同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第二十七話 妹の席に、彼女が座るとき

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 火曜日の朝。

 俺の中で“昨日のこと”はまだ終わってなかった。

 放課後――
 転校生・如月明花とふたりきりで話していた場面を、妹に見られた。
 そして、彼女のあの無言の瞳が、ずっと焼きついていた。

(……まさか、こんな早く詰められるとは)

 俺は教室に入ってすぐ、嫌な予感を覚えた。

 理由は簡単。

 明花が、俺のすぐ隣の席に座っていたからだ。

 いや、正確には――碧純がいつも座るべき、空席に。

「あれ、そこ……」

 俺が問いかけると、明花はにこりと微笑んだ。

「うん。今朝、先生が席を調整するって言ってた。転校生の“適応”のためだって。
 偶然だね?」

(偶然って……それ、絶対“誘導した”やつだろ……)

 俺が軽くパニックに陥っていると、
 ガラッと教室のドアが開く。

「……おはようございます」

 碧純だった。

 彼女は一歩だけ中に入って、教室を見渡し――

 明花と俺のツーショットを、しっかり視界に収めた。

 そして、席へと向かう……はずだった。

 しかし、碧純はそのまま立ち止まり、
 微笑を浮かべて、明花に話しかけた。

「……如月さん、その席、私の席だよ?」

「ううん、今日は違うの。担任の先生に聞いたら、“一時的に移動”って」

「ふーん……そうなんだ」

 穏やかで、柔らかい声。
 けれどその下にあるものが、俺にはわかった。

 警戒。牽制。そして――嫉妬。

 その日の授業中、地獄だった。

 左には、涼しい顔でノートを取る明花。
 右後ろからは、冷たい視線を感じる碧純。

 板挟みの俺は、息をするだけで神経をすり減らしていた。

 昼休み。

 逃げるように廊下へ出た俺に、追撃が飛んできた。

「お兄ちゃん、ちょっとだけいい?」

 声の主は、もちろん――碧純。

 俺たちは、人気のない空き教室へと移動した。

「……昨日の子、如月さんって言うんだね」

「うん。そうだよ」

「キレイだったね。……いかにも“他人ウケする”顔」

「え、そこ噛みつくのか……?」

「お兄ちゃん、気をつけて。あの子、たぶん――全部わかってて近づいてるよ」

「全部?」

「“私とお兄ちゃんの関係”。
 あの子、直感だけじゃなくて、観察して判断するタイプだよ。
 外見だけじゃなく、内面まで分析してくる。……そういう“怖さ”がある」

 その分析力に、ゾクリとしたのは俺だった。

「私が、“妹”って立場に甘えてるって思ってるんでしょ?あの子」

「碧純……」

「でも、私、もう甘えてるつもりなんかないよ。
 私は――お兄ちゃんを、好きな“ひとりの女の子”だから」

 それは、宣戦布告だった。

 教室へ戻ると、明花は何も言わず、にこやかに席を立ち、
 碧純がいつもの席へと戻っていった。

 でも、その瞬間。
 ふたりの視線がすれ違う。

 それは、言葉以上の感情が詰まった、ほんの一秒だった。

 そして俺は気づく。

 もう、“兄妹だから”という言い訳は、
 誰の前でも通じない世界に入ってしまったのだと――。
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