星渡る舟は、戻らない

蘇 陶華

文字の大きさ
142 / 173

その時、僕は。

しおりを挟む
僕のバイオリンと萌のピアノとで、何とか場を乗り切ったライブに榊さんが着ていた。もちろん、娘である萌のピアノを聴きに来たのだが、目的は、それだけではなかった。
「自分も力があるうちに、残したい」
連絡をもらった時には、何の事かわからなかった。
「直接、会って話したい」
「もちろん、直接、逢える事は嬉しいんですが・・・」
榊さんの病状が心配だった。
「顔を見て、話がしたいんだ」
いつになく、様子がおかしい。
「萌も、喜びますね」
「いや・・・別に、萌を喜ばす為ではないんだ。もしかしたら、その逆かもしれない」
「どういう事ですか?」
直接、伝えたいって事は、あまり、いい話では、ないのだろう。
演奏を前に、榊さんが、そんな事を伝えて来るのは、意外だった。
いつも、演者の気持ちを考えている人なのに。
少し、焦っている様にも思えた。
「パパが後で、来るって言っていたわ」
萌は、笑っていた。
「海にどうしても、伝えたい事があるって」
「いい話?」
「だと思うわ」
僕に伝えたい話は、いい話だと言う。
この後、榊さんが現れると
「パパ。どうだった?」
自分の腕を自慢するかの様に、声を掛けてきた。
「海と話がるのでしょう?外で、待っているから」
榊さんの背中を押すと、軽く瞼を閉じて、ドアを閉めた。
「あぁ・・・本当に、賑やかすぎて」
「性格がピアノに出ていますね」
「音が乱律だろう」
「いや・・・とても、軽やかですよ」
「そうか・・・」
そう言いながら、榊さんの声が曇った。
「大事な話って?」
「頼みがある」
「はい?」
「この間の留学の話なんだけどな」
「えぇ・・」
榊さんの紹介で、一人分だけ、枠を開けてもらった。ドイツの学校に行けば、僕は、バイオリニストとしての、道が開けると言う。
僕は、勿論、快諾した。
いつまでも、燻って痛くない。
あの女性は、光を失った身でありながら、自分の輝かせている。
あの人と同じ光になりたいから。
「少し、早く、行く事になりそうだ」
「少し、早くとは?」
「私が、元気なうちにだ」
「榊さん?」
僕は、まだ、知らなかった。
榊さんが、深刻な状況にあるなんて。
「海。私ができる事は、何でも、やっておきたい。君を立派なバイオリニストに育てておきたいんだ」
「それは、嬉しいですけど。どうして、そこまで」
「私には、返したい恩のある人がいるって、話をしたな」
「はい。確か、キャンプ場のレストランで」
あの後、澪と離れる事になった
「君のお父さん・・・に、恩があるんだ」
お父さん。
そう聞いた時に、時間が止まった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Bravissima!

葉月 まい
恋愛
トラウマに悩む天才ピアニストと 俺様キャラの御曹司 かつ若きコンサートマスター 過去を乗り越え 互いに寄り添い いつしか最高のパートナーとなる 『Bravissima!俺の女神』 ゚・*:.。♡。.:*・゜゚・*:.。♡。.:*・゜ 過去のトラウマから舞台に立つのが怖い芽衣は如月フィルのコンマス、聖の伴奏ピアニストを務めることに。 互いの音に寄り添い、支え合い、いつしか芽衣は過去を乗り超えていく。 ✧♫•・*¨*•.♡。.:登場人物:.。♡.•*¨*・•♫✧ 木村 芽衣(22歳) …音大ピアノ科4年生 如月 聖(27歳) …ヴァイオリニスト・如月フィルコンサートマスター 高瀬 公平(27歳) …如月フィル事務局長

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

友達婚~5年もあいつに片想い~

日下奈緒
恋愛
求人サイトの作成の仕事をしている梨衣は 同僚の大樹に5年も片想いしている 5年前にした 「お互い30歳になっても独身だったら結婚するか」 梨衣は今30歳 その約束を大樹は覚えているのか

兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした

鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、 幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。 アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。 すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。 ☆他投稿サイトにも掲載しています。 ☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。

お前が欲しくて堪らない〜年下御曹司との政略結婚

ラヴ KAZU
恋愛
忌まわしい過去から抜けられず、恋愛に臆病になっているアラフォー葉村美鈴。 五歳の時の初恋相手との結婚を願っている若き御曹司戸倉慶。 ある日美鈴の父親の会社の借金を支払う代わりに美鈴との政略結婚を申し出た慶。 年下御曹司との政略結婚に幸せを感じることが出来ず、諦めていたが、信じられない慶の愛情に困惑する美鈴。 慶に惹かれる気持ちと過去のトラウマから男性を拒否してしまう身体。 二人の恋の行方は……

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない

彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。 酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。 「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」 そんなことを、言い出した。

処理中です...