乙男女じぇねれーしょん

ムラハチ

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第三話 乙男女じぇねれーしょん

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 「あなた、アイドルになりなさい!」

 突然タオさんが訳の分からない事を言い出した。

 「は?!」

 「ね?いいでしょ?!」

 「アイドル?!」

 「そう!アイドル!」

 「僕が?!」

 「うん、あなたが!あたしたちのアイドルグループ、『乙男女おつとめじぇねれーしょん』に入らない?」

 「え?おつとめじぇねれーしょん?な、何言ってるんですか?僕35歳ですよ。それに全然イケメンでもないし……」

 「いや、そういう路線じゃないわよ」

 「え?」

 「その衣装着た時から、ビビビっと来たのよ!あなた本当に可愛いわよ!」

 「こ、この格好でアイドル?!」

 「そうよ!」

 「変態路線……?」

 「誰が変態よ!普段からこの格好してるわたしが変態みたいじゃない!」

 「どっからどう見ても変態じゃないてすか!」

 「違うわよ!これはれっきとした乙男女戦士おつとめせんしの格好よ!」

 「なんですか、おつとめ戦士って?」

 「男女関係なく、乙女心を理解した美少女戦士の事よ。今の時代を象徴した最先端のアイドルなの」

 「び、美少女って一文字もその要素ないですよ!」

 「んもう、失礼な子ね!とにかくあなたはめちゃくちゃ可愛いのよ!自分の可愛いさに気付いてないだけ!」

 「ホントさっきから何言ってるんですか?」

 「いいから、ちょっとお化粧してみましょ?」

 「ち、ちょっと!や、止めてください!何するんですか?!」

 
 その時事務所のドアが開いた。
 
 少しきつめの印象はあるが、髪の長い可愛らしい女の子が立っていた。

 「あの、すみません。今日バイトの面接で……」
 
 そう言いかけたが、僕たちの姿を見て固まった。

 「す、すみません!間違えましたー!」
 
 女の子は慌てふためき一目散に逃げだしてしまった。


 「もしかして、今の子面接の子かしら?」
 
 シオンさんがおっとりした口調でたずねた。

 「ちょっとー、あなたがすっぴんだからびっくりして逃げちゃったじゃないの!」

 「僕のせいじゃないですよ!いや、僕も大概だけど、あなたぶっ飛んでますから!」

 「だからわたしだってお化粧すれば可愛くなるんだから!もうこうなったら嫌でもお化粧してもらうわよ!」
 
 そして僕は蹂躙されてるような感じで、化粧をされる羽目になった。
 

 
 「ほら!思ったとおりよ!女の子は誰だって綺麗になれるんだから」

 「いや、女の子じゃないですから!」

 「鏡で見てごらんなさい」

 「いや、結構です!」

 「もう、しょうがない子ねぇ。あなた意地張ってるけど仕事探してるんでしょ?だったらちょうどいいじゃない?子供がいつま
でもニートだったら親だって悲しいでしょう?」

 「いや、こんな格好してることの方が悲しみますよ!」

 「バレなきゃいいじゃない?!この格好でお化粧してたら逆にバレないわよ!それにアイドルって言っても、いきなり人前に立って歌って踊るわけじゃないのよ。ちゃんと一から鍛えてレッスンしてからだから、ステージに立つのはまだまだ先のことよ」

 「そんなんでどうやって給料出るんですか?!」

 「安心して!このビルの3階がわたしの経営する乙男女《おつとめ》カフェなのよ。そこで接客しながら合間にレッスンすればいいわ」

 「え?もしかしてそのカフェの制服って……」

 「もちろん今着ている衣装よ!」

 「ホント勘弁してくださいよ~」

 「いいじゃないの、無職よりずっとましでしょ?」

 「頑張って就活してる方がましですよ!」

 「それでどれくらい就活してるのよ?」

 「に、二年半くらいですけど……」

 「ほら~、そんなんでこの先どうすんのよ?」

 「どうするって言われても……」

 「あなた助けてやった恩を忘れたの?体験だけでもいいから!ね?!」

 「――……――」
 
 もう返す言葉もみつからなかった。
 

 「ほら、あれ見てみなさい!あなたもいつかあんなキラキラしてるアイドルになれるから!」
 
 そう言うと、アルンちゃんという子が見ているテレビの方に指を差した。
 
 テレビにはアイドルグループの特集番組が流れていた。

 「これってアルスタですよね?」

 「そうよ。今じゃもう国民的アイドルグループよ」

 「なんか急に出てきたかと思ったら、いきなり売れていきましたよね?」

 「そう。メンバーの誕生日がそれぞれ十二星座の一つを担っていて、入れるのは各星座で一人ずつ。その激しい倍率のオーディションを勝ち抜いた十二人で結成されたのがこのグループ、Ultimate STARZアルティメットスターよ」

 「なるほど」

 「そのグループを牽引しているのが、今センターに立っている絶対的エース、伊砂玲於那いさご れおなよ」

 「彼女、単体でもよくテレビで見かけますよね」

 「うん、そしてこのユニットを作り上げたのが、プロデューサーの亀戸汰騎士かめいど たきしよ」

 「なんか仮面被った人ですか?」

 「そう、元々ロックバンドのギタリストで当時まだ二十歳くらいだったかしら。活動はたったの2年で、人気絶頂の時にいきなり解散したかと思ったら、今度は急にアイドルグループを作るって言って、それで出来たのがこのアルスタよ」

 「へぇ、凄い人なんですねー」

 「でも、あいつ絶対性格悪いよ」
 
 テレビを見ていたアルンちゃんが会話に交じってきて一言ぼやいた。

 「そうかしら?見ている限り凄い紳士的だし、仮面取ったら絶対イケメンだと思うわよ」

 「ふん!全然思わない!」
 
 どうやらアルンちゃんには亀戸汰騎士がお気に召さないようだ。

 
 その時事務所のドアがまた開いた。

 今度は40代くらいの身なりの整った眼鏡をかけたインテリっぽい紳士が入って来た。

 「失礼します」

 「あら、今日は早いのね?」

 「はい、仕事が片付いたので、少し早めにアルンさんをお迎えに上がりました」

 「ええ!まだテレビ見てるのにぃ!」

 「お車の中でも見られますよ。」

 「アルンはプリンセスだから大きいテレビで見たいの!」

 「我儘言わないでください」

 「もう!」

 「おや、そちらの方は?」
 
 男は僕に視線を移した。

 「あ、紹介するわ。今日から入った新人のムンちゃんよ。で、こちらが……」

 「初めまして。アルンさんの保護者を務めてる阿久津です」
 
 男はそう名乗った。

「あ、初めまして」
 
 紹介されたが親子って訳ではなさそうだし、保護者の意味がよくわからず戸惑った。

 「それでは私たちはこれで……」

 「はーい、じゃ、また明日ね」
 
 アルンちゃんと阿久津という男は出ていき、事務所を後にした。


 「じゃ、他の子達も紹介するから、下に降りてカフェの方も案内するわね」
 
 僕とタオさんは二人で4階から3階に移動するべくエレベーターに乗り込んだ。

 「あのアルンちゃんって子、お嬢様なんですか?阿久津さんとどういう関係ですか?」

 「んー、実はわたしもよくわかってないのよ。昔の知人に頼まれて断り切れなくて…… あ、降りるわよ」
 
 
 エレベーターの扉が開かれると、目の前に『乙男女カフェ ムーンパレス』と言う看板の掛かったお店があり、タオさんはドアを開けた。
 
 カランコロンと昭和的な音が鳴り、目の前にはカウンターで営業準備をしている男女の姿があった。

 「はーい!みんなお利口さんにしてるわねー。新しく仲間が増えたから紹介するわよ~!」
 
 そう言って僕を紹介し始めた。

 「今日から一緒に活動するムンちゃんよ。色々教えてあげてね」

 「あ、初めまして。む、ムンです……なんか色々あってお世話になることになりました」

 「初めまして、アオです。よろしくお願いします」
 
 まずは女の子が挨拶してくれた。まだ十代だろうか。青色のセーラー服を着た、聡明で透明感のあるとてもきれいなお嬢さんだった。

 「あれ、面接ってもう決まったんすか?」
 
 二十代中盤らしき、気の強そうなイケメンが聞いてきた。

 「面接は訳あって中止よ。この子は先刻会ったばかりで、そのままスカウトしたの」

 「え?普段からそういう格好するんですか?」

 「そ、そんな訳ないじゃないですか~!」」

 「で、こっちが……ってあんたなんで制服着てないのよ!?」

 「別にいいでしょ?客なんて入ってないんだし」
 
 男がぶっきらぼうに答えた。

 「ダメよ!先に着替えてらっしゃい!」

 「わかりましたよ……」
 
 そう言って奥の部屋に消えていった。

 「もう、気を抜いてもらっちゃ困るのよね!」

 
 十分後、先程の部屋から深緑のセーラー服姿の少女が現れた。

 「あら、今日もバッチリかわいいじゃないの」

 「初めまして。ルカです、よろしくね」

 「え!もしかしてさっきの人ですか!?」

 「そうよ、びっくりした?わたしの教えたメイクは完璧なんだから」
 
 先程の男性は見る影もなく完璧な女性となって、というかかなりの美女として僕たちの前に現れ、あまりの変身ぶりに言葉を失いかけた。
 

 「一応カフェのコンセプトだけど、ここはこの通り男女問わず乙男女戦士として働いてもらってるの。それが乙男女カフェのルールだから、見た目だけじゃなく、ちゃんと中身もなりきってもらうわよ」

 「いきなりなりきれって言われても……」

 「徐々にで大丈夫よ。あ、あと武器が必要ね」

 「武器?!」

 「そう、コンセプトが大事なのよ。あなた戦士なんだから。あ、待ってて、あたしのお下がりあげるわ」
 
 そう言って引き出しから、なにか棒状の物を取り出し、僕に手渡した。
 
 重みのあるプラスティックの棒の先端に三日月形のオモチャの部品のようなものがテープでくっつけてある。

 「こ、これなんですか?」

 「あなたの武器、ロマンスティックよ!」

 「ロマンスティック!?」

 「そう、ロマンスティック。これで敵と戦うっていう設定よ。そこのボタン押してごらんなさい」
 
 言われるまま僕はそのロマンスティックの手元にあるボタンを押してみた。
 
 うぃ~~ん うぃ~~ん……
 
 乾いた事務所になにか嫌な振動音が響き、三日月がブルブルと震えだした。

 「な、これ電マじゃないですか!」

 「違うわよ!ロマンスティックよ。戦う以外にも、人と人との夢を繋ぐって言う設定も入れてあるわ」

 「なに言ってるんですか?!この格好でこんなの持ってたら本当にただの変態じゃないですか!」

 「捕まったことないし、問題ないわよ」

 「え?これ持って外に出歩いてるんですか!?」

 「大丈夫よ。武器と言っても、こんなの銃刀法違反にはならないから」

 「そういう意味じゃなくて猥褻罪ですよ!」

 「失礼ね!とにかく明日から頑張ってもらうから、あなたも乙じぇねの一員として、しっかり働いてちょうだいね」

 「――……――」


 「それじゃ、今日はこれくらいにしましょうか。あ、帰りどうする?そのままの恰好で帰ってもいいけど?」

 「服貸してください!なんの為にここまで来たとおもってるんですか!?」

 「もう気にいってるかなと思ったんだけど」

 「違和感しかありませんよ!」

 「あら残念ね。じゃ着替え貸すから、あとで事務所に来なさい」

 
 そして僕はタオさんに服を借り更衣室に向かった。
 
 入った左手の壁に鏡があり、僕は初めて自分のその姿を見てしまった。
 
 知ってる僕の姿ではなかった。
 
 鏡の前には、あどけない清純で可憐な少女の姿がそこに映っていた。

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