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第十話 ペロキャン対決 (後編)
しおりを挟むラウンド1!
――わたしがこのキャラを選択したのには理由がある。
一見動きも遅くパワーもない、そんなキャラだけど、このキャラの最大の特性、手足が長い。
これは使いこなせば、ただのパンチやキックもチート級に強くなる。
それにインド人っていうのも格好いいよね。
まずはお兄さんの実力を測ってやろうかしら。
最初は飛び道具で牽制。
さすがにまともには喰らわないか。
でもこうやってしばらく続けてると……
相手が痺れきらして近づいてくる。
そう、ここでリーチの長さを活かした手足の攻撃で……
え!!?
当たらない!!
なんで!?
全部読まれてる!
「ミトちゃん、だっけ?いつもここで練習してるんだよね?」
「な、なんですか試合中に!?」
「そこの小学生と戦う以外は、ほとんどNPC相手にやってたんじゃない?」
「だったらなんですか?」
「それじゃ俺に勝てないよ」
「や、やってみないと……あ!」
YOU LOSE!
懐に入られたインド人はあっさりと勝ちを相手に献上してしまった。
「まだまだこれから!」
そうは強がってみたが、2ラウンド目もあっけなく敗れた。
「センスは良いと思うけど、実践が足りなすぎるよ」
「あ!やっぱ3回勝負で!」
「何度やっても同じだよ」
「いや、次の相手はお兄さん以外で!」
「え!それはちょっと卑怯だろ!」
「ルカちゃん!ちょっと大人げないわよ!相手はまだ高校生なんだから、ちょっとは聞いてあげなさい」
タオが窘めた。
「わかりましたよ。じゃあ3回勝負に変更でいいか?」
「おけ。とりあえず1勝はそっちにあげる」
「ムンさんこのゲームできる?」
「やったことはあるけど、勝てるかどうか……」
(よし、最終戦はあの人で多分勝てる!でも2戦目に確実に勝っておかないと……)
「じゃあ次の相手はそこのお姉さん!」
「え!わたし!?」
ミトが選んだ対戦相手はアオちゃんだった。
「おいおい、一番ゲームに疎そうな人選んだろ!?」
「違う!あのお姉さんからは、そこはかとなく戦いのオーラが感じ取れる!この赤い彗星のミトの相手にとって不足なし!」
「アオちゃん、相手してあげてくれる?」
タオが苦笑いでアオに頼んだ。
「わ、わかりました」
「じゃ、次の勝負ね。わたしはまたさっきのインド人でいいよ。お姉さんどうする?」
「うーん、じゃあこの赤いパンツのおじさんにするね」
「おけー」
(ふふ、あのお姉さんホントに素人だわ。あのキャラは体は大きくてパワーもあるけど、動きはノロノロでわたしには近づくことさえできないわ。それがこのインド人キャラに取って最高のカモってことも知らずに……)
そして2戦目はミトとアオが戦うことになった。
ラウンド1
(あらあら、そんなにぴょんぴょん飛び跳ねて……丸焼きにしてやるわ!)
「ファイアー!」
YOU WIN!
「ごめんね、圧勝しちゃったー」
鼻高々のミト。
「わー、攻撃が全然届かなかったー」
悔しがるアオ。
ラウンド2
(あまりここで手の内を見せすぎても、次の戦いで不利になる。少し手を抜くか……)
「お、アオちゃん少しずつ削っていってるよ」
「うん、頑張る!」
(よし、お互い体力削ったあたりで、そろそろ仕留めに……)
「え!?」
「はい、捕まえたー」
アオはそう言って相手の懐に入り大技を繰り出した。
YOU LOOSE!
「やったー!」
(ちっ!しまった!ちょっと手を抜きすぎたか。まさか最後にあんな難しい大技出すなんて。でもまぐれはこれで終わりよ。次は最初から容赦しない)
ファイナルラウンド!
(相手はこちらの長いリーチと飛び道具を嫌う。そして近づきたくて、こっちに寄ってくる。そしてさっきの大技を出そうと体が浮く。そこを見逃さず……え!?飛ばない!)
「はい、捕まえたー」
アオの操作する大男がインド人を捉えた。
「しまった!」
「もう逃げられないよー」
そうして一度懐に入った大男は痩せっぽちのインド人に反撃のチャンスを与えず、大技のコンボを叩きつけ、完封勝利を果たした。
YOU LOOSE!
「おお、アオちゃん凄い!」
「ちょっと待って!なんであんな立ち技できるの!?」
「あの技はレバーを1回転させちゃうと、体が浮いちゃうんだけど、厳密には4分の3回転で素早く入力すると飛ばずに出せるみたいなんだ」
「き、汚いよ!素人の振りして、めっちゃ上級者だったの!?」
「違うよ。素人だよ。1日しかやったことなくて、だから勝てるって思ってなかったの……」
「え!?ホントに1日しかやったことないのに、あの技出せるの?」
「うん……」
「――……――」
ミトは下を向き小刻みに震えだした。
プロゲーマーを目指す少女にとって、経験1日の女の子に負けたと言う現実は少し酷だったかもしれない……
「なんで……なんで皆わたしの邪魔ばっかするのよ!」
ミトは大粒の涙を流しながら叫んだ。
「ご、ごめんねミトちゃん。わたしそんなつもりじゃ……」
「悪かったよ。なにも泣くこたぁないだろ?」
アオもルカも申し訳なさそうに謝った。
「いつもそう、皆でわたしの夢を邪魔する……」
「オーディションのこと?」
「そう……わたし、本気でアイドル目指してた。お姉ちゃんに影響されて、歌もダンスも本気で頑張った。でもお姉ちゃんはホントに凄くて……追いついても追いついても、お姉ちゃんはずっと先の先にいた。それでもお姉ちゃんと一緒にアイドルやりたかった……そして必死で頑張って努力したけど、やっぱ届かなかった……全然違う人が受かった……」
ミトは涙を拭って話を続けた。
「もうアイドルも諦めて、普通の高校生になろうとした。お姉ちゃんと比べても仕方ない。あの人は特別に選ばれた人なんだ。そう思って地元から少し離れた学校に進学して、お姉ちゃんのことも友達には隠してた。でもしばらくして、どこからか伊砂玲於那の妹ってことがバレた。そこから皆にお姉ちゃんのこと聞かれたり、そしてまた比べられた……」
「そうだったの……」
「それでだんだん学校も嫌になって、引きこもるようになって、でもこのままじゃいけないって気持ちもあって……そんな時にネットの配信番組でゲームの女神、スカPの特集が流れてたの。学生時代に酷いいじめにあった彼女は、必死に努力して這い上がって、今の地位を築いたの。『人は生まれ変われる』スカPが言っていたその言葉を鵜吞みにしたわけじゃないけど、わたしももう一度やってみようと思った。でも……やっぱダメだった……ホントはわかってたんだ。自分がなにも出来ないってこと。人は生まれ変わることなんて出来ないよ。スカPはたまたまうまくいっただけ……」
「あのね、ミトちゃんは覚えてないかもだけど、わたしもその最終オーディションにいてね、受かったのはわたしと同じ獅子座のあなたのお姉さんなの。」
「え!?」
「すごいよね、玲於那さん……」
「うん……」
「でも、わたしあなたに凄い可能性感じてるの。お姉さん以上のものを」
「わたしなんか……」
「あのね、ここにいる人達ね、ホントダメな人たちなんだ。わたしもそう。だけど、それってホントにダメってことじゃなくて……うーん、なんかうまく説明できないんだけど……」
「そうよ、みんなポンコツなの。このお兄さんなんて、こないだうんこ漏らしたのよ」
「ちょっとタオさん!」
「え!?その歳で?」
「う、うん。まぁ事実なんだけど……。それがきっかけで、このグループに入ることになって……でもここの人達、それを嘲笑ったり、貶したりする人は誰もいなかったんだ。このピンクのおじさんも凄い変でしょ?びっくりするよね?でもね、みんなこの人の人柄わかってるから、誰も否定したりしないんだ。あと、ちょっとだけど、ほんのちょっとだけど尊敬してるとこもあるし……」
「褒めるんならちゃんと褒めなさいよ!あとね、ミトちゃん。あなた自分には何もないって思ってるかもしれないけど、あなたからはものすごいオーラを感じるの。ね、あなたちょっとここで軽く踊ってみてよ」
いきなりタオがミトに注文してきたが、僕たちも彼女の実力を確認したい気持ちはあった。
紅だけの昔の情報を頼りにここまで話が進んでいたが、僕たちはまだ彼女の何も見ていないのだ。
「え!ここでですか?」
「うん、誰もいないし、いいでしょ?スマホで軽く音楽流すからやってみて。アルスタの曲踊れる?」
「多少は……」
「じゃあ、こっち来て!」
「はい……」
僕たちは店のすぐ横の路上に移動した。
「目を瞑って」
「え?」
「いいから……そう……そしてオーディションの時を思い出して。あの時の自分の感情を……」
「――……――」
ミトは目を瞑ったまま大きく深呼吸した。
「準備できたかしら?」
ミトはコクと頷き返事した。
そしてタオはスマホの『再生』をゆっくりとタップした。
音楽が鳴ると同時に、ミトは目を開いた。
目には生気が、光が宿っていた。
踊りが始まり、僕たちは圧倒された。
そのしなやかなダンスは、指先からつま先まで、妖艶なオーラを放っていた。
そこにいた全員が金縛りにあったように、ミトのダンスに魅入っていた。
それは、『多少』などではなく、『完璧』なダンスだった。
諦めた人間がこんなに踊れるわけはない。
姉の事を敵視していたようだが、その曲をここまで踊れるようになるには、オーディションのあともずっと努力を続けていたに違いなかった。
そして、サビに入る直前の大きなフリで首を大きく動かしたとき、被っていたフードがはらりと落ちた。
そこには化粧もなにもしていないが、紛れもない美少女がそこにいた。
曲が終わっても、僕たちはしばらく動けないでいた。
そして、ミトの「あの、終わりました……」の一言で、やっと皆の金縛りが解けた。
紅の言っていたことに、嘘偽りはなかった。
◇ ◇ ◇
「じゃあ今日のところはそろそろ失礼しましょうか。勝負のことは忘れてね。さすがにキャンディーとあなたの人生は天秤にかけられないわ。でも、もしまだアイドルになりたい気持ちがあれば、いつでもあたしたちのところに来てちょうだいね。あたしたち本気でアルスタにも負けないアイドルになるって覚悟があるから」
「はい……ありがとう……」
「じゃあね」
そして帰りかけたその時、後ろからミトが叫んだ。
「あの!!」
「ん?どうしたの?」
「あの!やっぱり、わたし、諦めたくない!!わたしも乙男女じぇねれーしょんに、入れてください!!」
「あら、そんなに急いで返事しなくても大丈夫よ」
「ううん、わたし……一人じゃなにもできなかったけど、ここの皆と一緒なら、もしかしたら……なんかホントにそう思えてきて……衝動的かもしれないけど、今のこの自分の気持ち、信じてみたい!」
「そう。わかったわ。でもね、さっき『本気』って言っちゃったけど、そんなに肩肘張らなくていいのよ。『適当』くらいがちょうどいい時だってあるし、あなたはこれから何にだってなれるの。あなたの可能性は無限なの。だから、グループの加入も認めるけど、それと同時に学校にもちゃんと行ってくれる?もちろん行ける範囲でいいし、いつだって逃げてもいいから」
「わかりました。明日勇気を出して行ってみます!」
「うん!良い返事!」
「そういうことだから、ガイ、マーシー、ごめん!黒い三連星は今日でしばらく封印するね」
「わかった。ミト姉ちゃんもがんばってね!」
「なんか、結果的にうまく納まったわね。じゃあ折角だし、みんなでお祝いしましょうか?ね、ルカちゃん――」
「はい?」
タオの提案で、ルカがみんなにペロキャンプレミアムを奢ることになった。
ルカは「なんで勝った俺が――」とブーブー言っていたが、ミトが美味しそうに頬張る姿を見て、まんざらでもなさそうだった。
そのミトの表情は、さっきまでの暗いゲーマーの顔でもなく、妖艶な大人びたアイドルの顔でもなく、ごく普通の一人の明るく可愛らしい女子高生の顔をしていた。
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