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鶯音を入る
第三夜
しおりを挟む「言いにくい事なのかもしれません。言いたくない事だって可能性もある。だから、ずっと聞かないでいました。……紅さんが話してくれるまで気長に待とうと思ってました」
話しながら注意深く様子を探っているが、今の所、彼女が大きく表情を変えたり、落ち着きなく何かの動作を繰り返したりという事はなかった。
「けど…………もし紅さん一人で完結する問題じゃなくて、私も関わってる事なんだとしたら、私にも知る権利はありますよね?」
言うまでもない事だが、人の数だけ事情がある。
私だって、出来る事ならそういった事には踏み込みたくはない――込み入っていそうなものは特に――のだが、どんなに打ち明けたくない事情でも打ち明けなくてはいけないケースというのも、中には存在しているのではないかと思う。
そして、今回はそのケースに該当するのではないか……というのが私の見解だった。
「そ……だね……」
彼女のこんなに弱々しい返事は、今まで聞いた事がない。
小説を読んでいると出てくる『蚊の鳴くような声』とはきっと今の彼女が出したような声の事を指すのだろう。
「話してくれませんか? 勿論、全部とは言いません。私に関わってる部分だけでも良いんで……」
私の中にある、浮かんでは消え、再浮上の度に強くなっている疑念はこうだった。
――――『彼女はヴァンパイアと呼ばれる怪物なのではないか?』。
「翠に関わってる部分……?」
私は空想上の生き物に詳しい方ではない。
ヴァンパイアに関する知識といえば、『血を吸う』以外に何もない位で――――。
でも、私はこうして生きているし、彼女と過ごし始めて血が足りないと感じるようになった……などという事もない。
それは、仮に彼女がヴァンパイアだったとしても『人間を殺すような食事の仕方はしない』という事を意味しているのではないだろうか。
その特徴は、奇しくも(創作とはいえ)唯一のヴァンパイア知識の仕入れ先である児童書に出てきたバンパイア達と一致していた。
「…………紅さん。貴女はずっと独りで、何を隠して、何に悩んで……。一体、何と戦ってきたんですか……。私、ずっと、貴女の隣にいたじゃないですか…………!」
あの作品のバンパイア達も、人間との関わり方について大いに悩み、時には取り返しのつかない事態を引き起こしてしまうという一幕もあった。
彼女がもしヴァンパイアなる闇の生き物であるのなら、既に悩み苦しんだうえで、あえて『伝えない』という選択肢を取っているのだろう。
それでも、血の提供者たる私には、それ以前に彼女の恋人である私には、教えてくれても良い筈だ。
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