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金糸梅
第五夜
しおりを挟む「根っからの男好きの筈の私が今好きな人は、女性の紅さんだからです。最初から回りくどい事とか変なボディタッチとかなしで、ド直球に誘ってくれましたよね。なのに、私は『女性だから』ってだけで随分尻込みしちゃって……あの時は本当にすみませんでした」
思えば、インパクトのある出会いだったなあ、と数週間前の夜を追想する。
「話、聞こうとしてくれただけで、嬉しかったよ? 翠、一人でお酒飲んでる時も、難しい顔してた。で、たまに眉間の皺取れたと思ったら、スマホ出して、すごい速さで何か打ち込んでた。企画案とか、考えてたんじゃない? 時間なさそうだったから、話聞いてもらえなくても当然って、ダメ元で声掛けたから」
彼女もあの夜の事を思い出しているのだろう。
視線は珍しく私ではなく、左上を向いていた。
「……そんなとこまで見てくれてたんですね。ねえ、紅さん。私は貴女のどこを一番好きか、わかりますか?」
「どこだろ。声とか?」
珍しく上がった語尾が可愛らしい。
面倒な彼女のような質問にも、彼女は快く答えてくれた。
「そうですね。話し掛けられる前から、美人だし良い声の人だなあと思ってましたし、確かに好きです。声も。でも、一番は……紅さん。私は貴女の考え方を好きになったんです。色んな事話して、貴女がどういう人なのか知っていく過程で、これまで気にも留めてなかった現実を色々思い知らされたっていうか……いや、なんかこの言い方だと誤解がありそうですね」
「そう?」
「ええ。だから、言い直します。紅さんが気付かせてくれたんですよ。私が人を性別でしか見てなかったって事に」
初めにこの部屋を訪れてからというもの、私は一度も男に抱かれていなかった。
排泄のための二つの穴の間の穴は、その間ずっと満たされていないという訳だ。
にも拘らず、以前に比べてストレスを感じにくくなったし、毎日が楽しくなった。
それが彼女のお陰でない筈がない。
「……そういうのも、ある程度は仕方ないと思う。『どんな人も恋愛対象は異性』みたいな思い込み持ってる人、いっぱいいるし。前よりは同性同士の恋愛モノも大っぴらに発表されるようになったけど、多いって言えるほどの数じゃないし。『同性同士の恋愛』ってだけで話題になる時点でお察し。なんか、変な宗教みたい」
笑い飛ばす彼女の語尾は、寂しそうに溶けていった。
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