「匂いを嗅ぐ名探偵は、高校生活に巻き込まれる! 臭気判定士の能力で転校生の秘密を嗅ぎ取る青春ラブコメ」

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第36話:再会と対峙──“嗅覚は狂わない”

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 都内某所、廃ビルの屋上。

 犯人――橘祥一は、監視捜査の結果ここへ現れると予測され、浅見局長と警察は周囲を包囲していた。

 だが、対峙するのは僕、白井健太ひとり。

「……よく来たな、“香りの記憶者”」

 夕日が差す屋上に、スーツを着崩し、マスクも外した橘が立っていた。

「君が……人を殺した理由は、香りか」

「“理由”だと? 君も嗅いだはずだ、あの完璧な死臭を!」

 橘は目を見開き、陶酔するように語る。

「腐敗も、消臭も、すべて“香りの層”だ。人間という生き物の“情報”が、香りに集約されているんだ」

「だから殺した? 殺して、香りを作ったのか?」

「そうだ。香水は支配だ。
 誰がどの香りを纏うか。何が残るか。それを決めるのは香りの支配者たる俺だ」

 狂気と確信が入り混じった言葉。
 でも僕は、一歩も引かない。

「違う」

 橘が眉をひそめる。

「……なんだと?」

「香りは、支配するものじゃない。
 選ぶものだ。人が、自分で選ぶから意味がある。
 誰かのためじゃなく、自分の“記憶”と“感情”を香りに託すんだ」

「……綺麗事だ」

「綺麗じゃない。だからこそ、残るんだよ」

 僕はポケットから小瓶を取り出した。
 あの日、橘が店で触れた香料の一滴。

 そして、目の前の橘が着ているコートの襟元に、わずかな違和感を感じた。

(……あれは、Y-C2じゃない)

「そこ、襟元の香り……さっきと違うな」

 橘が一瞬、ビクついた。

「Y-C2じゃない。“無香偽装スプレー”を使ってるふりをして、実は違う成分に変えている」

「……なぜ、それを」

「簡単だ。“消臭成分”でありながら、そこに少しだけ、甘いナツメグの香りが混じってる。
 Y-C2にはナツメグ成分はない。つまり――」

「お前は“香りの真似”をしたつもりでも、香りそのものには偽装できていない」

 橘が唇を噛んだ。

「君の嗅覚、狂ってる……」

「違う、正確なんだ。僕の嗅覚は、“君の狂気”より、真実に近い」

 警官たちが静かに周囲から近づいてくる。
 橘は、それに気づきながらも微動だにしない。

「……俺は、ただ香りの“意味”が知りたかっただけだ」

「その気持ちは分かるよ。でも、方法を間違えた」

 僕の言葉に、橘はゆっくりと膝をついた。

 香りは、記録だった。
 香りは、意思だった。

 そして、香りは、証拠だった。

「……終わったな」

 浅見局長の声が、背後から聞こえた。

「見事だった、白井くん。嗅覚の勝利だ」

「……いえ。“香りが、真実を伝えてくれた”だけです」

 この鼻は、狂っていない。

 狂っていたのは、“香りを支配できる”と信じた男のほうだった。

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