「匂いを嗅ぐ名探偵は、高校生活に巻き込まれる! 臭気判定士の能力で転校生の秘密を嗅ぎ取る青春ラブコメ」

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第124話「香水の痕跡──犯人はすぐそばに?」

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 遺体発見から三日後、現場の空気は日常へと戻ろうとしていた。

 生徒たちは再び通常授業に戻り、「栗拾い中に何かあったらしい」と噂しながらも、事件の詳細は知らされていない。
 学校も警察も報道管制を敷き、必要以上の混乱を避けていた。

 

 ──けれど僕の中では、香りの記憶が未だに燃え続けていた。

 

(あの香り……あの安い人工香料……)

 

 どこかで、確実に嗅いだ。
 もっと近くで。ごく最近。

 鼻が覚えているのに、脳がその“持ち主”の顔をまだ引き出せずにいた。

 

 僕は、事件当日の写真記録を確認した。
 学校が撮影した栗拾い体験のスナップショット──

 生徒たちだけではない。

 そこには同行していた関係者たちの姿も映っていた。

 

 バスの運転手。
 現地ガイド。
 施設のボランティア。
 そして、栗林の管理スタッフ。

 

 ――その瞬間、鼻の奥が、微かにうずいた。

 画面越しにも“思い出せる香り”があった。

 

(……こいつだ)

 

 ガイドの男──
 中肉中背、帽子を深く被り、笑顔の記録が一枚も残っていない。

 名前は【山原 晃(やまはら・あきら)】。施設職員として登録されている人物。

 

 あの香りを纏っていたのは、彼だった。

 

 安物の香水の、旧パターン。

 トップにスパイシー、ミドルに合成ウッディ、ラストにわずかに石鹸調。

 それは5年前に販売終了となった某量販店ブランドのもの。

 今でも使用している人間は非常に少ない──しかし、それは「個人の香りの癖」として極めて強く残る。

 

(……まだ嗅げる。あのとき、彼が近くを通った一瞬、鼻が反応していた)

 

 僕は、写真とともに、調香記録のメモを添えて、浅見刑事局長に送信した。

 《白井 → 浅見局長》
「事件当日、現地ガイドの“山原晃”が被害者遺体に残っていた香水と同一の香調を使用していました。
 香料構成、揮発時間、保留性において一致。
 旧タイプの市販品で現在は廃盤。
 ご確認のうえ、内偵調査のご検討をお願いします」

 

 返信はすぐに返ってきた。

 《浅見 → 白井》
「君の情報、すでに捜査線上にいた人物と一致した。
 山原晃──過去に複数のパワハラ・暴行歴あり。
 一時、福祉施設で勤務していた経歴も判明。
 詳細調査に入る。引き続き香気分析と協力を頼む」

 

 僕はスマホを見つめながら、息を吐いた。

 

 事件の“香り”が──
 ついに“犯人の顔”を掴み始めた。

 

 その香りは、偽りだった。

 優しさや清潔さを装うための、人工的な香り。

 けれど、どれだけ香水を重ねようと、
 腐敗の下に隠された“本性”は、香りの奥に残り続ける。

 

 香りは、偽れない。

 だからこそ、嗅覚は真実を見抜く。

 

 僕の鼻は、忘れない。

 そして、導く。

 真実へと──香りで、たどり着く。

 

 つづく。
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