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鶯音を入る
第六十五夜
しおりを挟む「…………と、まぁ……出来るだけ悲観的にシミュレーションしてみましたけど、勿論これは未来予知でも何でもありませんから、この通りになるとは限りません。確率で言ったら、こうならない可能性の方が高いです。子ども育てるにしろ育てないにしろ、今の所、私は紅さんと人生共にする覚悟しかありませんから、そんな不安そうにしなくて大丈夫ですよ。……ほら、笑ってください。我が愛しの女王様?」
一歩遅れてついてきた女王様と横並びになり、笑い掛ける。
盗み見た彼女は、唇を結んで考え込んでいるようだった。
「紅さんの可愛い子達は、私達以上に幸せで安全な環境で育ててあげなくちゃいけません。子どもは誰の子でも目一杯愛情かけられて、大切に育てられるべきでしょう? 紅さんの子だって、そうですよ。人間とかヒュモスとか、関係ないですよ。……というか、私としては、もう生まなくても良いんじゃないかとすら思ってますけどね。十分、貢献してきた筈じゃないですか。本当なら、何人あの家にいる筈だったかまでは、私にはわかりませんけど」
話がひと段落した時、視界の隅で何かが揺らめいたのを捉えた。
それが彼女の手だという事も、今までに生んだ子の人数を数えているのだという事も考えるまでもなくわかったので、直視しないよう首を前に向けた。
「……『一生のうちに、これだけ生まなきゃならない』みたいなノルマとかも、もしかしたらあるのかもしれませんけど……そういうのって、対象になってる人の身体蔑ろにした机上の空論的数値とか、健康で体力ある人を基準にした最大値だったりするじゃないですか。週五日八時間労働が基準かつ最低値かつスタンダードとして扱われてるのと同じ。社会全体を円滑に回すために個人が犠牲にされる。実質奴隷ですよ。やり甲斐とか世間体とかに付け入ってのさばってるだけのクソどうしようもない基準。ねえ、紅さん…………。そんなに子育てしたいですか? 私だけじゃ、ダメですか? 私の事、子どもの分も可愛がってくれたら良いじゃないですか……」
「………………嫉妬?」
「…………そう、かもしれません。好きな人が自分以外と子ども作ってるの黙って見てるしかないの、ちょっと厳しいですもん。まあ、これも私の感覚なんで、他の人がどう感じるかはわかりませんけど。……でも、一定以上の人間は、私と似たような感覚持ってるんじゃないかなと思います。浮気常習犯の男が、相手の女が浮気するのは許さないとかよくありますけど、深掘りして行ったら、そういう心理に行き着くんじゃないですかね? 直接確認した訳じゃありませんし、推測の域は出ませんけど」
「……そうだね。アタシも、翠が妊娠したら複雑。……多分、嫌。すごく悲しいし、苦しくなる」
凛とした印象の眉が垂れているのも、フサフサを通り越してバサバサの睫毛が影を落としているのも、何もかもが美しいのに悲しくて、今にも傘を取り落としそうな手を上からぎゅっと握った。
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