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第三の試練
第三の試練<10>
「普通のお母さんでも娘が長期間帰って来なかったら心配するし、寂しいだろうし…………。そろそろちょっと顔見せに行ってあげたらどう? それがメインの目的じゃなくたっていいじゃん。どっか行く前なら、引き留められて結局1日潰れた……なんてことにもならないだろうし。俺でよければ、車出すよ? ……というか、俺にも挨拶させて? そしたら、紗世ちゃんが実家帰らない理由もなくなるだろ?」
重要ミッションとは――ずばり『彼女を実家に帰らせること』だ。
彼女の母親は並外れて明るい人だ。彼女だって決して暗くないし、別におとなしいわけでもないけど、彼女が暗くておとなしいコに思えるくらいに。
そんな人が俺に度々泣きついてくるというのは、ただごとではないだろう。
もちろん仏心のみで動いたわけではなく、多少の打算もあったが、痛切な思いに触れ、哀れに思ったのは本当だ。
「千尋くんのこと、紹介していいの?♡♡ 『未来のお婿さんです♡♡』って言っちゃうよ?♡ ……そしたら、逃げれないよ?♡ うちのおかあさん、はちゃめちゃに面食いだし、千尋くんのお顔も私より気に入っちゃうまであるよ?」
「別にいいよ。気に入ってくれるなら万々歳じゃん。逃げるつもりなんてないから。責任取るとかじゃなくて、俺が一生一緒にいたいと思ってるのは、紗世ちゃんだけなんだってば」
「千尋くん……♡♡」
彼女の声が通り抜けた先から鼓膜に砂糖が塗されていくみたいだ。
今、確実にハートを浮かべているであろう2つの瞳を正面から見ることが出来ないのがもどかしい。
「…………でも、ちょっと待って? 千尋くんはどうして私が実家に帰ってないのが、『結婚まだ?』『孫まだ?』って言われるのが嫌だからって知ってるの? 前に話したっけ……? 私、千尋くんには基本何でも話してるけど、その話はした記憶ないよ? 実家帰ってない話はしたの覚えてるけど……」
訝るような声が舞い、続けて視線が頬のあたりに突き刺さる。想定外の展開だ。
「…………あ~っと、それはあれだよ。紗世ちゃんぐらいの年の女の子は、みんなぶち当たる壁というか……降りかかる厄介じゃん?」
紗世ちゃんママと俺が以前から連絡を取っていたことは必ず話すが、今の段階でそれを伝えてしまったらどうなるかは想像に難くない。
俺が本当のことを言っても、全力でフォローをしても、彼女の母親の指示だと決め付けて、下手すると一生実家に顔を出さなくなる危険性が高まってしまう。
最悪の想定をして適当な言い訳をするまでの数秒間は、首元にナイフを突き立てられているようで生きた心地かしなかった。
「あ、そっか。そうだよね。そのくらい話さなくても予想つくよね」
すんなり矛を収めた彼女は、シートに深く掛け直した。
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