モヒート・モスキート・モヒート

片喰 一歌

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駒繋

第十四夜

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「わかる。飲みたい時、手元にないのが嫌。喉湿らす……とかじゃ足りないし。ごくごく飲みたい。中ジョッキ位は欲しい。最低でも」

 彼女が顔の高さで振る容器は、下の方に着色されたわずかな水滴を残すのみとなっていた。

(麦茶、一瞬で消えてる。…………このサイズじゃ、私も似たような感じだけど。お酒はちゃんとおつまみ挟んで、チェイサーとかお水と一緒にちびちび飲んでるの、すごい『紅さん!』って感じ。テキーラ入ってるグラスと同じ位、ペットボトルも似合うのは新しい発見だな。もっと大きいのなら、もっと似合ってただろうな)

 紅さんがアイドルでグッズを作るときに意見を出す権利がもしあったなら、ペットボトル型のペンライトを提案してみてほしいなんて思った。

 手に持てる形のアイテムを模したペンライトなんて星の数ほどあるだろうから、既に何番煎じかわからないくらいありふれたデザインかもしれないが。

「そうなんですよ! 『飲みたい』って思ったら、即飲めるのが理想ですよね。本当はちびちび飲むべきらしいってわかってても、グイッて飲み干したいです。じゃないと、飲んだ気しませんし。水分補給がネックで出歩きたくないなあって思っちゃいますよね、夏場…………特に、最高気温が三十五度超えるのが当たり前になってからは。昔はもっと、色んなところに行ってた筈なんですけどね。休みの日は、昼間から」

「そっか」
 
「はい。最近は、それで誘い断る事とかもあって。でも、なかなか同士に出会えなくて。……というか、喉って渇いた時には既に脱水し始めてるって事、知らない人も案外多いんですかね?」

「『喉は、二時間前から潤さないと意味ない』……よりは、知られてるんじゃない?」

 ペットボトルを持ったまま、指を二本立てる事が出来るのは、彼女が器用だからか。

 それとも、彼女の手が恵まれた体躯に見合うサイズだからだろうか。

「…………え、そうなんですか? 二時間? 何ですか、そのタイムラグ。結構、時間食うんですね。……いや、でも、リアルタイムに反映される方が怖い気もしますね。……なるほど……。残念ながら、私がライブに出演する予定はありませんけど、カラオケ必勝法として覚えておきます。マダム・ルージュ直々にテクニック教わった人なんて……いえ、ファンなんて、そうそういないでしょう? 自慢出来ちゃいますね!」
 
「…………誰でも知ってる、その位。それより、何年か前から……小さい水筒? よく見るけど、あれで足りるの? ……って思う。アタシなら、一口分。量的に、どの位入るのかな。このペットより少なそう」

「わかりますわかります、めちゃくちゃよくわかります。一日に飲む水の量って、人によってかなり開きあるとは思うんですけど、こうも暑いと心配ですよね。職場にもいるんですよ、水分明らかに足りてない人。一日に五百ミリペットボトル一本しか空かないとか聞くと、本当に心配で。夏の間位は、普段より多く飲んでほしいと思っちゃいます」

 照れたように顔を背けてペットボトルをシェイクした彼女を見ていたら、潤したばかりの喉が急速に渇いていった。

 私の喉の構成物質がセルロースにでもなってしまった気分だ。

(…………ああ、そこまで好きになってたんだ、私)

 私はこの異常な喉の渇きが実際の喉の渇きとは関係がない事を、本能的に察知していた。
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