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第二話 セーラー服のおじさん達 (後編)
しおりを挟む「さぁ、無事に着いたわ、すぐに三宮行きの電車があるから乗るわよ、ビクビクしてたら余計に怪しまれるから堂々としてなさい!」
「わ、わかりました」
返事をしたものの、初めてセーラー服を着せられた上に、いきなりその恰好で電車に乗せられて堂々とできるわけがない。
そして改札の前に立ったが、これを超えるともう後戻りできないような気がして思わず立ち止まってしまった。
しかし、そんな気持ちとは関係なくおじさんは僕の手を取り付いてくるよう促した。
僕たちは改札をくぐり、ホームに向かう上りのエスカレーターに乗って半ばを過ぎた辺りで、何か不穏な視線を感じたような気がした。
振り返ると僕たちの乗っているエスカレーターの十段下辺りに一人の中年の女性が見開いた眼で僕を凝視していた。
今のこの状況はたしかに善良な一般市民からすれば、変態のおじさんにしか見えないのは否定できない。しかし、そこまで驚いた眼で凝視しなくてもよいのではないか。
するとセーラー服のおじさんが何かに気付いた様子で慌てて僕に注意した。
「ちょっと!あんたなにしてるのよ!」
「え、なんの事ですか?」
おじさんの言ってる意味がわからずすぐに聞きかえした。
「お尻!お尻よ!中見えちゃってるわよ!」
「え!?」
言われてハッとして気付いたが、後ろの女性からの位置だと丁度僕のお尻と袋状のモノが丸見えになっているのだ。
「ご、ごめんなさい!」
「堂々としろとは言ったけど、隠すとこはちゃんと隠しなさいよ!あんたノーパンなんだから!」
そう言って僕の手を取り、走って三宮行の普通列車に飛び乗った。
平日のこの時間の三宮に向かう電車の中は人が少なくまばらだったが、それでもセーラー服を着たおじさんが二人入って来たことで、車内の雰囲気は異様な空気に包まれたような気がした。
「はぁ、わたし疲れちゃった。ちょっと座ろうかしら」
「何言ってるんですか!端っこのドアの方に立ってましょうよ」
「あなたが疲れさせだんでしょ?公園からここまでどんだけ走らせたと思ってるのよ」
そう言って真ん中の席にでんと座った。
「なにもこんなど真ん中の席座らなくていいでしょ?あっちの端っこの席いきましょうよ」
「あそこ優先座席でしょ。わたしまだじじぃじゃないから!」
仕方なく車内の一番目立つ場所に座ることとなったが、やはり落ち着かない。
普段ならこの沿線の車両はオリーブ色のふかふかした高級感のある座席に座れてリッチな気分を味わえるのだが、ノーパンスカートのせいでお尻と太ももに座席の質感がダイレクトに伝わり、より一層落ち着かない気持ちになった。
そしてこの車両の誰もが一度は僕たちを見るのだが、すぐに皆目を逸らせ、思いついたようにスマホを見たり、不必要に景色を眺めたりしている。
目の前の母親に抱っこされた赤ん坊だけが、まじまじと不思議そうに僕たちを見つめていたが、そのうち母親が赤ん坊を視界から入らないように抱え直したので、僕たちを見るものは誰もいなくなった。
各駅停車の列車なのでたまに僕たちの車両にも客は入ってくるのだが、一瞬僕たちを見た後、皆僕たちから離れた場所に座ったり、違う車両に移ったり、僕たちの周りには人のいない空間ができていた。
よくテレビで外国人が公共の席に自分たちが座ると、周りに誰も座りたがらなかったり、離れて行ったりして悲しいと言っていたが、こう言うことなのかなと思うと少し複雑な気持ちになった。
車窓からはきれいな桜並木が見えていたが、もちろんそんな感傷に浸れるわけもなく、各駅停車の列車は僕たちと重い空気を乗せて、のろのろと三宮を目指し走り続けた。
しかし落ち着かない。
「ちょっと!キョロキョロしないの!挙動不審なのよ動きが!普通にしてなさい!」
「いや、全然落ち着かないんですよ……」
「大丈夫よ、あんたが気にしてるほど回りは気にしていないわ」
「そうですかぁ?明らかに変な目で見られてますよ」
そうこうしてる間に列車は馴染みのある風景の場所を走っていて、やがてその速度も緩まってきた。
「もうすぐ着くから問題ないわ。それにしてもこの借りは高くつくわよ」
「ええ?!普通の服ならもう少し感謝出来るんですけど、セーラー服ですよ?!」
「なによ恩知らずね!あの状況から抜けだせただけで十分感謝しなさいよ!」
「それはそうですが……」
「そういや、まだ名前も聞いてなかったわね。あたしはタオ、あなたは?」
「田尾さん……」
「黒澤タオ。下の名前よ」
「あ、すいません。タオさんですね?僕は夢月と言います。」
「むつき……なんて呼べばいい?ニックネームは?」
「いや、特にないです、いつもむつきで呼ばれてたんで……」
「なんか呼びにくいわね、そうね、ム……ム……、ムーン……、うん、ムンちゃんでいいわ!」
「ム、ムンちゃん?!」
この短い道中の付き合いで何故あだ名を付ける必要があるのかと思っていたが質問はまだ続いた。
「不躾なこと聞くけど、平日のあんな場所にいて、あなた定職には就いてないの?」
「いや、実は今ほとんどニートみたいなもんで、たまたま日雇いが入って引っ越しの仕事であそこに派遣されてたんです」
「あら、そうなんだ?今おいくつ?」
「さ、35です……」
「うん、アリね……」
「え?」
「彼女はいるの?」
「いや、大分前に振られてからは……」
「やりたいこととか好きなものとかあるの?」
「いや、なんか夢とか特になくて。休みの日もアニメやアイドルのDVDみたりする程度で……」
「あら良いじゃない」
そう言ってなぜか僕の顔をまじまじと見ていた。
何が良いのかよくわからないが、それ以上特に聞かれることもなかった。
そして地獄のような車内の時間を過ごし、電車はようやく三ノ宮にたどり着いた。
「さあ、着いたわよ」
座席から立ち上がり、ドアの前に立つとその人の多さに驚かされた。
「やっぱめちゃくちゃ人多いじゃないですか~!」
「大丈夫よ、あそこの階段下って南に向かえば10分程で事務所に着くから」
「はい!」
僕は色んな感情が込み上げ泣きそうな声で返事した。
だが階段を下るとき、前方からOL風の女性が上ってきていた。
まず目と目があった。
次に女性は視線を落としていき僕の股間あたりで動きが止まった。
すると女性の顔が見る見るひきつっていき、キャァァァ!という甲高い声が駅構内に響き渡り、そこにいた全ての人達の視線を浴びることになってしまった。
僕は先程の教訓でお尻を隠すことを覚えたが、前を隠す、つまりチ〇コを隠すということをしていなかったのだ。
おじさんが何やってんのよという態度で僕の顔を見た。
「ちょっと!前からチ〇コ見えてるじゃないの!」
「ごめんなさい!」
「ホントいい加減にしてよね!走るわよ!」
「はい!すいません~っ!」
僕はとにかく走った。
無我夢中で走った。
この恰好をしながら鬼の形相で走っていたから、すれ違う人はさぞかし怖い思いをしただろう。
それにあとから考えると、この状態で走ったら見えてはいけないモノが四方から見えていたかもしれない。
だがその時の僕はそんなことを考える余裕など微塵もなかった。
そして体中の酸素を全て使い果たした頃、そこに何が待ち受けているのか分からない雑居ビルにようやくたどり着いたのであった。
二人ともハァハァ息を切らしながら、5階建ての怪しげな建物の古いエレベーターに乗り込み、キシキシと音を立てながらゆっくりと上っていき、やがて4階で止まった。
ドアの横の表札にはクレッセントオフィスとある。
「さあ着いたわよ」
「な、なんですかここ?芸能事務所?」
「まあいいから、まずは入ってゆっくりしなさい」
ドアを開け事務所らしき一室に入ると、そこには3人の人物がいた。
その中でとびきり美しい女性がこちらに向かって歩いてきた。
「あら、おかえりなさい。また財布とスマホ忘れていったでしょ?デスクの上に置きっぱなしですよ」
「そうなのよ。おかげで大変な目にあったんだから。でもね良い収穫もあったのよ。あ、そうだ面接の子来た?」
「いえ、まだです。そろそろ来る頃だと思うんですけど」
女性は穏やかににっこりとほほ笑んでいる。そしてタオさんは僕に紹介しはじめた。
「こちらはシオンちゃん、ここで働いているスタッフの一人よ」
「初めましてシオンです」
「あ、は、初めまして!夢月です」
こんな恰好で自己紹介なんか恥ずかしすぎてしたくなかったのだが、流されるまま挨拶した。
「ムンちゃんて呼んであげてね」
「誰も呼ばないですよ、そんな仇名で」
「よろしくね、ムンちゃん」
「あ、よろしくお願いします……」
「で、あそこのデスクの格好いい子がコムちゃんよ」
「どうも、コムです」
短い髪にマニッシュ、いや男装に近い服装を格好よく着こなしているが、声の感じと少しの胸の膨らみから察するに、この人は女性だろうか?
「そして、あそこに座っているのがアルンちゃんよ。まだ若いんだけど、ちょっと事情があってここで預かっているの」
「こんちゃぁ」
15~16歳くらいの可愛らしい女の子は座っていたソファから振り向いて、そう一言だけ言ってまたテレビを見ながらポテチを頬張っている。
「そして、わたしがここの4階の事務所と3階のカフェを仕切っている社長のタオよ。よろしくね」
この人こんな格好してるけど、社長なんだと当然ながら思ってしまった。
そしてその変態の社長と変態の恰好で連れてこられた僕を前に平然と接している美女達に不思議な空気を感じた。
今までに経験したことのないことをこの数時間で味わい、脳の処理能力は許容範囲を超えていたが、最後におじさんはとどめの一言を放った。
「あなた今日からここで働かない?」
「はい?!」
「あなたアイドルになりなさい!」
目まぐるしい展開と状況に、僕は彼が言ってることをなにも理解できず、脳死状態でただその場に立ち尽くしていた……
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