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アフター・アフター・レイン・トーク
アフター・アフター・レイン・トーク<LXXV>
しおりを挟む「……わたしね、ちょうどフレンチトースト食べたいなぁって思ってたところだったんだ。窓華ちゃんのお休みの日の優雅なモーニングルーティーンの話聞いたばっかりで……。君ってほんとにすごいね! わたしのことなんでもわかってて、魔法使いみたい♡」
口を開けて、気持ち大きく切り分けすぎた最初のひと口を頬張った。咥内を見られるのが恥ずかしくて俯き加減になりながら。
「久しぶりのフレンチトーストだぁ……♡♡」
ひと噛みごとに美味と幸福が混ざり合って天上のハーモニーを奏でる。
目を閉じると、まっすぐ伸びた黄金の小麦畑の景色が浮かんできた。あとから追いかけてくるのは、蜜蜂の群れが花の蜜を集めている場面や牛たちが牧場でのびのび過ごしている場面だ。
(不思議だなぁ。彼が作ったものって、なんでどれもすごくおいしいんだろう? 本当に魔法がかかってるみたい……♡ 愛情がこもってるから?)
「…………俺が本当に魔法使いだったら、きみの望むことは全部叶えてあげられたのにね……」
「え?」
物寂しい声が聞こえ、顔を上げる。どこか浮かない表情の彼と見つめ合ったけれど、彼は心の奥には潜らせてはくれない。すぐに笑顔を作って、誤魔化してしまうから。
(わたしにも心配させてほしいのに……。君がなにを考えて、どんなことに悩んでるのかわからないと、励ますこともできないよ……)
順調にフレンチトーストを切り分けていた手が止まる。
「独り言だから、気にしないで。……とりあえず、おしゃべりはこのあとでもできるし、冷めないうちに食べてほしいな?♡♡ ハート壊しちゃうの不吉な感じで嫌かもしれないけど、俺たちならそのくらいのことどうってことないでしょ?♡♡」
彼が視線で指したのは、左上がほんの少し欠けた歪なハートだった。彼が偶然生まれたハート柄のフレンチトーストを『確実に食べてほしい』という理由の下、最後にあたため直してくれたのを、わたしはこっそり見ていた。
(……そういえば、いま食べてるのって偶然ハート模様になった特別なやつだったっけ。ハート崩したくなかったとかじゃなくて、君が元気なさそうなのが気になってたんだけどなぁ。でも、せっかくおいしく食べられるようにしてくれたんだから、あったかいうちに食べないと)
「待ってるうちにピーク過ぎちゃった?」
「…………ううん! 綺麗なハートだったから、もったいなくて。だけど、おいしいうちにいただかないほうがもったいないよね!」
彼もようやくフレンチトーストにナイフを入れ始めたので、ひとまず先ほどのことは忘れて、おいしい食事の続きに戻ることにした。
「おいしい……♡」
舌が蕩けてほっぺが落ちてしまいそうな極上の甘味がふわっと広がり、思わず両頬を覆った。
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