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私の苦しみを晴らせますか?

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巫女は、細長く光る剣を、犀花に手渡しした。古い剣らしく、所々錆びており、これは、現代には、残っていないだろうなと別の事を考えていた。
「ここで、終わらなければ、私は、放浪のたびに出かける事になる。避けて通る事はできない。あなたなら、よく、わかるでしょう」
「何もみる事は出来ないし、過去の事も知らない。でも、自ら死を受け入れる事を黙って、見ている事はできないの」
「そうかしら。あなたの、中の魔女に聞いてみたら?どんなに、怨みや苦しみを背負ってきたのか」
魔女と言われ、犀花の剣を持つ手が震えた。
「忘れては、居ないはずよ。どんなに、人に尽くしても、裏切られた思いは、尽きない。私が、始りよ。」
剣を持つ手の震えは、小刻みから、次第に激しく揺れ始めていた。
「震えが・・」
犀花が、押さえようとしても、手の震えは、次第に大きくなり、もう、押さえる事は、出来ない。何かと葛藤するかのように、犀花は、頭を抱え始めていた。
「忘れていないのよ。魂につけられた傷は癒えない」
「そんな事はない・・・」
両手で、頭を庇うため、剣は音を立てて、床に転がり落ちていった。
「やっぱり、忘れていないのよ」
床に落ちた剣を拾い上げる巫女。
「私が、素直に、神女として、供物になる。それが、嫌なら死ぬかしかないと思ったけど。死ぬ事もできないなら、仕方がないわね」
巫女は、刃先を左の首筋にあてた。ひんやりとした刃先に、全身が凍りつく。
「ここで、終わりよ」
「止めないか!」
剣を止めたのは、犀花だった。いや、犀花ではなく、目覚めたキリアスだった。
「ここで、簡単に終わらせる訳にはいかない」
刃先を右手で、受け止め、巫女の自害を止めようとする。刃先を掴んだ、右手からは、鮮血が迸り、巫女やキリアスの体を染めていった。
「私の苦痛がわかる?そんな簡単な言葉で、言えるものではない。お前が、おとなしく供物となり捧げられれば良かったのだ!」
キリアスは、巫女の体を後ろから抱えると、剣を床に突き刺した。
「終わらせるのなら、私が手伝ってやる。これで、私達が、穏やかに過ごす事ができるなら」
キリアスの背中から、黒い翼が飛び出した。翼の先には、恐ろしく長い爪を持つ、手が飛び出し、キリアスの目は、赤く光っていた。
「白夜狐が、現れる前に、供物として捧げてやる」
神殿の屋根をつく破り、飛びだっていった。
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