 ――――『』の名は、以前にも耳にしたことがあるのではないか?

 それこそが海の世界でも指折りの頭脳を誇る者が集う組織の名称よ。

『あー!! はいはい、何回か聞いたことある! 強そうでかっこいいし、権力も持ってそうだなって思ってたから、印象に残ってるよ。あと、めちゃくちゃ頭よさそう。“インテリマーメイドの集い”的な感じなのかな?』

 くく。そうじゃな。インテリマーメイド、よい響きじゃ。気に入ったぞ。

『そっか~。なるほどね……。組織名だとは思わなかったな……!』
 
 ……しかし、残念ながら、あの子らの地位はさほど高くない。『深海の権威』なる呼称も、時に蔑称じみた意味を帯びることもある。
 
 元より求めもせんかったくせに。よりよい世界を築くために、独自の研究成果を無償で共有しようとした善意を踏み躙ったくせに。
 
 やむにやまれず、仲間同士身を寄せ合っていただけだというに、あの子らは『知識を独占している』などと言われて、ほんに不憫なことじゃ……。いまとなっては、何名生き残りがおるか……。

『……なにかあったの? 元々、そこまで大所帯ってわけでもなさそうだけど』

 うむ。その推測は正しい。海の世界では記録媒体が限られてくるということもあってか、陸の世界ほど勉学や研究が盛んではないのじゃ。

 統計を取ったわけではないが、識字率や頭脳レベルなども大きく劣っていることじゃろう。

『ちょっと待って。……ってことは、せっかく学んでも忘れちゃったら無意味だから、元々の記憶容量が多いみたいな適正のある人魚じゃないと、学習することに対するハードルが高い…………みたいなことになってこない?』

 そうじゃそうじゃ。そのとおりじゃ。
 
 教える側は当然、何日分、何クラス分、何科目分もの授業内容を難なく頭に叩き込めるポテンシャルのある人魚じゃから、簡単な記憶も保持できん生徒への理解が及ばぬ。

『そりゃ勉強する気が起きなくても仕方ないな。自分は学校の授業とかも楽しんでたほうだけど、先生たちが個人のレベルに合わせて説明を変えたり足したりしてくれてたからなんじゃないかと思ってるんだ。たぶんノートテイクが趣味だったのも無関係じゃないだろうし、ちょっと同情する。学ぶことを好きになるきっかけが少ないよ。門戸が狭い』

 然り。そういうわけで、知識を求める人魚の総数はずっと横ばいでな。著しい人魚口増加の起こったときでさえ、大きな変動は見られなかった。

『え? そうなんだ? てっきり、なにかがきっかけで――――。たとえば、カリスマ性の高い研究者の呼びかけで研究ブームみたいなことが起こって、急速にインテリマーメイドが増えて。そのことに危機感をおぼえた偉い人魚が虐殺とかの手段に訴えたのかなって思ったんだけど……。ほら。一般市民が賢いと、不都合を感じる為政者は少なくないでしょ? ……さすがに妄想が行き過ぎてたか~』

 いや、そなたの推測は部分的には正鵠を射ておる。わらわの示したわずかなヒントからそこまで見切ったとなれば、たいしたものよ。
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