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第九話 ペロキャン対決 (前編)
しおりを挟む「伊砂美橙那……伊砂玲於那の妹よ」
紅は短く答えた。
場にいた皆が紅に注目し、タオが質問を始めた。
「伊砂ってあのアルスタのリーダーの伊砂玲於那?あの子に妹がいるの?」
「そう」
「うーん、その子はあなたのお友達なの?てかそもそもその子がアイドルになりたがってるの?」
「正確に言うとどちらでもない」
「じゃあどうやって仲間に誘うのよ?」
「昔は目指してた時期があったのよ」
「どういうこと?」
「順を追って説明するわね」
「うん、お願い」
紅は語りだした。
「まずわたしが前にアルスタのオーディションに受けたことがあるのは知ってるわよね?」
「伊砂玲於那にぼろ負けしたやつよね?」
「一言多いのよ!で、そのオーディションの時に伊砂玲於那の妹も受けに来てたのよ」
「ほぉ……」
「最終審査の時に一緒だったんだけど、あの姉妹は他の受けにきてた人達とは別格だったわ。ビジュアル、歌、ダンス、オーラ、なにもかも満点に近い点を取ってたと思う。こんな人達と一緒に同じグループのアイドルになれたらって考えたら、華々しい未来しか想像できなかったわ。だから一星座につき一人だけしか受かることが出来ないって聞いたときは、絶対にこの二人とは星座が被らないように祈ったの。結果は前に話したようにわたしと伊砂玲於那が同じ獅子座で向こうが受かったんだけど……」
紅は少し話のトーンが落ちていたけどそのまま続けた。
「だけどその時わたしが本当に被りたくなかったのは姉よりも寧ろ妹の方なの。」
「ん?それじゃあ姉より妹の方が実力あったってこと?」
「ううん、姉はやっぱりその時から完璧だった。歌や踊りのレッスンを何年も受けていたみたいだし既に完成されていた。一方妹は姉より大分若いし経験も浅いらしく、まだまだ未完成な部分があったの。それでも他の人達と比べたら圧倒的に輝いていた。もしあの子がこのままきっちり技術を身に付けていけばって考えたら末恐ろしかったわ。それに未完成な部分ってアイドルにとってとても重要なことでしょ?」
「でも今のアルスタのメンバーに伊砂玲於那の妹なんていないよな?」
みんなが疑問に思っていたことをルカが代弁して聞いてくれた。
「そこなんだけど、結果的に言うと審査に落ちたの。あの子ふたご座なんだけど、代わりに受かったのは最年長の此寺咲菜って子。」
「その子知ってるわ。あの中でも結構人気上位に食い込んでる子でしょ?だったらそれも仕方ないんじゃない?」
「いや、今でこそ人気は出てきたんだけど、あのオーディションの時点では殆ど存在感ないようなパっとしない子だったの。それに年齢を考慮しても若い伊砂美橙那の方が将来性もあるし――」
「でも実際に人気出てるんだし、審査員がその子の可能性を考慮してきちんと見てたのよ」
「うーん、でもなんか腑に落ちないんだよな」
「で、その妹は今どこでなにしてんだよ?知り合いでもない、どこにいるかもわからないじゃ誘うに誘えないだろ?」
ルカが本題に戻してきた。
「ふっふっふ、わたしだってなんの策もなくこんな事言いださないわよ」
紅の顔が急に自信に満ちた顔で言い出した。
「なんと、この春からわたしの母校に入学してきたのよ!後輩から聞き出した情報だから間違いないわ。ただ入学してからあまり学校に来ていないみたいなんだけど……」
「そんなんで見つけられんのかよ?」
「わたしのストーカースキルを見くびらないでちょうだい」
自慢するスキルではない……
「でもなんでそんなにその子のこと追ってるのよ?」
「クロがそんなに乗り気じゃないのも薄々気付いてたし、あと一人メンバーに入れたかったのもあったのよ。それにあのレベルの子は探して簡単に発掘できるものじゃないの」
「それでどこにいるか目安はついているの?」
「大丈夫。おおよその潜伏場所は把握しているわ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そして後日、僕たちは5人で紅の情報を元に伊砂美橙那の入り浸っていると言われている駄菓子屋へやってきた。
「ここがあの子が出没するって言うタケヤって駄菓子屋?なんかボロいとこねぇ……」
たしかにタオの言う通り、お爺さんが一人で経営してる古めかしい昔ながらの小さな駄菓子屋だ。
「うん、情報が確かなら、この駄菓子屋のゲームコーナーに毎日来るはず」
小さな店の割にはレトロゲームの筐体がいくつか並んでおり、外に立ち席の筐体が5台、店内には座席の筐体が4台あった。
いくつかは壊れていたが、店の規模と比較するとゲームは充実しているかもしれない。
小さな子供が数人遊んでいた。
1ゲーム50円と言うのも魅力なのだろう。
しばらくすると、パーカーのフードを深く被った女の子がやってきた。
「来た!あの子よ!」
「あ、ミト姉ちゃん、おっす!」
「お、ガイとマーシー、おっす。今日もやってる?」
女の子は僕たちには目もくれず、子供たちに軽く挨拶したあと、安い棒付きのキャンディを一つだけ買って、古い格闘ゲームの席に座った。
すれ違う時、彼女の顔がチラッと見えた。
フードを被ってたので断言はできないが、それでも多分可愛いのだろうという想像できた。
しかし、顔には覇気が無く、どこか眠たげな目つきをしていて、紅が言っていたオーラと言うものは正直感じ取れなかった。
紅は近づき声をかけた。
「ねえ、あなた伊砂玲於那の妹の美橙那さん?」
「――……――」
「そう、よね?」
「だったらなに?」
女の子はぶっきらぼうに答えた。
どうやら伊砂美橙那本人だったらしいが、目つきは悪く、露骨に怪訝な顔をこちらに向けていた。
「あ、初めまして。いや、初めてじゃないんだけど。アルスタのオーディションの時に一緒だったよね?」
「――……――」
「お、覚えてないかな?」
「うーん、いたような、いないような……」
明らかに覚えてなさそうだった。
「あ、ああ、そう……まあいいわ。今日はそのこととは関係なくて、あの……今ってどこかアイドルグループに所属してたりする?」
「してない……」
「おお、それなら、もしよかったら……」
言いかけて、伊砂美橙那が言葉を遮った。
「わたし、アイドル活動やってないので!」
「え、いや前にオーディションで……」
「それは以前の事。今はやってないし!」
「でもあなたのお姉さん……」
「お姉ちゃんは関係ない!それに今はもうやりたいこと他にあるし」
「あら、どんなこと?」
タオが会話に入って来た。
「今は見ての通りプロゲーマーになるの」
「ゲーマーになるって、ここでそのスキルを磨いているってこと?」
「そうよ!なにか問題ある!?」
「ゲーマーってそんなに甘かねえよ」
ルカも口を挟んできた。
「なれるよ。まだ始めてそんなに経ってないけど、ここらじゃ結構有名だし。赤い彗星のミトっていえばここらじゃ有名だし!」
「いや、聞いたことねえよ。それにここらでゲームできるとこってこの駄菓子屋くらいしかないだろ?」
(てかその異名ダメでしょ……)
「今はまだ全国区じゃないけど、そこにいるガイとマーシー、そしてわたしと組む黒い三連星はもうここでは敵なしよ!」
「お前、赤じゃなかったのかよ」
「う、うるさいなぁ!細かいことはいいの!それにまだ日は浅いけど、難しい技もすぐ覚えられるし、わたし色々才能あるの。なんだって上達する自信ある」
「うん、それはわたしがよく知ってる」
紅はしみじみと答えた。
「それで、新進気鋭のゲームの女神、スカPを倒してわたしが日本一のプロゲーマーになるのが今の目標。だからアイドルなんてやってる暇ない」
「スカピーって誰?」
タオが聞いてきた。
「スカPは日本を代表するプロゲーマーアイドル。今じゃ国内では敵なしの最強のプレイヤーだよ」
「へぇ、お兄さんよく知ってるね」
「ああ、君みたいなにわかゲーマーが敵う相手じゃないよ」
そう言われてミトはルカを睨みつけた。
「そこまで人を馬鹿にするなら試してみる?」
「ん?」
「お兄さんも経験あるみたいだし、わたしと格ゲーで勝負しなさいよ」
「はぁ……ま、別に構わないけど」
やれやれと言った感じでルカは勝負を引き受けた。
「わたしが勝ったらちゃんと謝んなさいよ!」
「わかったよ。じゃ俺が勝ったら、俺らのグループ加入してくれるか?」
「ちょ、それはちょっと釣り合い取れてないでしょ!」
「じゃ、何とだったら入ってくれるんだよ?」
「えと……あ!このペロキャン箱買いってどうかな?」
「ん?」
皆きょとんとなった。
「あ、それはちょっと無理か……」
「えと、そのペロペロキャンディーが欲しいのか?」
「うん、さ、流石に高すぎかな……」
「いいぜ!」
「いいの!?結構高いよこれ」
「うん。あ、じゃあ俺が勝てば、学校にちゃんと通うって条件もつければ、そっちのペロキャンプレミアムの方でもいいぜ?」
「ペ、ペペ、ペロプレ箱買い!?これいくらするか知ってるの?」
「いくらだ?」
「え、えと30個入りだから……3000円!?わたしの半年分のお小遣い!」
「さあ、どうする?」
「や、やるに決まってる!」
「よし!じゃあ決まりだ」
「あとから払えませんとかなしだよ!指切りげんまんもするよ!」
「わかったわかった。んで、何回勝負でやる?」
(うーん、マーシーとガイを入れて黒い三連星のチーム戦もいいけど、ここは確実に取りに行こう!)
「1回勝負で!」
「わかった。じゃあ俺と君のタイマンで1コイン勝負、2ラウンド先取した方の勝ちでいいか?」
「いいよ」
そしてミトのグループ加入とペロキャンプレミアムを賭けた、二人のゲーム対決が始まった。
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