モヒート・モスキート・モヒート

片喰 一歌

文字の大きさ
133 / 226
鶯音を入る

第三夜

しおりを挟む

「言いにくい事なのかもしれません。言いたくない事だって可能性もある。だから、ずっと聞かないでいました。……紅さんが話してくれるまで気長に待とうと思ってました」

 話しながら注意深く様子を探っているが、今の所、彼女が大きく表情を変えたり、落ち着きなく何かの動作を繰り返したりという事はなかった。

「けど…………もし紅さん一人で完結する問題じゃなくて、私も関わってる事なんだとしたら、私にも知る権利はありますよね?」

 言うまでもない事だが、人の数だけ事情がある。

 私だって、出来る事ならそういった事には踏み込みたくはない――込み入っていそうなものは特に――のだが、どんなに打ち明けたくない事情でも打ち明けなくてはいけないケースというのも、中には存在しているのではないかと思う。

 そして、今回はそのケースに該当するのではないか……というのが私の見解だった。

「そ……だね……」

 彼女のこんなに弱々しい返事は、今まで聞いた事がない。

 小説を読んでいると出てくる『』とはきっと今の彼女が出したような声の事を指すのだろう。
 
「話してくれませんか? 勿論、全部とは言いません。私に関わってる部分だけでも良いんで……」

 私の中にある、浮かんでは消え、再浮上の度に強くなっている疑念はこうだった。
 
 ――――『彼女はヴァンパイアと呼ばれる怪物なのではないか?』。

「翠に関わってる部分……?」

 私は空想上の生き物に詳しい方ではない。

 ヴァンパイアに関する知識といえば、『血を吸う』以外に何もない位で――――。

 でも、私はこうして生きているし、彼女と過ごし始めて血が足りないと感じるようになった……などという事もない。

 それは、仮に彼女がヴァンパイアだったとしても『人間を殺すような食事の仕方はしない』という事を意味しているのではないだろうか。
 
 その特徴は、奇しくも(創作とはいえ)唯一のヴァンパイア知識の仕入れ先である児童書に出てきた達と一致していた。

「…………紅さん。貴女はずっと独りで、何を隠して、何に悩んで……。一体、何と戦ってきたんですか……。私、ずっと、貴女の隣にいたじゃないですか…………!」

 あの作品のバンパイア達も、人間との関わり方について大いに悩み、時には取り返しのつかない事態を引き起こしてしまうという一幕もあった。

 彼女がもしヴァンパイアなる闇の生き物であるのなら、既に悩み苦しんだうえで、あえて『伝えない』という選択肢を取っているのだろう。

 それでも、血の提供者たる私には、それ以前に彼女の恋人である私には、教えてくれても良い筈だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

小さくなって寝ている先輩にキスをしようとしたら、バレて逆にキスをされてしまった話

穂鈴 えい
恋愛
ある日の放課後、部室に入ったわたしは、普段しっかりとした先輩が無防備な姿で眠っているのに気がついた。ひっそりと片思いを抱いている先輩にキスがしたくて縮小薬を飲んで100分の1サイズで近づくのだが、途中で気づかれてしまったわたしは、逆に先輩に弄ばれてしまい……。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

処理中です...