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【においの記憶】 ポエム題材
『匂い分子の構造記憶、それでもわたしは、あなたを分解できない』《理系女子バージョン》
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あなたのにおいは、
化学式では説明できなかった。
いや、できるにはできるの。
α-イソメチルイオノンと、リナロールと、
あとは少量のシス-3-ヘキセノール。
理論上、それはただの“合成香料”であり、
脳内では“快感記憶”と結びついてる芳香族化合物群。
でも、わたしにはそれが、
“あなたそのもの”の構造記憶に思えてしまうの。
***
ねぇ知ってた?
嗅覚って、五感の中で唯一、
脳の「大脳辺縁系」――つまり、感情や記憶を司る場所に直結してるの。
だから、“におい”は強い。
フラッシュバックするように、瞬時に過去を引き出す。
あなたのTシャツ。
あなたの寝ぐせと汗の混じった後頭部。
あなたが隣にいたときにわたしのシャーペンについた手の脂のにおい。
それらすべてが、わたしの記憶装置に“分子”として保存されてる。
そして困ったことに、
消去コマンドが、ないのよ。
***
香りは、空気中に溶けた分子。
空間に拡散し、嗅上皮に届き、受容体にくっつく。
それだけ。
それだけなのに、
なぜ涙が出るの?
そのシャツの匂いに似たものを街で嗅いだだけで、
わたしの嗅細胞が、あなたを呼び起こしてしまう。
しかも、精密すぎるくらい精密に。
声や映像よりも、
はるかに正確にあなたの存在を再生してしまう。
たぶんあなたは、わたしの脳に焼きついた匂いの記憶そのもの。
あなたのいないこの部屋に、
それでもまだ“あなたのにおい”が残っている気がするのは、
化学ではなく、執着のせいだと思うの。
***
わたし、試したのよ。
柔軟剤を変えてみた。
空気清浄機をフル稼働させた。
ファブリーズを3回かけて、
あの日、あなたが座ってた椅子をこすった。
でもダメだった。
“残留分子”って、そんなにすぐには消えない。
たとえ消えても、
わたしの鼻腔内には、まだ“あなた用の受容体”が存在していて、
似た香りを勝手に“あなた”と誤認してしまうの。
それはまるで――
恋する鼻の“過剰適応”よ。
***
研究で香りの閾値を測定していて、
ふとした瞬間、
あの香水と同じ“トップノート”が漂った。
そのときわたしの手が震えたのは、
学術的な興奮じゃない。
記憶が、嗅覚を追い越したの。
嗅いだときにはもう、
心が先に、あなたを取り戻していた。
それでも、
それでもわたしは科学の人間だから、
理屈で説明しようとした。
「これは芳香族化合物によるノスタルジア誘導反応であり――」
……って、そんなの、意味ないのにね。
恋って、
化学じゃ測れない“しめり”があるんだ。
***
ねぇ。
あなたがもうわたしを忘れていても、
わたしの鼻は、
まだ“あなた専用のチャンネル”で息をしている。
誰かが似たにおいをまとうたびに、
わたしは間違える。
何度も、何度でも。
あれ? って。
“この匂い、知ってる……”って。
でも、そのたびに気づく。
似てるけど、ちがうって。
あなたの汗には、
微量の鉄分と、
焦げたコットンと、
“昼寝した人のにおい”があった。
そういうのまで、
記憶してるんだよ、わたしの嗅覚は。
***
匂いは、見えないくせに、
いちばん濃く残る。
嗅覚って、
実は記憶を“上書き”できないんだって。
だから、
新しい恋の匂いがしても、
それが“あなたの記憶”に勝つことはないの。
つまり、
わたしは、ずっとあなたを嗅ぎ続けるのよ。
あなたのいないこの世界で。
分子としても、記憶としても、
わたしの中であなたはもう、代謝されない存在になった。
化学式では説明できなかった。
いや、できるにはできるの。
α-イソメチルイオノンと、リナロールと、
あとは少量のシス-3-ヘキセノール。
理論上、それはただの“合成香料”であり、
脳内では“快感記憶”と結びついてる芳香族化合物群。
でも、わたしにはそれが、
“あなたそのもの”の構造記憶に思えてしまうの。
***
ねぇ知ってた?
嗅覚って、五感の中で唯一、
脳の「大脳辺縁系」――つまり、感情や記憶を司る場所に直結してるの。
だから、“におい”は強い。
フラッシュバックするように、瞬時に過去を引き出す。
あなたのTシャツ。
あなたの寝ぐせと汗の混じった後頭部。
あなたが隣にいたときにわたしのシャーペンについた手の脂のにおい。
それらすべてが、わたしの記憶装置に“分子”として保存されてる。
そして困ったことに、
消去コマンドが、ないのよ。
***
香りは、空気中に溶けた分子。
空間に拡散し、嗅上皮に届き、受容体にくっつく。
それだけ。
それだけなのに、
なぜ涙が出るの?
そのシャツの匂いに似たものを街で嗅いだだけで、
わたしの嗅細胞が、あなたを呼び起こしてしまう。
しかも、精密すぎるくらい精密に。
声や映像よりも、
はるかに正確にあなたの存在を再生してしまう。
たぶんあなたは、わたしの脳に焼きついた匂いの記憶そのもの。
あなたのいないこの部屋に、
それでもまだ“あなたのにおい”が残っている気がするのは、
化学ではなく、執着のせいだと思うの。
***
わたし、試したのよ。
柔軟剤を変えてみた。
空気清浄機をフル稼働させた。
ファブリーズを3回かけて、
あの日、あなたが座ってた椅子をこすった。
でもダメだった。
“残留分子”って、そんなにすぐには消えない。
たとえ消えても、
わたしの鼻腔内には、まだ“あなた用の受容体”が存在していて、
似た香りを勝手に“あなた”と誤認してしまうの。
それはまるで――
恋する鼻の“過剰適応”よ。
***
研究で香りの閾値を測定していて、
ふとした瞬間、
あの香水と同じ“トップノート”が漂った。
そのときわたしの手が震えたのは、
学術的な興奮じゃない。
記憶が、嗅覚を追い越したの。
嗅いだときにはもう、
心が先に、あなたを取り戻していた。
それでも、
それでもわたしは科学の人間だから、
理屈で説明しようとした。
「これは芳香族化合物によるノスタルジア誘導反応であり――」
……って、そんなの、意味ないのにね。
恋って、
化学じゃ測れない“しめり”があるんだ。
***
ねぇ。
あなたがもうわたしを忘れていても、
わたしの鼻は、
まだ“あなた専用のチャンネル”で息をしている。
誰かが似たにおいをまとうたびに、
わたしは間違える。
何度も、何度でも。
あれ? って。
“この匂い、知ってる……”って。
でも、そのたびに気づく。
似てるけど、ちがうって。
あなたの汗には、
微量の鉄分と、
焦げたコットンと、
“昼寝した人のにおい”があった。
そういうのまで、
記憶してるんだよ、わたしの嗅覚は。
***
匂いは、見えないくせに、
いちばん濃く残る。
嗅覚って、
実は記憶を“上書き”できないんだって。
だから、
新しい恋の匂いがしても、
それが“あなたの記憶”に勝つことはないの。
つまり、
わたしは、ずっとあなたを嗅ぎ続けるのよ。
あなたのいないこの世界で。
分子としても、記憶としても、
わたしの中であなたはもう、代謝されない存在になった。
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