29 / 302
第28話:文化祭失敗と、怒りのヒロイン包囲網
しおりを挟む
文化祭二日目、午後。
旧化学実験室の“シュールストレミング展示”が開かれたあと、校内には明らかな異変が広がっていた。
「おい、あの廊下、まだ匂い残ってるぞ……」「なんか、校内放送の向こうで悲鳴聞こえなかった?」「展示中止になった教室、三つ目だって……」
ざわめきが廊下を満たし、香りと騒動は瞬く間に文化祭の主役をかっさらっていった。
中心にいたのは、僕。
そして、その“協力者”とされる御影えま。
「これ、マジで騒ぎになってんじゃん……」
教室に戻ってきた僕を待ち受けていたのは、想像通りの空気だった。
いや、それ以上だった。
「白井健太ァァァァァ!!」
怒声とともに、白神ルナが机を越えて突進してくる。
「ちょ、ちょっと待て、落ち着け……!」
「落ち着けるかぁああああっ!! なんで“世界一臭い缶詰”を真顔で開けたぁあああ!?!」
彼女の髪からは、まだミルクティーの柔軟剤の香りがふんわり漂っているが、表情はまさに雷神そのもの。
「てか! 文化祭が今まさに! 滅んでるんだけど!?!」
「……まぁ、それは」
「わかってるなら! なぜ嗅いだ!!」
とどめの張り手が飛んできた瞬間、背後から柔らかな手が僕の肩を取った。
「……ルナさん、暴力はだめよ」
久遠美月だった。
しかしその表情は、どこか無機質で静かすぎた。
「白井くん。貴方は、香りが好きなのよね」
「もちろん」
「では聞かせて。“人の迷惑にならない”という基本的な倫理観と、“香りを愛する”という好奇心、どちらが上だと思う?」
「……え?」
「私ね、今日展示してた“香りの歴史”資料、急遽撤収されたの。匂いが流れ込んできて生徒が倒れたって」
「う……」
「私のせいじゃないけど、貴方のせいではあるのよ」
静かな圧が、痛かった。
「……健太」
最後に現れたのは志村紅葉。
書道部の作品が一部巻き取られ、香りつき和紙が“腐敗臭”と誤認され廃棄されたらしい。
「“香りの責任”って、あると思うの。発する人間が、どこまで理解して届けるか。それが足りなかった」
「ごめん……」
3人に囲まれた僕は、完全に“文化祭戦犯”の扱いだった。
しかし、そこにえまが入ってきた。
「いいじゃない、話題になったんだし」
その一言が、完全に火に油を注いだ。
「ちょ、おま、無自覚にもほどが――!」
「明日、白井くんがプレゼンするから。
“香りとは何か”って話を。全部説明して、言い訳じゃなく、正当性を証明するって」
「……え?」
僕は思わず振り返った。
「聞いてないぞ」
「さっき決めた。責任、取る覚悟でしょ?」
えまは微笑みながら、冷却ボックスの残骸を背に立っていた。
「私は全部サポートする。だけど、前に出るのは、貴方」
……このまま終わらせるわけにはいかない。
「分かった。明日、やる」
ヒロインたちは驚いたようにこちらを見た。
「“香りが迷惑”だったことは認める。
でも“香りが悪”だったとは思ってない。
人に受け入れられないものにも、存在する意味がある。俺は……それを伝えたい」
沈黙。
やがて、美月が口を開いた。
「……期待してる。最低限、心で嗅げる話にしてね」
ルナが頬を膨らませる。
「臭いのに感動させるって、どんだけ無理ゲーだよ……でも、ちょっとだけ見てやる」
紅葉が小さく笑った。
「終わったら、また香りのしおり、渡してもいい?」
「……ああ、ぜひ」
文化祭は、一度崩壊しかけた。
でも、今度は“香りの希望”で救う。
次回。
匂いを愛し、香りに呑まれかけた僕が、その意味を全校に伝える番だ。
“香りと尊厳”のすべてを嗅ぎ切るために。
旧化学実験室の“シュールストレミング展示”が開かれたあと、校内には明らかな異変が広がっていた。
「おい、あの廊下、まだ匂い残ってるぞ……」「なんか、校内放送の向こうで悲鳴聞こえなかった?」「展示中止になった教室、三つ目だって……」
ざわめきが廊下を満たし、香りと騒動は瞬く間に文化祭の主役をかっさらっていった。
中心にいたのは、僕。
そして、その“協力者”とされる御影えま。
「これ、マジで騒ぎになってんじゃん……」
教室に戻ってきた僕を待ち受けていたのは、想像通りの空気だった。
いや、それ以上だった。
「白井健太ァァァァァ!!」
怒声とともに、白神ルナが机を越えて突進してくる。
「ちょ、ちょっと待て、落ち着け……!」
「落ち着けるかぁああああっ!! なんで“世界一臭い缶詰”を真顔で開けたぁあああ!?!」
彼女の髪からは、まだミルクティーの柔軟剤の香りがふんわり漂っているが、表情はまさに雷神そのもの。
「てか! 文化祭が今まさに! 滅んでるんだけど!?!」
「……まぁ、それは」
「わかってるなら! なぜ嗅いだ!!」
とどめの張り手が飛んできた瞬間、背後から柔らかな手が僕の肩を取った。
「……ルナさん、暴力はだめよ」
久遠美月だった。
しかしその表情は、どこか無機質で静かすぎた。
「白井くん。貴方は、香りが好きなのよね」
「もちろん」
「では聞かせて。“人の迷惑にならない”という基本的な倫理観と、“香りを愛する”という好奇心、どちらが上だと思う?」
「……え?」
「私ね、今日展示してた“香りの歴史”資料、急遽撤収されたの。匂いが流れ込んできて生徒が倒れたって」
「う……」
「私のせいじゃないけど、貴方のせいではあるのよ」
静かな圧が、痛かった。
「……健太」
最後に現れたのは志村紅葉。
書道部の作品が一部巻き取られ、香りつき和紙が“腐敗臭”と誤認され廃棄されたらしい。
「“香りの責任”って、あると思うの。発する人間が、どこまで理解して届けるか。それが足りなかった」
「ごめん……」
3人に囲まれた僕は、完全に“文化祭戦犯”の扱いだった。
しかし、そこにえまが入ってきた。
「いいじゃない、話題になったんだし」
その一言が、完全に火に油を注いだ。
「ちょ、おま、無自覚にもほどが――!」
「明日、白井くんがプレゼンするから。
“香りとは何か”って話を。全部説明して、言い訳じゃなく、正当性を証明するって」
「……え?」
僕は思わず振り返った。
「聞いてないぞ」
「さっき決めた。責任、取る覚悟でしょ?」
えまは微笑みながら、冷却ボックスの残骸を背に立っていた。
「私は全部サポートする。だけど、前に出るのは、貴方」
……このまま終わらせるわけにはいかない。
「分かった。明日、やる」
ヒロインたちは驚いたようにこちらを見た。
「“香りが迷惑”だったことは認める。
でも“香りが悪”だったとは思ってない。
人に受け入れられないものにも、存在する意味がある。俺は……それを伝えたい」
沈黙。
やがて、美月が口を開いた。
「……期待してる。最低限、心で嗅げる話にしてね」
ルナが頬を膨らませる。
「臭いのに感動させるって、どんだけ無理ゲーだよ……でも、ちょっとだけ見てやる」
紅葉が小さく笑った。
「終わったら、また香りのしおり、渡してもいい?」
「……ああ、ぜひ」
文化祭は、一度崩壊しかけた。
でも、今度は“香りの希望”で救う。
次回。
匂いを愛し、香りに呑まれかけた僕が、その意味を全校に伝える番だ。
“香りと尊厳”のすべてを嗅ぎ切るために。
20
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について
おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である
そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。
なんと、彼女は学園のマドンナだった……!
こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。
彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。
そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。
そして助けられた少女もまた……。
二人の青春、そして成長物語をご覧ください。
※中盤から甘々にご注意を。
※性描写ありは保険です。
他サイトにも掲載しております。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる