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こっちを向いて、よく見てご覧。①
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テーブルの向こうに座る希空と自分の間には、そんなに距離はない。膝の上に、いる毛の長い生き物は、四つ足を畳み、今にも、飛びかかりそうな勢いで、桂華を威嚇していた。耳まで裂けた口は、今にも、飛びかかり、その細長い牙で、希空や自分の体を引き裂きそうな様子である。
「時々・・・そうなのよね」
桂華は、呟く。
「時々・・・何だって?」
希空は、気づかず、桂華に問いかける。
「何でもない」
桂華は、顔を上げる。広いホールには、テーブルが幾つも並び、時間帯が早いせいなのか、人は、まばらだ。テーブルを中央に、背の高い本棚が、両端を埋め、来館者は、思い思いの本を取って、テーブルに着けるようになっている。桂華のいる区域は、歴史書の棚が、多いせいか、あまり人はいない。本来、日当たりの良い、景観の良い図書館ではあったが、歴史書という人気のない区域のせいか、人は、数なく、気のせいか、陰鬱な気が充満していた。
「この感じ・・・」
桂華は、天井を見上げた。この陰鬱な古い本の香を嗅ぐと思い出す。カビと埃の匂い。香は、人の記憶を呼び覚ますのだ。
「思い出したか・・・?」
誰かが、桂華に話しかける。
「誰?」
この声は、乃亜の物ではない。誰の声ではなく、桂華自身に、語り掛けている頭の中に響く声だった。
「聞く事はない」
声は、小さく笑った。
「お前にしか、聞こえない」
希空の膝の上で、四つ足の生き物は、低く唸っている。
「いろいろ余計な物を持って帰ってきた様だな」
「余計な者?」
桂華の目と希空の膝の上にいる生き物との目があった。
「あれは、気にする事はない。儂が与えたお守りじゃ」
「お守り?には、見えないんですけど」
「もう、忘れているからの・・」
「忘れて?」
いくら見つめても、思い出す事はできない。
「問題は、それではない。見るがいい。お前の右足!」
桂華の右足首を、真っ黒な手が鷲掴みにするのが、見えた。血管が浮かび上がり、長い爪が皮膚に、めり込んでいる。皮膚は、黒く生きている気配はない。
「これは!」
希空に気付かれると不味い!桂華は、地団駄を踏みながら、手で払おうと暴れた。
「ちょっと!桂華!静かに!」
「だって!」
手で払おうにも、喰い込んだ右手は、離れない。
「どうして!お守りあるなら、助けてよ!」
桂華が、激しく床を足踏みする物だから、ホールにいる人達は、驚いて、注目する。他の人々には、何も、見えず、桂華が、騒いでいる様にしか、見えない。
「ちょっと!いい加減にして」
希空が立ち上がると、ふと、足首が軽くなった気がした。恐る恐る目をやると、希空の膝にいた四つ足の生き物が、床に降り、手首の化け物を口に咥えて、見上げていた。
「あ!ありがとう」
手首の化け物は、掌に大きな一つの目玉だけがあり、四つ足の生き物は、その手首の足でもあるべき、指を深々と、噛みついていた。四つ足の生き物の顔は、長い毛で、覆われ、首を振るとその間から、鋭い眼差しが除いていた。
「絶対、目を合わせるなよ」
その生き物が、話した様な気がしていた。
「時々・・・そうなのよね」
桂華は、呟く。
「時々・・・何だって?」
希空は、気づかず、桂華に問いかける。
「何でもない」
桂華は、顔を上げる。広いホールには、テーブルが幾つも並び、時間帯が早いせいなのか、人は、まばらだ。テーブルを中央に、背の高い本棚が、両端を埋め、来館者は、思い思いの本を取って、テーブルに着けるようになっている。桂華のいる区域は、歴史書の棚が、多いせいか、あまり人はいない。本来、日当たりの良い、景観の良い図書館ではあったが、歴史書という人気のない区域のせいか、人は、数なく、気のせいか、陰鬱な気が充満していた。
「この感じ・・・」
桂華は、天井を見上げた。この陰鬱な古い本の香を嗅ぐと思い出す。カビと埃の匂い。香は、人の記憶を呼び覚ますのだ。
「思い出したか・・・?」
誰かが、桂華に話しかける。
「誰?」
この声は、乃亜の物ではない。誰の声ではなく、桂華自身に、語り掛けている頭の中に響く声だった。
「聞く事はない」
声は、小さく笑った。
「お前にしか、聞こえない」
希空の膝の上で、四つ足の生き物は、低く唸っている。
「いろいろ余計な物を持って帰ってきた様だな」
「余計な者?」
桂華の目と希空の膝の上にいる生き物との目があった。
「あれは、気にする事はない。儂が与えたお守りじゃ」
「お守り?には、見えないんですけど」
「もう、忘れているからの・・」
「忘れて?」
いくら見つめても、思い出す事はできない。
「問題は、それではない。見るがいい。お前の右足!」
桂華の右足首を、真っ黒な手が鷲掴みにするのが、見えた。血管が浮かび上がり、長い爪が皮膚に、めり込んでいる。皮膚は、黒く生きている気配はない。
「これは!」
希空に気付かれると不味い!桂華は、地団駄を踏みながら、手で払おうと暴れた。
「ちょっと!桂華!静かに!」
「だって!」
手で払おうにも、喰い込んだ右手は、離れない。
「どうして!お守りあるなら、助けてよ!」
桂華が、激しく床を足踏みする物だから、ホールにいる人達は、驚いて、注目する。他の人々には、何も、見えず、桂華が、騒いでいる様にしか、見えない。
「ちょっと!いい加減にして」
希空が立ち上がると、ふと、足首が軽くなった気がした。恐る恐る目をやると、希空の膝にいた四つ足の生き物が、床に降り、手首の化け物を口に咥えて、見上げていた。
「あ!ありがとう」
手首の化け物は、掌に大きな一つの目玉だけがあり、四つ足の生き物は、その手首の足でもあるべき、指を深々と、噛みついていた。四つ足の生き物の顔は、長い毛で、覆われ、首を振るとその間から、鋭い眼差しが除いていた。
「絶対、目を合わせるなよ」
その生き物が、話した様な気がしていた。
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