「匂いを嗅ぐ名探偵は、高校生活に巻き込まれる! 臭気判定士の能力で転校生の秘密を嗅ぎ取る青春ラブコメ」

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第27話:開封と同時、教室崩壊──最悪の芳香剤

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 文化祭二日目、正午。

 校内放送が終わると同時に、生徒たちが賑やかに動き出す。
 だがその一角、旧・化学実験室の前だけは異様な静けさに包まれていた。

「……準備はできてるわ」

 御影えまが言う。
 彼女の背後には、スウェーデン国旗を模した手作りパネルと、冷却ボックスに鎮座する一缶の銀色の金属。

『シュールストレミング』――その名は既に、噂で校内を駆け巡っていた。

「本当にやるのか……」

 僕は深呼吸をし、気配を整える。
 えまが小さく頷いた。

「開けるわよ。白井くん、そばにいて」

 僕は缶の前に立つ。手袋をはめ、缶切りの刃を静かに当てる。

「行くぞ……」

 そして、

『プシュ……ッ!』

 小さな音と共に、缶が開いた。

 その瞬間――

「うっ……!?」

 周囲にいた三年生が、まず顔を歪めて後ずさる。

「くっさ!? うわっ、なにこれ、ほんとに食べ物!?」「ちょっ、マジで無理、目が!目がぁ!!」

 煙のように立ち上る“臭気のヴェール”。
 その匂いは、腐敗を通り越して生物の末期臭とすら言えた。

 アンモニア、硫黄、酢酸、タンパク質の分解臭、そして濡れた犬が何かを踏んだような……。

(来た……これが、世界最悪の香り)

 だが、僕は鼻を塞がなかった。
 むしろ、そこから香りの層を探り始めていた。

「……確かに強烈だけど、ただの悪臭じゃない」

 えまが、すぐ隣でにやりと笑う。

「でしょ? 発酵と腐敗は、紙一重。
 これは“命が変化する香り”。白井くんには、それが分かると思ってた」

 生徒の悲鳴が遠くで上がる。
 校舎の窓が開け放たれ、廊下に避難する姿もちらほら。
 それでも僕は、缶の匂いに集中していた。

(たしかに……酵母の発酵臭。塩とニシンの混ざった“旨味の腐臭”だ)

「なにしてんの白井ぇぇぇぇぇ!!!」

 叫びながら教室に飛び込んできたのは――白神ルナ。

「どんだけ変態嗅覚発揮してんの!? 鼻で人権失うよ!?
 しかもこの教室、マジで終わってるから!!」

 彼女は涙目でマスク二重にしていたが、それでも無理だったらしく、すぐに教室から飛び出した。

「……なにあれ、殺人兵器……」

 続いて現れたのは、久遠美月。

「空気が……酸素じゃない……臭素か……」

 美月はハンカチで口を覆いながら、僕の肩を叩く。

「白井くん、後悔しないうちにやめなさい。本当に記憶に染み込むわよ」

 だが、僕の鼻はもう、ある一線を越えていた。

「……これ、ただの嗅覚じゃ味わえない。知覚を超えた“香りの理解”だ」

 美月とルナは、もはや言葉を失っていた。

 最後に現れたのは、志村紅葉。
 彼女は書道展示の手伝いを終えて、静かにこの空間に足を踏み入れた。

「……あれが、噂の……」

「紅葉! 来るな! 嗅覚に一生残るぞ!」

 彼女は一歩、僕の隣まで来て、鼻をほんの少し近づけた。

 そして、目を閉じて言った。

「これは、“終末”の匂いですね」

 僕は笑った。

「うん。だが、終わりじゃない。
 ここからが、“匂いの再定義”だ」

 御影えまが、缶の前で微笑む。

「明日、生徒会と運営側に、プレゼンしてもらうわ。香りの価値と、この展示の正当性を」

 僕は頷いた。

「香りは、ただ嗅ぐものじゃない。考えるものだ」

 世界一臭い缶詰を前にして、僕はそう断言した。

 その夜、校内掲示板に張り出された。

『明日昼、白井健太による“香りと文化”特別プレゼン実施』

 次回、僕は嗅覚の名にかけて、この“悪臭事件”に決着をつける。

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