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第126話「落ち葉と、栗の香り、そして君たち」
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事件の衝撃がようやく収まり、学校は静かに“日常”を取り戻しつつあった。
本来なら秋の思い出として残るはずだった栗拾い体験は中止になり、
生徒たちもどこか心の隅に、重い空気を引きずっている。
けれどその日、学校の中庭には──
ほくほくと甘い、焼き栗の香りが立ち込めていた。
「栗、焼いてますよ~! 順番に並んで~!」
家庭科の先生と有志の生徒たちが用意してくれた即席の“栗焼きイベント”。
鉄板の上では、黒く焦げ目のついた栗たちがパチパチと音を立てていた。
火の香りと、栗の甘い香り。
その優しい重なりに、教室の空気まで和らいでいくのが分かる。
「……うわ、めっちゃいい匂いじゃん……」
ルナが両手に軍手をはめながら、栗を一つずつ網から取り上げていく。
「秋ってさ、“美味しい香り”が多いよねー。
でも、“ちょっと寂しい香り”も混じっててさ……それが、なんか、青春って感じ?」
その言葉に、美月がふっと頷いた。
「……そうね。
秋って、不思議。香りが優しくて、でも……ずっと、残るの」
僕は頷きながら、その香りをゆっくり鼻の奥に留める。
煙と、甘さと、栗の皮の焦げた匂い。
その全部が──今日という日を、青春の記憶として閉じ込めてくれる気がした。
紅葉が、ひとつ栗を手渡しながら言う。
「君の鼻、事件だけじゃなく、ちゃんと“青春”も嗅ぎとってるってことよ。
……それって、ちょっと羨ましいかも」
「……いや、それ、かなり疲れるよ?」
僕が笑うと、ヒロインたちも自然と微笑みを返してくれた。
栗の香りが、言葉よりも多くのものを伝えてくれる。
ささやかな火を囲みながら、いぶきがぽつりとつぶやく。
「でも……こうして、香りの記憶って、消えないんだよね。
あの事件の香りも……今日の栗の匂いも、きっと一緒に残る」
それは、まさに今の僕の気持ちと重なった。
栗の甘さの奥に、まだわずかに残っている“腐敗臭の記憶”。
けれど今は、それを“過去”として閉じ込めるだけの、温かい香りがここにはある。
そして──
ルナが焼きあがったばかりの熱々の栗を差し出しながら言った。
「ねぇ白井、来年もまた……一緒に栗、拾おうね?」
その一言に、僕は迷わず頷いた。
「うん。
今度は、“香り”じゃなくて……“想い出”だけで、いい」
秋の風が吹いた。
落ち葉がくるくると舞い、焼き栗の香りとともに空へと舞い上がっていく。
それでも、今日のこの日が──
確かに**“青春”として香ったこと**を、僕の鼻はちゃんと、覚えている。
香りは記憶になる。
香りは、想い出になる。
そして、香りは──また、新しい“誰か”へとつながっていく。
つづく。
本来なら秋の思い出として残るはずだった栗拾い体験は中止になり、
生徒たちもどこか心の隅に、重い空気を引きずっている。
けれどその日、学校の中庭には──
ほくほくと甘い、焼き栗の香りが立ち込めていた。
「栗、焼いてますよ~! 順番に並んで~!」
家庭科の先生と有志の生徒たちが用意してくれた即席の“栗焼きイベント”。
鉄板の上では、黒く焦げ目のついた栗たちがパチパチと音を立てていた。
火の香りと、栗の甘い香り。
その優しい重なりに、教室の空気まで和らいでいくのが分かる。
「……うわ、めっちゃいい匂いじゃん……」
ルナが両手に軍手をはめながら、栗を一つずつ網から取り上げていく。
「秋ってさ、“美味しい香り”が多いよねー。
でも、“ちょっと寂しい香り”も混じっててさ……それが、なんか、青春って感じ?」
その言葉に、美月がふっと頷いた。
「……そうね。
秋って、不思議。香りが優しくて、でも……ずっと、残るの」
僕は頷きながら、その香りをゆっくり鼻の奥に留める。
煙と、甘さと、栗の皮の焦げた匂い。
その全部が──今日という日を、青春の記憶として閉じ込めてくれる気がした。
紅葉が、ひとつ栗を手渡しながら言う。
「君の鼻、事件だけじゃなく、ちゃんと“青春”も嗅ぎとってるってことよ。
……それって、ちょっと羨ましいかも」
「……いや、それ、かなり疲れるよ?」
僕が笑うと、ヒロインたちも自然と微笑みを返してくれた。
栗の香りが、言葉よりも多くのものを伝えてくれる。
ささやかな火を囲みながら、いぶきがぽつりとつぶやく。
「でも……こうして、香りの記憶って、消えないんだよね。
あの事件の香りも……今日の栗の匂いも、きっと一緒に残る」
それは、まさに今の僕の気持ちと重なった。
栗の甘さの奥に、まだわずかに残っている“腐敗臭の記憶”。
けれど今は、それを“過去”として閉じ込めるだけの、温かい香りがここにはある。
そして──
ルナが焼きあがったばかりの熱々の栗を差し出しながら言った。
「ねぇ白井、来年もまた……一緒に栗、拾おうね?」
その一言に、僕は迷わず頷いた。
「うん。
今度は、“香り”じゃなくて……“想い出”だけで、いい」
秋の風が吹いた。
落ち葉がくるくると舞い、焼き栗の香りとともに空へと舞い上がっていく。
それでも、今日のこの日が──
確かに**“青春”として香ったこと**を、僕の鼻はちゃんと、覚えている。
香りは記憶になる。
香りは、想い出になる。
そして、香りは──また、新しい“誰か”へとつながっていく。
つづく。
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