モヒート・モスキート・モヒート

片喰 一歌

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鶯音を入る

第七十五夜

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「……紅さん。お揃いの服の話、覚えてます?」

 奇跡的に損傷はなかったものの『いつ投げるかわからなくて危なっかしいから、アタシが持つ』と取り上げられてしまった日傘の下で、話を振った。

「ん。忘れられない。嬉しすぎて」

 彼女は前方に目を向けつつ、首を傾けて近くで声を聴かせてくれた。

 その時、脳内に何故か『結婚』の二文字が浮かび上がった。

(……出来もしない事を……。でも、成人式出ないで写真だけ撮るみたいな事も、珍しくないし…………。今すぐ結婚……は無理でも、結婚にまつわるイベント的な部分なら、再現出来なくもないかも。願望なんてないと思ってたのに、今になって、自分がどれだけ恵まれてたかわかるとか。私みたいに男が好きな女とか、私が好きになってきた男みたいに女が好きな男……ってだけで、当たり前に結婚出来る権利が与えられてて、それ以外の人は、どんなに愛し合ってても結婚出来ないとか、おかしいよね。世間の目だけじゃない。して初めて出来る事、沢山あるし)

「どこで買う?」

 天真爛漫そのものの彼女の方から、聞き慣れないメロディが流れて来る。
 
(…………けど。わかってても、やっぱり興味持てないなあ……。メリットにしろ、デメリットにしろ、ヒュモスの紅さんには関係ないと思うし。私は、紅さんが私の前から消えない理由を構築出来れば良くて、そのために結婚が必要かって言われると、全然そんな事ないし。…………でも、ドレスは良いな。私は着なくて良いけど、紅さんには着てほしい。ドレスは着慣れてるだろうけど、いつも袖通してるのとは真逆の系統だろうし、私は紅さんがドレス着てる所、まだ見た事ないし。…………ドレス? それなら、お揃いのドレスをオーダーメイドして、ウェディングフォト擬きを撮影するのは? 紅さん、あれで意外と譲らない所は譲ってくれないから、『翠が着ないなら、アタシも着ない』とか言いそうだし)

 天才的な閃きが通り過ぎてしまう前に、首根っこを捕まえた。
 
「あの、紅さん!! …………せっかくですし、思い切って作っちゃいません? 完全オーダーメイドの服! それなら、合わないなんて最初からありえません。サイズも、デザインも、私達の思うままです!! ピアスにも合うようにして! ……既製品買うより高く付いちゃいますし、同じ金額で何着服買えたんだって思っちゃうかもしれませんけど……一から自分達で作る記念品、みたいな物が一つ位はあっても良いんじゃないですかね?」

「それ、すごく良い」

 もじもじ、どぎまぎしながらアイディアを口にし、彼女に意見を求めた所、目に見えて足取りが軽くなった。殆どスキップと言って良い。かなりの好感触だ。

「それで…………騙し討ちみたいになっちゃうんですけど…………その、お揃いの服、普通の服……じゃなくて……。オーダーメイドのウェディングドレスにして、ウェディングフォト……っぽいもの? を撮るのはどうかな、みたいな事も考えたんですけど…………」

 その返事に勇気を貰った私は、緊張しすぎているのか、水分が失われているのか、急速に渇いていく喉を開き、計画の全貌を明らかにした。
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