極上のもふもふ愛をどうぞ。

蘇 陶華

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出会いの為の別れ

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僕がその場を離れ、僅かばかりの飲み水をディスクで救い戻った時には、僕の兄弟やボズの姿は、どこにもなかった。角を曲がり、門の間から、敷地内に入った時、そこにいた筈のボスの姿も、兄弟達の姿も、目に入らなかった。
「ボス?」
僕は、慌てて辺りを探し回った。ボスをその場に縛り付けていたリードは外されている。あれほど、頑張っても、外れなかったリードは、簡単に外され、元は赤かったリードは、垢と皮脂だらけになって、転がっている。
「どこなの?」
僕は、何度も叫び、辺りを探し回ったが、返事が来る事はなかった。何度も、ボスの家と、自分の板家や裏山の間を行き来して探したが、見つからない。いつしか、僕の家に来ていた野犬達は、立ち去り、行く宛のない犬や、弱ってしまった犬達が、何匹か残るだけだった。
「どこに行ってしまったの?」
僕は、食事をとるのも忘れて探し回っていたんだと思う。飲み水は、僕の家の庭で、何とか、確保できていた。どこからか、流れてきた乳牛が棲みつき、水を飲んでいる。他にも、野良とかした猫や山の動物達が住み着いてた。
「ずいぶん、痩せてしまったわね」
逃げてきた乳牛が、僕に話しかけていた。
「綺麗な毛並みだったのに」
池に映る姿は、仔犬らしいコロコロした可愛らしい僕ではなく、痩せて、伸び放題の被毛は、脂と泥で、毛布の様に厚く覆い被さった醜い生き物となっていた。
「まだ、見つからないのかい?」
もう一頭の乳牛が、僕を見下ろした。何度か、隣の牧場に、飼い主さん達と散歩に出かけ、見た事のある乳牛達だったが、僕は、答える気がしなかった。あれから、幾つの夜が過ぎただろう。僕は、兄弟達を必死で、探し回った。昼も夜もなく。夜には、何度、叫んだだろうか。それでも、返事はなかった。水は、何とか、確保できて、命を繋ぐ事はできていたが、まともに、食べれる物はなく、体力は、落ちていった。小動物を追いかけて、狩をする体力もなく、横になる日が、増えていった。
「お腹が空いた」
何処からともなく、悲痛な声が聞こえてくる。兄弟を探して、街を放浪している時だった。小綺麗な住宅の一角だった。
「誰か、ここから出して!」
閉じ込められている。僕は、走った。まだ、新しい住宅の一階から、声は聞こえる。雑草だらけの庭を抜け、ベランダ側から、中を覗き込む。
「誰か、いるの?」
僕は、窓の中に話しかけた。
「誰もいなくて、外に出れないの。食べる物が何もない。助けて」
家猫だ。僕が、ベランダに入り、窓に浮かぶ影を、前足で、叩いた。
「君だけなの?」
「みんないたけど私だけになった」
「いたけど?って」
私だけになった?僕と同じ?僕は、後ろ足で、立ち上がり、どこか、開くところがないか、見ようとした時だった。
「捕まえた!」
視界が、真っ白になった。網が、頭上から降ってきて、僕の体を包み込んだ。一瞬何が、起きたか、わからなかった。声がした方をみると、久しぶりに見る人間が立っていた。
「おーい。中にも、何かいるみたいだぞ」
そう言うと、何人か、他に居た人達が、家の周りに現れていた。
「猫がいる」
女性が叫ぶと、網に落ちた僕を男性が抱え、家に入ろうとしているのが、見えた。
「大変だったな。もう、安心だよ」
男性は、そう言うと、僕を車の中のゲージに入れた。
「水でも、飲もうか」
その時の、僕は、これから、どこに連れて行かれるのか、恐怖でしかなかった。
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