同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

文字の大きさ
19 / 630

第十八話 スクリーン越しの恋と、ひとつの勇気

しおりを挟む
「ねえ、お兄ちゃん。来週の日曜、空いてる?」

 その一言が、まさかここまで心臓に悪いとは思っていなかった。

「え、なんだよ。急に」

「映画、行かない? 一緒に」

 ――映画。
 その響きが、なぜか“普通の兄妹”にとって、少しだけ特別な響きを持っていた。

「え、それって……なんの映画?」

「“恋するメロディ”っていうラブストーリー。原作小説が好きだったから」

「ラブストーリーぃぃぃ!?」

「なに? そういうの、無理?」

「いや無理じゃないけど! 俺のHPが危険信号出してるだけであって!」

「うるさい。付き合って。妹のお願い」

「妹って言えば何でも通ると思ってるよな最近……」

 日曜。映画館。

 館内は薄暗く、座席は意外と埋まっていた。

 そして――俺たちは、並んで座っていた。
 ポップコーンとドリンクをひとつずつ、膝に乗せて。

 隣にいるのは、
 部屋着じゃない。寝起きじゃない。風呂上がりでもない。

 “オフじゃない碧純”。

 ゆる巻きポニーテール。ベージュのニット。ほんの少しだけ光るリップ。
 俺の知らない、**「妹じゃない顔」**だった。

(ヤバい。めっちゃ可愛い)

 映画が始まっても、ストーリーが頭に入らない。
 目線を前に向けても、意識は完全に横にある。

(肩が、当たりそう……てかもう当たってる!?)

(この距離、何センチ!?)

(てか、こんな至近距離で恋愛映画観てる場合か!?)

映画内セリフ「ずっと、そばにいたんだよ……」

(うるせぇぇぇぇ!!タイミング神かよ!!!)

 物語が佳境に入ったころ。

 スクリーンでは、主人公カップルがついにキスするシーンだった。
 静かな劇伴。ふたりの瞳が重なる。

 その瞬間――

 碧純の指が、俺の袖を、つまんだ。

(……えっ)

 ふと横を見ると、彼女はスクリーンから目を離さず、
 でも、顔をほんの少しだけ俺の方へ傾けていた。

 無言のうちに、伝わってきた。

「ねえ、お兄ちゃん――この距離、どう思う?」

 俺は、手を動かせなかった。
 触れそうで、触れたら絶対壊れるってわかってて。

 でもその一方で、心の中では誰かが叫んでいた。

「今だ! この瞬間が、踏み出すチャンスなんだ!」

 だけど――勇気は、あと少し届かなかった。

 映画が終わって、照明が戻る。

 碧純は何事もなかったように立ち上がり、
 俺に小さく笑って言った。

「面白かったね」

「あ、ああ……そうだな」

 その笑顔は、少しだけ、切なそうに見えた。

 帰り道。
 商店街を並んで歩きながら、ふたりともほとんど喋らなかった。

 でも、沈黙は“気まずい”んじゃなかった。
 たぶん、“言葉にできない何か”を、お互いに探していた。

 別れ際、家の前。

 碧純が立ち止まり、俺を見た。

「今日は、ありがと。楽しかった」

「……ああ。俺も」

 それだけ言って、彼女は玄関へ。

 ドアを開けかけて――一度だけ振り返る。

「映画の中みたいなこと……現実では、やっぱり難しいね」

 そう呟いた彼女の笑顔は、ほんの少し、寂しそうだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

処理中です...