『茶々の乱華 ~戦国の姫、愛と野望の果てに~』

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第5巻:秀吉の側室への道

第9章:笑顔の覚悟

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 秀吉の居城は、夕暮れに染まる。
    木の廊下が茜色に照らされ、庭の花が静かに揺れる。
    わしは初と江をそばに置き、広間の畳に座す。
    小谷城の湖畔は遠く、父上の笑顔は暮色に閉ざされる。
    ――父上。わが目は、笑顔の覚悟を捉えたり。  
    初がわしに凭れ、穏やかな声で語る。
「茶々、そなた、この城、わが家みたいだな。わし、江と過ごすと母上のことを少し忘れられる……」
    その瞳は明るく、微かな希望を宿す。
    わしは初の手を握る。
「初、そなた、気丈だな。長女として、わしがそなたと江を守る」
    江がわが膝に飛び乗り、ちっちゃな笑顔を振りまく。
「茶々、初、夕陽、きれいだな! わし、ここ、大好きだぞ!」  
    わしは江の笑顔を見つめる。
「江、そなた、明るいな。わしと初がそなたを幸せにする。母上の意志を継ぐ」
    その時、廊下から軽やかな足音が響き、羽柴秀吉が現れる。
    その笑顔は、夕暮れの静けさを華やかに彩る。
「やあ、姫君たち! 楽しげだな! 某、秀吉だ。そなたら、この城を我が家と思ってくれて嬉しいぞ!」
    その声は、春風のざわめきの如し。  
    わしは一歩進む。
「秀吉殿、そなた、わしらを側室として遇する。何故笑顔でわしらの未来を縛る?」
    秀吉が笑う。
「縛るだなんて、茶々殿、鋭いな! 某はそなたらの未来を輝かせたいだけさ! 長政殿の娘、織田の血、そなたは戦国の華だ。側室として、初殿、江殿と幸せに暮らしてくれ!」
    わが胸が波立つ。
    ――輝かせる? そなたの笑顔、母上の焔を隠す。  
    わしは問う。
「秀吉殿、そなた、わしに何を求める? 初と江の未来をどう守る?」
    秀吉が目を細める。
「茶々殿、そなた、賢いな。某はそなたの心と気高さを求める。初殿、江殿もこの城で幸せに育つ。そなたが側室なら、家族を守れる。某の天下、そなたと共に築きたい!」
    その笑顔に、わしは鎖の如き意図を感じる。
    ――この男、笑顔でわしらを縛る。  
    初がわしに囁く。
「茶々、そなた、秀吉殿のそばにいるのか? わし、江が笑うと安心するが、そなたは辛くないか?」
    わしは初の手を握る。
「初、そなた、心優しいな。長女として、わしがそなたらを守る。秀吉殿の籠に入るが、そなたらの幸せのために覚悟を決める」
    江がわしの膝に飛び込む。
「茶々、そなた、強いな! わし、そなたと初と一緒なら幸せだ!」  
    秀吉が庭に踏み出し、夕陽を指す。
「茶々殿、そなた、疑うのはいい。されど、初殿、江殿の笑顔、見てみろ。この城で、そなたらも花の如く咲ける。側室として、そなた、某と共に戦国の世を切り開こう! そなたの心、某は大切にするよ!」
    わが心が締め付けられる。
    ――母上。そなたの意志、わし、守る。
    わしは初と江を連れ、秀吉のそばに立つ。
「秀吉殿、そなたの籠に留まる。されど、わし、そなたを信じぬ。初と江の笑顔のため、わし、側室として生きる」  
    秀吉が笑う。
「それでいいさ、茶々殿! 信じなくとも、そなたの覚悟があれば十分だ。そなたら、某と共に新たな道を歩もう!」
    わしらは夕陽を見つめる。
    初がわしに凭れる。
「茶々、そなた、辛くないか? わし、そなたがそばにいると安心する」
    わしは初と江を抱く。
「初、江、わしがそなたらを守る。長女として、生き抜く」  
    わしは目を閉じる。
    小谷城の炎が、瞼の裏で揺れる。
    父上の声が、遠く響く。
    ――茶々、鷹になれ。
    わしは答える。
    ――父上。わし、目を開き、翼を広げ、覚悟を越える。  

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