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【体臭】 ポエム題材
『その匂いは、わたしの中の何かを狂わせる──においに対する一考察』《理系女子バージョン》
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体臭──
それは、個体差のある生理的現象である。
皮脂腺、アポクリン腺、エクリン腺。
発汗による揮発性有機化合物(VOC)。
そこに生活習慣、食事、ストレス因子、
あらゆる変数が絡み合って、
「その人特有の匂い」が生まれる。
そう、わたしはずっと、そう思ってた。
匂いは情報だ。
分子だ。
条件次第で変化する、ただの化学反応の残滓だって。
なのに。
どうして、あなたの体臭だけは──
数値化できない衝動を引き起こすの?
初めて気づいたのは、隣の席になった日だった。
あなたが席に着くと、
ふわりと空気が動いて、
そこに「あなたの匂い」が含まれていた。
洗いたてのシャツの繊維の奥に、
落ちきらなかった石鹸の香り。
微かに混じる皮脂の揮発分。
たぶん朝に飲んだコーヒーの呼気。
その全てが、まるで分子の構成式のように混ざり合って──
「あなた」というひとつの存在を、嗅覚で伝えてきた。
不快ではなかった。
むしろ、反応した。
わたしの脳の扁桃体が、感情を揺らした。
理性の中枢が、「異常値だ」と警告した。
でも、抑えられなかった。
あなたが動くたびに、
ノートに身を乗り出すたびに、
その匂いがわたしの空気中に混ざり込んで──
わたしの中のセンサーが、無断で反応を始めた。
「これはデータ外です」
「説明できません」
「制御不能です」
わたしの理性が、
わたし自身にそう訴えてくるのが、
なんだか悔しくて、たまらなかった。
だって、
わたしはすべてを理解していたはずだから。
においの正体も、化学構造も、影響も。
でも、「好き」という感情の方程式には、
未知数が多すぎた。
あなたの汗の匂い。
部活終わりの制服の襟。
ちょっと湿ったリストバンド。
そのすべてに、
わたしの呼吸はリズムを乱された。
「……どうしてわたし、今、ドキドキしてるの?」
ノートにメモを取るふりをして、
本当はずっと、匂いを測定してた。
いや、正確には、“感じて”いた。
論理を、計算を、統計を飛び越えて、
嗅覚が“あなたそのもの”を記憶していく。
香水みたいに誤魔化されてない、
生々しい“生活の痕跡”がそこにあって──
わたしは、そこに惹かれてしまったんだ。
あなたの匂いは、
教科書には載っていない。
論文にもない。
でも、確かに「わたしの中で作用している」匂いだった。
……これって、
一種の恋愛初期フェーズ特有の嗅覚認識過敏反応?
それとも、ただの精神的依存傾向?
いや、どうでもいい。
今のわたしには、そんな定義なんてどうでもよくて。
わたしは、あなたの匂いを、
“知って”しまった。
それはもう、
「戻れない」ということだ。
あなたが隣にいない日、
空気は無味無臭で。
ノートは真っ白で。
心拍は妙に整ってるのに、つまらなくて。
わたしは、静かに不調だった。
あの“あなたの匂い”がないだけで、
どうしてこんなにも、身体が正直なのか。
嗅覚って、こんなに裏切らない感覚だったんだ。
そんなこと、自分が一番よく知ってたはずなのに。
ねぇ、今もそうだよ。
教室であなたの匂いを嗅いでしまったら、
わたしのなかの科学が溶ける。
論理が溶けて、数式が揺らいで、
ただの一人の「女の子」に戻される。
わたしは──
あなたの体臭に惹かれた、
ただの生き物になってしまう。
でも、嫌じゃなかった。
むしろ、ちょっと嬉しかった。
だってそれは、きっと“恋”というやつだと思ったから。
論文では扱えない。
データに残せない。
でも、嗅覚が記憶してる、
たった一人のにおい。
わたしの脳が、心が、身体が、
“あなたの匂い”を覚えてる限り、
きっとこの想いは、残ると思うんだ。
だから、忘れないでね。
わたしが、あなたのことを嗅ぎ分けたあの瞬間を。
──だって、恋の始まりって、
きっと鼻で決まってたんだから。
それは、個体差のある生理的現象である。
皮脂腺、アポクリン腺、エクリン腺。
発汗による揮発性有機化合物(VOC)。
そこに生活習慣、食事、ストレス因子、
あらゆる変数が絡み合って、
「その人特有の匂い」が生まれる。
そう、わたしはずっと、そう思ってた。
匂いは情報だ。
分子だ。
条件次第で変化する、ただの化学反応の残滓だって。
なのに。
どうして、あなたの体臭だけは──
数値化できない衝動を引き起こすの?
初めて気づいたのは、隣の席になった日だった。
あなたが席に着くと、
ふわりと空気が動いて、
そこに「あなたの匂い」が含まれていた。
洗いたてのシャツの繊維の奥に、
落ちきらなかった石鹸の香り。
微かに混じる皮脂の揮発分。
たぶん朝に飲んだコーヒーの呼気。
その全てが、まるで分子の構成式のように混ざり合って──
「あなた」というひとつの存在を、嗅覚で伝えてきた。
不快ではなかった。
むしろ、反応した。
わたしの脳の扁桃体が、感情を揺らした。
理性の中枢が、「異常値だ」と警告した。
でも、抑えられなかった。
あなたが動くたびに、
ノートに身を乗り出すたびに、
その匂いがわたしの空気中に混ざり込んで──
わたしの中のセンサーが、無断で反応を始めた。
「これはデータ外です」
「説明できません」
「制御不能です」
わたしの理性が、
わたし自身にそう訴えてくるのが、
なんだか悔しくて、たまらなかった。
だって、
わたしはすべてを理解していたはずだから。
においの正体も、化学構造も、影響も。
でも、「好き」という感情の方程式には、
未知数が多すぎた。
あなたの汗の匂い。
部活終わりの制服の襟。
ちょっと湿ったリストバンド。
そのすべてに、
わたしの呼吸はリズムを乱された。
「……どうしてわたし、今、ドキドキしてるの?」
ノートにメモを取るふりをして、
本当はずっと、匂いを測定してた。
いや、正確には、“感じて”いた。
論理を、計算を、統計を飛び越えて、
嗅覚が“あなたそのもの”を記憶していく。
香水みたいに誤魔化されてない、
生々しい“生活の痕跡”がそこにあって──
わたしは、そこに惹かれてしまったんだ。
あなたの匂いは、
教科書には載っていない。
論文にもない。
でも、確かに「わたしの中で作用している」匂いだった。
……これって、
一種の恋愛初期フェーズ特有の嗅覚認識過敏反応?
それとも、ただの精神的依存傾向?
いや、どうでもいい。
今のわたしには、そんな定義なんてどうでもよくて。
わたしは、あなたの匂いを、
“知って”しまった。
それはもう、
「戻れない」ということだ。
あなたが隣にいない日、
空気は無味無臭で。
ノートは真っ白で。
心拍は妙に整ってるのに、つまらなくて。
わたしは、静かに不調だった。
あの“あなたの匂い”がないだけで、
どうしてこんなにも、身体が正直なのか。
嗅覚って、こんなに裏切らない感覚だったんだ。
そんなこと、自分が一番よく知ってたはずなのに。
ねぇ、今もそうだよ。
教室であなたの匂いを嗅いでしまったら、
わたしのなかの科学が溶ける。
論理が溶けて、数式が揺らいで、
ただの一人の「女の子」に戻される。
わたしは──
あなたの体臭に惹かれた、
ただの生き物になってしまう。
でも、嫌じゃなかった。
むしろ、ちょっと嬉しかった。
だってそれは、きっと“恋”というやつだと思ったから。
論文では扱えない。
データに残せない。
でも、嗅覚が記憶してる、
たった一人のにおい。
わたしの脳が、心が、身体が、
“あなたの匂い”を覚えてる限り、
きっとこの想いは、残ると思うんだ。
だから、忘れないでね。
わたしが、あなたのことを嗅ぎ分けたあの瞬間を。
──だって、恋の始まりって、
きっと鼻で決まってたんだから。
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