「匂いを嗅ぐ名探偵は、高校生活に巻き込まれる! 臭気判定士の能力で転校生の秘密を嗅ぎ取る青春ラブコメ」

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第90話:白井って、ほんと憎めない

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次の日、放課後の駅前。

香道体験の余韻を引きずりながら、僕と遥香は帰り道を一緒に歩いていた。

夕暮れの空気はすこし涼しくて、風が吹くたびに、昨日の香木の余韻がふと思い出される。

「ねえ白井」

遥香が僕の顔を覗き込んでくる。

「……白井って、私より一個下のくせに、なんか大人びてるよね」

「……まぁ~そこが好きになったんだけど」

そう言いながら、遥香は僕の鼻をむぎゅっとつまんできた。

「ふがっ……ちょ、なにすんの!」

「にひひっ」

茶化すような笑い声。
でもその目は、少しだけ潤んで見えた。

「白井ってさ、そうやって黙ってると何考えてるか分かんないし、妙に達観してるし……」

「でも、香りのことになると急に熱っぽくなるの、ずるいんだよ」

僕は鼻をさすりながら、困ったように笑った。

「……言いたい放題だな」

「うん。だって白井の前では素直でいたいもん」

風がまた、ふわりと吹いた。

その瞬間、彼女の髪から微かに香る柔らかな石けんの匂いが、僕の鼻先をかすめた。

──やっぱりこの香り、好きだな。

僕は、何も言わずに、その香りを胸いっぱいに吸い込んだ。

ふと、歩きながら彼女の手に目がとまる。

「……手、ちょっとインクの匂い、染みてるね」

遥香は一瞬きょとんとして、それから指先を嗅いで笑った。

「あ~、うん。アルバイト先で印刷の仕事も紹介してもらってね、それでかな?
臭い?」

僕は首を横に振る。

「働く人の匂いって感じ。俺、そういうの好き」

遥香の目がぱちぱちと瞬き、頬がほんのり赤くなる。

「……も~、そういうことは……思ってても言わないの」

その照れた声が、どこかくすぐったくて。

インクと、汗と、石けんの香り。
どれもが、彼女らしくて──
僕はもう一度、そっと彼女の手を握った。

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