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鶯音を入る
第三十八夜
しおりを挟む「それは違う。アタシはいつも、したい事をしたいようにしてる。あと、別に、言葉が全部じゃない。翠も知ってる。でしょ? だから、無理に全部言葉にしようとか、思い詰めなくて良い」
いつもの捻くれた私なら、『はいはい、どうせ私は誰とでも寝てた尻軽ビッチですよ』と思っていた事だろう。そういう意味にしか受け取れなかった筈だ。
しかし、今の私は違う。紅さんの言う非言語的コミュニケーションというのが、『好きなお酒やおつまみを囲んでまったりだらだら過ごす時間』のことを指しているのだという事がすとんと飲み込めた。
私たちはああして『好き』をゆるく共有しながら過ごす事で、かけがえのない安らぎを得ていた。
「ありがとうございます。紅さんはそうでしたね。『したい事はすれば良い』し、『したいだけで立派な理由になる』って教えてくれましたし……。それだけじゃなくて、ずっと一番近くでお手本も見せてくれてますもんね」
「ん。だから、全部翠の好きにしたら良い。ピアス開けなかったからって、アタシの事愛してないなんて、絶対思わないから」
軽やかに笑う彼女の耳たぶに視線を走らせる。
――――先ほどは、この世で最も美しい女王様の一部でありながら、美しくないと思ってしまった人工的な穴。
それと同じ穴を自分の体にもう一度作ったら、美醜に囚われる事はなくなるだろうか。
だって、そうなったら美しいとか醜いとか以前に、お揃いになるから。紅さんとお揃いならきっと、どんなに醜いものでも愛せると思うから。
「…………紅さんは、人は急には変われないって事もわかってるし、今の私は今の私で大切にしてくれてる。……だから、私も出来る範囲で頑張ります。言いたいし、伝えたい……。紅さんには知っててほしいですから、私の気持ち」
大きく息を吸って吐いて、現在、自分の感じている中で最も大きい気持ちを探り当てた。
「大好きです。……ちょっと、今はこの一言で勘弁してもらって……! 本当はこんなもんじゃないんですけど…………!!」
「十分。『値千金』って言うでしょ。翠の赤面付き『大好き』、引き出せる人、この世にアタシしかいないでしょ?」
「……ふふ、すごい自信。その通りですけどね」
指摘されて触れた頬は、確かに熱を持っていた。真夏の昼間にスーツで外を歩き回った後と良い勝負だ。
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