Temptation Invitation

片喰 一歌

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第1幕『半人半蛇(蛇人間)』【華】

第4話『本番前の最後の練習』

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 本当は少し心細くなってきたのを誤魔化したくてしたことだったが、空を覆い尽くす真っ黒い雲のように不安は広がっていく一方だった。

「どうだろう。大勢の人にいっぺんに注目されたことないし。……でも、ドキドキはするかもね。グミちゃんのカラダ見たり触ったりするときのドキドキとは違ってそうだけど。グミちゃんは大丈夫そう?」

「あたしが見られる分には。……でも、女の人達が白夜に惚れちゃいそうなのはちょっとだけ嫌かも」

「お客さんが僕に? …………ないと思うけどなぁ。お客さん達は珍しいもの見たさかグミちゃん目当てじゃないの?」

 上がってきた手は髪を左右に分けて前に垂らし、うなじを撫でた。『下ろしてたら見えないよ』と説き伏せられて、一昨日かその前日あたりに好き放題吸われた場所だ。

「あるよ!!! 白夜は気付いてなかったんだろうけど、出掛けた先でも毎日色んな人に声掛けられてたし、チラチラ見てる人はもっといたし――……! あたしは白夜がモテモテで嬉しかったけど、もやもやしちゃってたよ……」

 視線を感じるたび、声が掛かるたび、失礼ながら顔面チェックをしていたが、正直言ってそれどころではなかった。

(元の顔がどうとかじゃない……。みんなキラキラしてた。認めたくないけど、かわいかった……)
 
 造形そのものではなく内面から滲み出るものに人は惹かれる――なんて言説は嘘っぱちの綺麗事だと決め付けていたが、この一週間で強制的にその固定観念にんしきを書き換えられてしまった。

(好きなオトコの前ではあたしもそれなりに見えるのかもだけど――……)

「どうして?」

「自信ないから。…………白夜があたしを好きになってくれたのって、あたしが白夜に好き好き言ってたのが嬉しかったからなんじゃないか……って、いまでも思ってんの。たまたまあたしが白夜に惚れてアタックした初めての人間だっただけなんじゃないか……って」

「…………最初に僕を『好き』って言ってくれたのがグミちゃん以外の人だったらどうなってたか、知りたい?」

「そんなのわかんの?」

「ううん、僕にもわかんない。けど、その人を好きになってたんじゃないかなぁ。……気持ち悪いって言われ続けてきたから、好きって言ってくれる人はきっとどんな人でも天使みたいに見えたと思うし。……でも、僕を最初に好きになってくれたのはグミちゃんで、僕が好きになった人もグミちゃん。それじゃダメかな?」

 白夜はあたしの頭部を掴み、自分のほうに向かせた。

「…………白夜はずるいね。ダメとか言えないよ、そこまで言われて…………」

 首は寝違えた朝のように痛んだが、暗闇だろうと目を見て話そうとしてくれていることが嬉しかった。

「ずるいのはそっちだし、僕のほうが不安だと思うけど……」

「え? 今なんか言った?」

「ううん、別に。…………色々考えちゃうと思うし、僕にしてあげられることもないけど、もしかしたら特別なことする必要はないのかもね。ここにいれば、どんなに望んでも指一本触れないだれもさわれない。僕と同じ仕切りの中にいるグミちゃん以外はね。団長は言ってなかったけど、そのための仕切りでもあると思うよ。……それでも嫌なら、見せつけてあげたらいいんじゃない? 僕が誰のものかってこと。向こうからもばっちり見えるし、声だってなんにも遮蔽物さえぎるものないみたいに聞こえるし」

 話を続けながらじわじわ距離を詰めてきた白夜の手が、パジャマの下に潜り込んできた。好奇心旺盛な蛇ちゃんさながらの感触にももう随分と慣れてきた。

「声は――――白夜が聞きたいだけじゃないの?♡♡」

「聞かせてくれるよね? 本番前の最後の練習リハーサルしよう?」

「……明日声出なかったら困るから、一回だけだよ……?♡」

 吐息を頼りに口付けて、あとはすべてを彼に委ねた。
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