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第一章: 南蛮妖術で異世界転移

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佐藤悠斗は、21歳の冴えないアニメオタクだった。



彼は異世界転生ものが大好きで、毎晩、ボロアパートの六畳間で妄想にふけっていた。



部屋は薄暗く、古びた蛍光灯がチカチカと点滅している。



壁にはアニメのポスターが貼られ、畳は擦り切れて独特の匂いを放っていた。



床にはカップ麺の容器が転がり、ゴミ箱は溢れんばかりだ。



その夜も、彼はスマホを手に新たな妄想を膨らませていた。



舞台は魔法が息づく江戸時代風の異世界。



悠斗はそこで南蛮妖術使いとして大活躍する設定だ。



決め台詞は長くてカッコいい呪文。



短い呪文なんてダサいと考える彼は、厨二病全開で叫んだ。



「我、佐藤悠斗、星々の狭間に響きし偉大なる声を以て、南蛮の秘術を呼び起こす! 焰の精霊よ、風の使者よ、時を刻む砂の守護者よ、我が命ずるままに顕現せよ! 禁忌の門を開き、世界の理をぶち壊せ! エクスプロージョン・オブ・スーパー・アメイジング・ディスティニー!」



声が部屋に響き、隣の壁からドン!と抗議の音が返ってきた。



「うるせえよ!」と怒鳴り声が聞こえたが、悠斗は気にしない。



テンションが上がり、目を閉じて両手を天に突き上げた。



その瞬間――異変が起きた。



足元の畳がグニャリと歪み、視界が真っ暗になった。



耳鳴りがビービーと響き、頭がクラクラする。



「お、おい、まさか貧血か!?」と慌てた刹那、体がふわっと浮き上がり――次の瞬間、彼は森のど真ん中に立っていた。



目の前には、時代劇のセットみたいな光景が広がっていた。



木々の間に続く土の道を、武士の行列が進んでいる。



旗には三つ葉青いの家紋ががデカデカと描かれ、先頭には馬に跨った威厳ある男がいた。



甲冑姿の護衛たちが周りを固め、馬の蹄の音と刀の鞘が擦れる音が森に響く。



悠斗の脳裏に、アニメで仕入れた知識が闪いた。



徳川の行列だ!



ん?日光街道?日光参詣の途中じゃん!



「うおお、マジかよ! 異世界転移きたこれ!」と興奮する悠斗だったが、状況は急に動き出した。



森の奥から喊声が響き、黒装束の集団が飛び出してきた。



「豊臣の残党だ! 家光をぶっ潰せ!」と叫びながら、彼らは刀を手に襲いかかる。



護衛たちは即座に反応した。



「守れ! 家光公を守れ!」と叫びながら、刀を振り回し、槍を突き出す。



「うおおお! 死ぬな、皆!」と一人が汗だくで敵の刀を弾いた。



別の護衛が「槍だ! 槍を構えろ!」と必死に叫んだ。



弓兵が矢を放ち、敵の陰陽術使いが「火よ!」と短い呪文を唱え、小さな火球を放った。



火球は木に当たり、焦げ臭い煙が立ち上った。



別の陰陽術使いが「風よ!」と叫び、突風が護衛を押し返す。



馬上の家光は刀を抜き、



「余を誰だと思っておる! この徳川家光を討つなど、貴様らごときにできようはずがなかろう!」



と偉そうに吠えた。



戦場は一瞬でカオスと化した。



木々の間を矢が飛び交い、刀と刀がぶつかり合う火花が散った。



地面には血が飛び散り、倒れた護衛が「うぐっ」と呻いた。



豊臣残党のリーダーらしき男が「家光の首を取れ!」と叫び、刀を振り上げた。



悠斗は目を丸くして立ち尽くしていたが、心の中でニヤリと笑った。



「これはチャンスだろ! 南蛮妖術使いとして、ここで大活躍して、家光に感謝される展開じゃん!」



彼はさっきの呪文を思い出して叫び始めた。



「えっと、我、佐藤悠斗、星々の狭間に響きし偉大なる声を以て、南蛮の秘術を――」



「そこの南蛮人! 何をグズグズしておる! 余を助ける気はないのか!」



と家光が馬上から高圧的に怒鳴った。



悠斗はビクッと肩を震わせた。



「す、すみませんでした! とりあえず行くぞー!」



慌てて呪文を端折る。



「焰の精霊よ、ドカンと来い! エクスプロージョン!」



手から火花がバチバチと飛び散り、前方の敵がドカーンと吹っ飛んだ。



土煙がモクモクと上がり、森に爆発音がこだました。



吹っ飛んだ陰陽術使いが「ぐはっ!」と地面に叩きつけられ、動かなくなった。



「うおっ、成功した! 俺、マジで南蛮妖術使いじゃん!」と悠斗がガッツポーズを取った。



家光が目を丸くして彼を見た。



「お前、何者だ! 南蛮妖術使いなのか!」



「ええ、まあ、そんな感じっすね! 佐藤悠斗っす、以後よろしく!」と得意げに答える悠斗。



だが、家光は彼の妙な服を見て眉をひそめた。



「その妙な出で立ちは何だ! 南蛮人にしては胡散臭いぞ!」



悠斗の服は、アニメキャラがプリントされたTシャツとジーパンだ。



確かにこの世界では浮いている。



「まあ、そういうことにしといてください!」と笑ってごまかした。



戦場はますますヒートアップしていた。



護衛たちは必死に戦っていた。



「くそっ、敵が多すぎる! 耐えろ!」と刀を握り潰さんばかりに力を込める者。



「家光公を守るんだ! 死んでも離れるな!」と槍を振り回す者。



陰陽術使いが「風よ!」と叫んで風圧を放ち、護衛が吹き飛ばされた。



「うわっ! 援護を頼む!」と護衛の一人が叫んだ。



矢が家光の馬の足元にビュンと刺さり、馬が「ヒヒーン!」と嘶いた。



家光が「貴様ら、余を愚弄するか!」と怒鳴り、刀を振り上げた。



豊臣残党がさらに押し寄せ、護衛の一人が「ぐはっ!」と胸を斬られて倒れた。



血が地面に広がり、戦場の空気が重くなった。



「まずいぞ、このままじゃ家光死ぬじゃん!」と焦る悠斗に、家光が偉そうに命じた。



「南蛮人! 余を救うのがお前の役目だ! さっさと何とかせんか!」



「ええ、分かりましたって! でも長い呪文しかできないんだよな……いや、待てよ、ここは一発ぶっ飛んだ南蛮妖術で勝負だ!」



ひらめいた悠斗は、両手を広げて新しい呪文を叫び始めた。



「我、佐藤悠斗、深淵に潜む超ヤバい南蛮の精霊を呼び起こし、古の禁忌をぶち開ける! 蠢く影よ、痒みの使者よ、戦場のバカどもに超絶迷惑な呪いをぶちかませ! 股間をガリガリ掻きたくなる衝動をぶっ放せ! スーパー・イッチング・カース・オブ・ド変態・アゴニー!」



長い呪文が響き渡ると、彼の手からド派手な紫のモヤモヤが噴き出した。



モヤは戦場を覆い、護衛も陰陽術使いも関係なく飲み込んだ。



次の瞬間、奇跡が起きた。



「うわっ! 何だ!?」と護衛が叫んだ。



「股間が痒いぞおお!」と陰陽術使いが呻いた。



「刀持てねえ! くそっ、南蛮の妖術か!」と敵が慌てた。



護衛も豊臣残党も、武器をポロリと落とし、股間をガリガリ掻き始めた。



「うおお! 耐えろ、耐えるんだ!」と護衛が地面に転がりながら叫んだ。



「痒い痒い! 戦えねえ!」と陰陽術使いが木に股間を擦りつけた。



「助けてくれー!」と蹲ってじたばたする者もいた。



戦場は一瞬にして混乱の坩堝と化した。



家光が「南蛮人、お前、何をした?」と呆然と悠斗を見た。



彼はニヤニヤしながら答えた。



「いやいや、戦いを止めるための神の一手っすよ! 敵も味方も股間痒くなったら戦う気なくすでしょ?」



「ふざけるな! 余の護衛まで巻き込むとは何事だ!」と家光が偉そうに怒鳴った。



だが、効果は抜群だった。



「うおお、降参だ! この妖術やめてくれー!」と豊臣残党のリーダーが叫んだ。



悠斗は「っしゃ!」と拳を握った。



「よし、じゃあ解除してやるか! えっと、我、佐藤――」



「また長いのをやる気か! さっさと終わらせんか、この愚か者!」と家光に怒鳴られ、悠斗は「うっす!」と短く叫んだ。



「痒み、消えろ!」



紫のモヤが消え、戦場が静かになった。



敵は「助かった……」と呻きながら森の奥へ逃げ散った。



護衛たちは「はぁ……終わった」と汗だくで地面に座り込んだ。



家光は馬上で腕を組み、悠斗を睨んだ。



「お前、何だその術は! 下品すぎるぞ!」



「いや、まあ、南蛮妖術なんでこういうのが得意なんすよ」と悠斗が苦笑いした。



護衛の一人が「南蛮人……お前のおかげで助かったけど、二度と巻き込むなよ」と恨めしそうに言った。



「すんませんでした!」と悠斗が頭を下げた。



家光が偉そうに鼻を鳴らした。



「ふん、貴様、確かに妙な術だが、余を救ったのは事実だ。名を何と言う?」



「佐藤悠斗っす! よろしくおねがいしまーす!」と元気に答えた。



「佐藤悠斗か。覚えておくぞ。だが、その軽い態度は気に入らん」



「へい、気をつけます!」と悠斗が笑った。



戦場には静寂が戻り、風が木々を揺らした。



悠斗は内心、「異世界転移初日でこんな大活躍! これからどうなるんだろ」とワクワクしていた。



家光は馬を進め、「次に会う時は、もう少し役に立つ術を見せろ」と言い残した。



護衛たちは疲れた顔で片付けを始め、悠斗は一人、戦場の端でニヤニヤしていた。



こうして、佐藤悠斗の異世界ライフが始まった。



南蛮妖術でドタバタの初戦を制した彼は、これから何が待っているのか想像もつかない。



豊臣残党の復讐か、家光の新たな命令か。



いずれにせよ、彼の冒険はまだ始まったばかりだった。
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