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君に見るは、亡き人の面影
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その日は、無作為で選ばれた澪の会社の子達が会場に現れていた。
「緊張する?」
澪は、悪戯っぽく笑う。
「まさか」
緊張しないと言えば、嘘になる。けど、あの蒼と張り合えるなんて、ゾクゾクする程、興奮する。
「そして、澪。この後、大事な話があるんだ」
榊さんと進めていた話。
僕は、留学するよ。
澪に、そう伝えたかった。
その時間、君は、どんどん、僕から離れていくんだろうね。
視力を失った君は、その代わりに多くの物を得ている。
僕は、そんな君に、可能性に向かう力をもらった。
悪意のある人の側に、君を置いていくのは、忍びないけど、君は、僕に縛られるような人ではない。
僕自身、力をつけたい。
あの蒼が、未来の僕であるように。
「大事な話?」
「そうなんだ。報告っていうか」
「終わるまで、聞けないの?」
「うん。一区切りつけて、僕が、自信ついたら、言える」
「蒼に勝つ自信は?」
「ないよ」
二人、笑い合う。
競演前の穏やかな時間。
萌が、花束を持って現れた。
「気が早いよ」
「そう?」
笑いながら、大きな芍薬やバラの花束を押し付けてきた。
「派手すぎる所は、海と同じね」
「派手?」
「よく言えば、ダイナミック。海は、目立ちすぎるのよ。顔も、音楽も」
「失礼な。そんな事ないよ。アーティスティックと言って」
「クラシックは、似合わなすぎるもの」
「え?」
心の底から、心外だった。
「私も、そう思うわ」
澪も口を添えた。
「海の色は、背景色でないの。確かに、淡いグリーンだったりするけど、それは、背景色ではないの。」
「それは、どういう意味?」
「生命の色なの。これから、伸びていくって・・・そう。五月の緑の色よ」
「はぁ・・・」
僕には、イメージがわからない。
「そう言えばね・・」
萌は続けた。
「さっき、ロビーで素敵なブロンドの女性を見つけたの。淡いグレイッシュピンクのコートを着ていた。そう、花束を持っていたわ。海の知り合い?」
「いや・・・花束を持っているからって、僕の知り合いではないだろう?」
「ケースを持っていたの。海のケースだったわ」
「僕の?」
僕のバイオリンは、あの日に、蒼の手元に、残ったままだ。どうして、女性が持っているのだろう。
「蒼のスタッフさんかしら?」
「ブロンドのスタッフは、居ないはずだけど」
澪は、首を傾げる。
「だとしたら、競演の前に、バイオリンを返して欲しいんだけど」
萌は、言う。
その通りだと思った。
「こちらから、言ってみる?」
「いや・・・いいよ。待とう」
何かのタイミングを待っているのかもしれない。
別の安物の、バイオリンで、準備をする。
開演の時間を待つが、刻々と過ぎる時間の中、蒼が到着したとの話はなかった。
僕に逢いに来たのは、蒼ではなかった。
長身のブロンドを持つ美しい女性だった。
「緊張する?」
澪は、悪戯っぽく笑う。
「まさか」
緊張しないと言えば、嘘になる。けど、あの蒼と張り合えるなんて、ゾクゾクする程、興奮する。
「そして、澪。この後、大事な話があるんだ」
榊さんと進めていた話。
僕は、留学するよ。
澪に、そう伝えたかった。
その時間、君は、どんどん、僕から離れていくんだろうね。
視力を失った君は、その代わりに多くの物を得ている。
僕は、そんな君に、可能性に向かう力をもらった。
悪意のある人の側に、君を置いていくのは、忍びないけど、君は、僕に縛られるような人ではない。
僕自身、力をつけたい。
あの蒼が、未来の僕であるように。
「大事な話?」
「そうなんだ。報告っていうか」
「終わるまで、聞けないの?」
「うん。一区切りつけて、僕が、自信ついたら、言える」
「蒼に勝つ自信は?」
「ないよ」
二人、笑い合う。
競演前の穏やかな時間。
萌が、花束を持って現れた。
「気が早いよ」
「そう?」
笑いながら、大きな芍薬やバラの花束を押し付けてきた。
「派手すぎる所は、海と同じね」
「派手?」
「よく言えば、ダイナミック。海は、目立ちすぎるのよ。顔も、音楽も」
「失礼な。そんな事ないよ。アーティスティックと言って」
「クラシックは、似合わなすぎるもの」
「え?」
心の底から、心外だった。
「私も、そう思うわ」
澪も口を添えた。
「海の色は、背景色でないの。確かに、淡いグリーンだったりするけど、それは、背景色ではないの。」
「それは、どういう意味?」
「生命の色なの。これから、伸びていくって・・・そう。五月の緑の色よ」
「はぁ・・・」
僕には、イメージがわからない。
「そう言えばね・・」
萌は続けた。
「さっき、ロビーで素敵なブロンドの女性を見つけたの。淡いグレイッシュピンクのコートを着ていた。そう、花束を持っていたわ。海の知り合い?」
「いや・・・花束を持っているからって、僕の知り合いではないだろう?」
「ケースを持っていたの。海のケースだったわ」
「僕の?」
僕のバイオリンは、あの日に、蒼の手元に、残ったままだ。どうして、女性が持っているのだろう。
「蒼のスタッフさんかしら?」
「ブロンドのスタッフは、居ないはずだけど」
澪は、首を傾げる。
「だとしたら、競演の前に、バイオリンを返して欲しいんだけど」
萌は、言う。
その通りだと思った。
「こちらから、言ってみる?」
「いや・・・いいよ。待とう」
何かのタイミングを待っているのかもしれない。
別の安物の、バイオリンで、準備をする。
開演の時間を待つが、刻々と過ぎる時間の中、蒼が到着したとの話はなかった。
僕に逢いに来たのは、蒼ではなかった。
長身のブロンドを持つ美しい女性だった。
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