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ポエム題材『夏の日差しと汗のにおい』
「保健委員女子」による【看病シチュエーション × 汗と体温と匂い × 夏の午後】
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『制服に染みた体温──看病と恋心の境界で』
1.午睡の部屋に、蝉が鳴く
夏の午後の校舎は、
音が遠くて、熱が近い。
蝉の声が、窓の隙間から染みてくる保健室。
そこにあなたがいた。
浅く寝息を立てながら、
シャツの内側で、静かに“夏”を発酵させていた。
わたしは、
その匂いに
触れてしまった。
それは、
汗と体温と、
誰かのために無理をした痕跡。
──誰のため? まさか、わたし?
そんな期待をした時点で、
保健委員としての資格なんて、脱いでしまってたのかもしれない。
でも、もう遅かった。
わたしの制服の袖に、
あなたの体温が、確かに滲んでいた。
2.タオルが触れる瞬間、鼓動も触れた
額にタオルを置いたとき、
ほんの一瞬、
あなたのまぶたが震えた気がした。
呼吸が揺れて、喉元が動いて──
そこに汗が伝った。
その線を、
わたしは指でなぞってしまった。
看病のふりをして。
「冷たいでしょ」と
作り笑いで言いながら、
わたしの方が火照っていた。
わたしの制服の中の汗は、
たぶん、
あなたのために流れているわけじゃなかった。
自分の感情が、皮膚の下で迷子になって、
出口を見失ったまま、にじみ出ていた。
3.制服と制服が触れ合う温度
夏の汗は、
誤魔化しがきかない。
好きも、
やましさも、
言えなかった言葉も、
全部、匂いにして皮膚から漏れていく。
あなたのシャツには、
午前中の体育の残り香。
乾ききらない塩分が、
白い布を、うっすら透かしている。
わたしのスカートには、
あなたに寄りかかったときの熱が、
焼き印みたいに残ってる。
制服って、便利な盾だったはずなのに。
いまではもう、
心まで見透かされそうで、怖い。
でも、逃げたくない。
この“体温の距離”が、
わたしとあなたを、同じ季節に閉じ込めてくれているのなら。
4.名前を呼べないまま、汗に縋る
「大丈夫?」と何度も聞くけど、
それはあなたのためじゃなかった。
本当は──
「好き?」って聞きたいんだ。
「この汗の記憶に、わたしはいますか?」って。
でも、それは言えない。
だから代わりに、
濡れたタオルを換えて、額を撫でて、
濡れたあなたの髪を整えて、
ひとりよがりな好意を、
看病という名前で包み隠した。
そうして、
あなたの汗に混ざって、
わたしの体温も、少しだけ香りを落とす。
わたしの“匂い”が、
少しでもあなたの中に残れば──
それだけでいい。
そう思った午後だった。
5.夢と熱の狭間で
あなたはまだ、寝ているふりをしているのかもしれない。
わたしの手があなたの額に触れたとき、
そのまま
指先に何かを伝えたのは──偶然じゃないと、思いたい。
でも、
たとえすべてがわたしの妄想でもいい。
この制服に染みた体温。
この保健室に籠もる午後の匂い。
そして、あなたの胸の鼓動が、
わたしの耳にだけ届いているこの密室。
全部、ぜんぶ……
わたしが、
今日を“好きになった日”として覚えていくには、
十分すぎる記憶だった。
6.汗が乾いても、残るもの
やがて、保健室の冷房が汗を乾かす。
わたしの手も、
あなたのシャツも、
湿り気を失って、
何もなかったような顔をし始める。
でも、においだけは、
消えなかった。
あなたの匂いが、
わたしの制服に残った。
そしてきっと──
わたしの匂いも、
あなたの体温に少しだけ、
刻まれていたらいいなって、願ってしまった。
──それは看病じゃなくて、
告白だった。
声に出さなかっただけの、
汗にまぎれた、真夏の告白だった。
(了)
1.午睡の部屋に、蝉が鳴く
夏の午後の校舎は、
音が遠くて、熱が近い。
蝉の声が、窓の隙間から染みてくる保健室。
そこにあなたがいた。
浅く寝息を立てながら、
シャツの内側で、静かに“夏”を発酵させていた。
わたしは、
その匂いに
触れてしまった。
それは、
汗と体温と、
誰かのために無理をした痕跡。
──誰のため? まさか、わたし?
そんな期待をした時点で、
保健委員としての資格なんて、脱いでしまってたのかもしれない。
でも、もう遅かった。
わたしの制服の袖に、
あなたの体温が、確かに滲んでいた。
2.タオルが触れる瞬間、鼓動も触れた
額にタオルを置いたとき、
ほんの一瞬、
あなたのまぶたが震えた気がした。
呼吸が揺れて、喉元が動いて──
そこに汗が伝った。
その線を、
わたしは指でなぞってしまった。
看病のふりをして。
「冷たいでしょ」と
作り笑いで言いながら、
わたしの方が火照っていた。
わたしの制服の中の汗は、
たぶん、
あなたのために流れているわけじゃなかった。
自分の感情が、皮膚の下で迷子になって、
出口を見失ったまま、にじみ出ていた。
3.制服と制服が触れ合う温度
夏の汗は、
誤魔化しがきかない。
好きも、
やましさも、
言えなかった言葉も、
全部、匂いにして皮膚から漏れていく。
あなたのシャツには、
午前中の体育の残り香。
乾ききらない塩分が、
白い布を、うっすら透かしている。
わたしのスカートには、
あなたに寄りかかったときの熱が、
焼き印みたいに残ってる。
制服って、便利な盾だったはずなのに。
いまではもう、
心まで見透かされそうで、怖い。
でも、逃げたくない。
この“体温の距離”が、
わたしとあなたを、同じ季節に閉じ込めてくれているのなら。
4.名前を呼べないまま、汗に縋る
「大丈夫?」と何度も聞くけど、
それはあなたのためじゃなかった。
本当は──
「好き?」って聞きたいんだ。
「この汗の記憶に、わたしはいますか?」って。
でも、それは言えない。
だから代わりに、
濡れたタオルを換えて、額を撫でて、
濡れたあなたの髪を整えて、
ひとりよがりな好意を、
看病という名前で包み隠した。
そうして、
あなたの汗に混ざって、
わたしの体温も、少しだけ香りを落とす。
わたしの“匂い”が、
少しでもあなたの中に残れば──
それだけでいい。
そう思った午後だった。
5.夢と熱の狭間で
あなたはまだ、寝ているふりをしているのかもしれない。
わたしの手があなたの額に触れたとき、
そのまま
指先に何かを伝えたのは──偶然じゃないと、思いたい。
でも、
たとえすべてがわたしの妄想でもいい。
この制服に染みた体温。
この保健室に籠もる午後の匂い。
そして、あなたの胸の鼓動が、
わたしの耳にだけ届いているこの密室。
全部、ぜんぶ……
わたしが、
今日を“好きになった日”として覚えていくには、
十分すぎる記憶だった。
6.汗が乾いても、残るもの
やがて、保健室の冷房が汗を乾かす。
わたしの手も、
あなたのシャツも、
湿り気を失って、
何もなかったような顔をし始める。
でも、においだけは、
消えなかった。
あなたの匂いが、
わたしの制服に残った。
そしてきっと──
わたしの匂いも、
あなたの体温に少しだけ、
刻まれていたらいいなって、願ってしまった。
──それは看病じゃなくて、
告白だった。
声に出さなかっただけの、
汗にまぎれた、真夏の告白だった。
(了)
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