「匂いを嗅ぐ名探偵は、高校生活に巻き込まれる! 臭気判定士の能力で転校生の秘密を嗅ぎ取る青春ラブコメ」

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第26話:文化祭開幕と、謎の“最終兵器”

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 文化祭初日。つくば東高校の校舎は、にぎやかな音と香りに包まれていた。

 焼きそばのソース、わたあめの甘い匂い、パネル展示に使われた新品の木材の香り。各教室ごとに異なる空気が流れ、僕の鼻は情報でいっぱいだった。

「文化祭ってのは、香りの洪水だな……」

 嗅覚に優れすぎた男、白井健太にとって、文化祭はまさに“鼻の修羅場”だった。

 友人たちは楽しそうに出店を巡っていたが、僕は一人、廊下の突き当たりにある“封鎖された一室”に目を留めていた。

『危険物注意:この先立入注意』

 貼り紙の字体は手書きで妙に達筆。

(……何か、ある)

 僕の鼻が警鐘を鳴らしていた。
 近づくと、かすかに金属と酸味、そして……腐敗に近い刺激臭。

 ドアをノックしようとした瞬間、

「入っていいよ、白井くん」

 背後から声をかけられ、僕は振り返った。

 そこにいたのは、一年生の帰国子女、御影えま(みかげ えま)。

 くせっ毛混じりの栗色の髪に、制服の着こなしはどこか“異国の風”。
 そして、何より特徴的なのは――彼女の香りだった。

「……これは、ベチバーとローズマリー? ヨーロッパ系のブレンド香水……」

「当たり。さすが、匂いマスターね」

 彼女は扉を開け、僕を手招きした。

「ようこそ、“世界の珍味展”へ。……といっても、本番はまだ」

 中は異様な空気だった。
 机の上に並べられたガラス瓶、乾燥昆虫、ドリアンチップス、そして――冷蔵ボックス。

「これは……?」

「最終兵器よ」

 えまは笑った。薄く、妖艶に。

「名前は“シュールストレミング”。スウェーデンの発酵ニシン。世界一臭い缶詰」

 僕の眉がぴくりと動いた。

「開けるのか?」

「明日、正午に。開封セレモニーを行う予定。……でも、それだけじゃつまらないから、あなたにも来てほしいの」

「……なんで僕なんだ」

「だって、匂いに愛された男じゃない? 世界で一番臭い香りを、あなたの鼻がどう評価するのか、私、すごく興味あるの」

 えまは僕の鼻先に指を伸ばし、そっと微笑んだ。

「“白井くんの鼻”が嫌がったら、きっと誰も耐えられない。でも、もし美しさを見出せたら……“匂いの境界線”が変わるわ」

 一瞬、背筋がぞくりとした。

 彼女は狂気ではなかった。

 それは“確かな信念”を持つ者の目だった。

「……分かった。受けて立つよ、その挑戦」

 えまは満足げに笑った。

「明日、正午。“香りの革命”を始めましょう」

 僕は教室を後にした。

 そしてその夜、ルナ、美月、紅葉たちとのメッセージグループに、

『明日、やばい匂いの缶詰が開かれる。俺、呼ばれた』

 とだけ送った。

 数秒後。

 ルナ:『なんであんたが嗅ぐの前提なの!?死ぬよ!?!?』

 美月:『最低限、保健室に報告してからにして。あと匂い戻してこないで』

 紅葉:『……香りは、読者にやさしくあるべき。あなたに静かな死が訪れませんように』

 ――文化祭二日目。
 正午。
 僕は、“世界最悪の香り”と対峙することになる。

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