雪別れ道のモフモフ王〜妖鬼冥婚編〜六芒星に守られた都市がある事をあなたは、知っていますか?

蘇 陶華

文字の大きさ
38 / 121

山神のプライド

しおりを挟む
桂華は、思わず、陸鳳の耳元に唇を寄せていた。細く長い口笛。この音程が何なのか。自分の体の中に流れている音楽が、陸鳳の体に流れていく。自分でも、不思議と落ち着く音程。忘れてしまった遠い日が、蘇ってくるようだ。記憶は、香を呼び、太陽の様な、乾いた匂いが脳の奥をくすぐった。
「陸鳳?落ち着いた?」
まるで、猫の様に、喉を鳴らしながら、陸鳳は、桂華に体を委ねていた。長いまつ毛が影を落とし、少し、震えていた。あれほど、苦しみ体を捩っていたが、今は、嘘の様に、静かだ。
「聞こえている?陸鳳?」
「あぁ・・・」
陸鳳は、深く息を吸うと、ため息をついた。
「すまない。急に、頭や胸が・・・」
掻きむしった胸の傷が痛々しい。
「何か、聞こえたのですか?」
リファルが、桂華と陸鳳の間に、割って入ってきた。
「僕にも、血の底から、暑苦しい音が聞こえてきました」
リファルは、あくまでも、紳士的だ。
「何かが、この地で、起きようとしているのでしょうか?」
「それなら、私達と一緒に、この国を出ませんか?」
エルタカーゼが、リファルの言葉に重ねて言う。桂華をなんとか、連れ出したいようだ。
「このまま、ここにいても、大変な事に巻き込まれるに違いありません」
「・・・だけど」
桂華は、陸鳳の顔を見ながら言った。
「この状況で、行く事はできないわ」
もちろん。状況が変わっても、日本を離れる気などない。
「危険が迫るなら、離れた方がいい」
陸鳳は、頭を振りながら言った。
「このままの状況で、逃げる訳には行かないだろう」
陸羽が、そっと陸鳳に寄り添う。何かが、起きようとしている。
「だから、力を借りたい。六芒星の陣の守護神、創宇を打ちたい」
菱王は、徐に剣を抜き、陸鳳と陸羽に突きつけた。
「この剣は、山神であろうと、焼き切る事ができる。もはや、六芒星の陣が狂い出すのを止める事が創宇にはできない。私に手を貸せ。創宇を打ち、私が変わって陣を守る」
「それで、その剣は、どういうつもりなんだよ」
陸羽は、素手で掴もうとし、陸鳳に止められる。
「創宇に味方になられると困る。ここで、消滅してもらう」
「お前!山神になんて!」
陸羽が、菱王に襲いかかりそうなので、慌てて、桂華と陸鳳が抑える。
「菱王の味方になるのかは、考えさせてほしい」
陸鳳が、そう言うので、菱王は、剣の刃先に力を入れる。紅い筋が、陸鳳の首筋につく。
「そう焦るなよ。今起きている異変の原因が、創宇の守りきれない六芒星が原因なら、変えなくてはダメだろう。異変を止めるのが、目的。我々は、それが目的だ」
「わかったか?形は、違うが、同じ事をするって事だ」
陸鳳に続いて、陸羽は言った。陸鳳の傷が赤く腫れている。あの苦しみようと言い、地底からの不気味な音。西の山が赤く燃えている状況を見ると、思い当たる事がある。
「俺達は、俺達のやり方でいいか?」
陸羽の鋭い爪が、菱王の首元に向けられていた。
「俺はさ。兄者と違って、人間の血が入っているから、純粋な山神と違って、規則は、守れないんだよ。感情的になったら、止められないからな」
「それは、困ったな」
菱王が、剣を戻そうとした時、陸鳳の視線が外側に動いた。その表情の変化に気が付き、陸羽も身構える。菱王は、一瞬、気が逸れてしまった。
「いつの間に?」
菱王は、叫び、剣を振り上げる。皆の視線の先に、桂華を抱えるリファルとエルタカーゼの姿があった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

処理中です...