ガラスの靴は、もう履かない。

蘇 陶華

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侵入者は、2人を結びつける

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僕は、なんて、鈍感で鈍いんだろう。公開した。何も、疑わず、莉子を病室に届け、廊下に出た時だった。僕と入れ替えに、病室に入っていった看護師が、悲鳴をあげた。すぐ、ドアは、施錠され、僕は、何が、起きたのか?理解できなかった。おそらく、あの時、誰も理解できなかった。そいつは、部屋のカーテンの奥に潜んでいたのだから。莉子の病室は、2人部屋だった。もちろん、特別室や個室だってある。だけど、当時は、認知症の酷い高齢者や、術後の患者がいて、莉子の部屋は、2人部屋で、空き待ちだった。105号室といっても、1階にある訳ではなく、病院の1階は、外来や救急室、売店となっており、105号室は、2階になっている。侵入者は、何食わぬ顔で、病室に侵入し、留守となっているベッドの脇のカーテンに潜んでいたのだ。ドアの向こうには、悲鳴と罵声が飛び交い、僕は、ドアに体当たりするも、びくとも動かなかった。
「何があった!」
黒壁が、真っ先に駆けつけ、警備員や看護師が、集まってきた。他の看護師は、野次馬を誘導し、外来は受付を停止した。立てこもりだ。理由は、わからない。
「新!今まで、莉子と一緒だったよな」
まるで、僕が、莉子を危険に合わせてしまったような口ぶりだった。
「中で、何があった?」
僕は、黒壁を振り切って、廊下へと走り出した。ここは、2階。真下は、外来で、柵のついた窓があるだけだった。外壁から、中に入るしかない。
「どこ行くんだ?」
黒壁は、慌てて僕の後ろについてくる。後から知った話だが、侵入者は、莉子がここに居ることを知って、交渉する為に侵入していた。何度、投稿しても、取り上げられず、莉子の父親に直訴したかったらしい。それは、復興誘致で、製薬会社や病院を誘致した為に、ここに住めなくなった住人の代表で、市長との対話を要求していた。勿論、警察や機動隊が、要請されていたが、あの悲鳴を聞いた僕としては、彼らが到着するのを待つなんて、できなかった。莉子が危険に晒されていないか?僕は、確認する必要がある。黒壁は、僕が何をしようとするか、わかったらしく、1階の裏口に出ると、すぐ、辺りを見まわし、足台になるのを探し始めた。僕は、通りかかったリネン室にあったタオルを2枚、持ち出し、首にかけた。
「まさか、ここを登るんじゃ?」
「そうだよ」
「落ちたら、どうする?」
「落ちないよ。運動神経は、お前より、いい」
下は、コンクリート。僕は、下まで伸びている雨樋を伝って、登り始めた。
「待ってろ!」
黒壁は、タオルを詰め込んだ籠を、押し出してくる。
「落ちろって?」
筋力に自信はある。脳みそが筋肉って、誰かに言われた。僕は、2回の窓の下まで、たどり着いた頃、病院の周りが騒々しくなってきた。侵入者が、音に気を取られ、窓辺に来た時、僕は、ちょうど、その下に身を潜めていた。
「こんな事をしても解決しない」
ヒステリックに騒ぐ看護師の声が聞こえた。あの時に、すれ違った看護師だった。
「俺だって、こんな事は、したくなかった。こうすれば、みんなの関心がおれたちに向けられる」
「父も、わかってるとは思います」
莉子の声だった。
「でも、父の力だけでは、どうにもならに事があるんです」
「だから、こうするしかないんだ」
侵入者は、苛立っている。
影から、そっとみると、侵入者は、僕に背中を向けて立っていた。病室のドアを背に、莉子は、車椅子のまま、こちらを見ていた。僕に気がつくと、侵入者に気づかれない様に、そっと視線を床に落とした。
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