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竜舌蘭
第十六夜
しおりを挟む「じゃ、アタシと付き合って」
生まれては消えるグラスの中の気泡を追っていた虚ろな目を、ぱち……ぱち……と緩慢に開閉する。
『付き合う』って、どういう意味だったっけ。
「は…………。えええ!?」
咄嗟に『はい』と答えようとしてしまったのは、いつものように深く考えていなかったせいか。
――――あるいは、無意識下の願望が邪魔な理性を押しのけて顔を出してしまったか。
背筋を伸ばして店内を見回したが、誰もこちらを気にしてはいない。
危惧していたよりは大きな声を上げずに済んだようだ。
「なんだ、『はい』かと思ったのに」
文句の一つでもつけてやろうかと思い、普段と変わらないテンションの彼女を見たら、意外や意外、ぶすくれた顔をしているではないか。
「言いかけましたよ。実際……」
よく冷えた店内で冷たいお酒を飲んでいるにも拘らず、額に滲んだ汗を拭う。
「翠は、浮気したくない人?」
今更すぎる質問に違和感をおぼえたが、そういえば彼女に語った恋愛事情は一部のみで、ダークサイドについてほとんど触れてはいなかった。
流石にここらで打ち明けるべきだろう。
彼女と私が恋愛関係になる可能性は大いにある。
今まで隠してきた醜い本性を明かしても、彼女がたじろがなければの話だが。
「…………いえ、そんな事はないです。というか……」
「ん?」
微笑んだ彼女は、身体ごとこちらを向いてくれた。
うっ、と言葉に詰まる。
ありのままを話せば、彼女は私を嫌うかもしれない。
こんな顔を向けてもらえる事は、今後一切なくなってしまうかもしれない。
しかし――――。
これ以上彼女の前でも取り繕った自分でいたら、嫌われるより先に、私自身が私を見放してしまいそうだった。
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