35 / 630
第三十四話 証拠と呼ぶには、残酷すぎる
しおりを挟む
火曜日。
登校直後のホームルーム前。
教室内には、いつもと変わらない朝のざわめきが流れていた。
けれど俺だけが、静かに、心の中で爆音を聞いていた。
(あの写真――なんで、撮られてた?
誰にも見られてないはずだった……いや、いた。あの時、どこかに)
スマホに届いた画像。
そこには、夕暮れの屋上で、俺と碧純が唇の距離を詰めた、寸前の姿が写っていた。
その背後――カメラのアングルからして、**あの写真は“意図的に狙って撮られた”**ものだった。
そしてそれを送ってきたのが、
暁月ひより。
昼休み前、俺は覚悟を決めて、ひよりに話しかけた。
「放課後、少し時間もらってもいいか?」
「……もちろん。全部、話すつもりだったから」
放課後、文芸部室。
人気のないその部屋で、俺とひよりは対面した。
彼女は、黒いファイルをカバンから取り出した。
「これが……わたしの、全部」
中には、複数の写真と文章の束。
すべて、“俺”をテーマにした、観察記録だった。
「……正直、気持ち悪いって思っても、仕方ないと思う。
でも――わたし、ずっと信じてた」
「……何を?」
「君が、“わたしだけを見てくれる日が来る”ってこと。
誰よりも早く気づくべきだって。誰よりも長く見てたから」
そして、彼女は取り出した一枚を見せた。
俺と碧純が、屋上で手を握り、顔を近づけている決定的な瞬間。
「これは……」
「“兄妹”って、こんなことするの?
私、そういうの、信じたくなかった。でも……これが現実だよね」
「……っ」
「真壁くん。
“真実”って、何かを壊さなきゃ届かないこともあるんだよ」
ひよりは、瞳を揺らしながら、静かに告げた。
「わたし、この写真を誰かに見せたりはしない。
でも、それは――君が、わたしとちゃんと向き合ってくれたときだけ」
選択肢を、差し出された。
向き合うか、逃げるか。
“妹”という関係に甘え続けるのか、それとも――
その夜、俺は初めて、
碧純の部屋の前に立ちながら、ノックをしなかった。
言葉が見つからなかった。
彼女にあの写真を見せる勇気もなかった。
でも、何よりも――俺自身が、自分の気持ちをまだ“選べて”いなかった。
その頃、ひよりの部屋。
彼女はベッドに腰を下ろし、スマホを見つめていた。
画面には、“未送信”状態のメッセージ。
【To:碧純】
「あなたの“お兄ちゃん”が、どんな顔してるか、知ってる?」
その指は、送信ボタンの上に触れたまま、止まっていた。
(つづく)
登校直後のホームルーム前。
教室内には、いつもと変わらない朝のざわめきが流れていた。
けれど俺だけが、静かに、心の中で爆音を聞いていた。
(あの写真――なんで、撮られてた?
誰にも見られてないはずだった……いや、いた。あの時、どこかに)
スマホに届いた画像。
そこには、夕暮れの屋上で、俺と碧純が唇の距離を詰めた、寸前の姿が写っていた。
その背後――カメラのアングルからして、**あの写真は“意図的に狙って撮られた”**ものだった。
そしてそれを送ってきたのが、
暁月ひより。
昼休み前、俺は覚悟を決めて、ひよりに話しかけた。
「放課後、少し時間もらってもいいか?」
「……もちろん。全部、話すつもりだったから」
放課後、文芸部室。
人気のないその部屋で、俺とひよりは対面した。
彼女は、黒いファイルをカバンから取り出した。
「これが……わたしの、全部」
中には、複数の写真と文章の束。
すべて、“俺”をテーマにした、観察記録だった。
「……正直、気持ち悪いって思っても、仕方ないと思う。
でも――わたし、ずっと信じてた」
「……何を?」
「君が、“わたしだけを見てくれる日が来る”ってこと。
誰よりも早く気づくべきだって。誰よりも長く見てたから」
そして、彼女は取り出した一枚を見せた。
俺と碧純が、屋上で手を握り、顔を近づけている決定的な瞬間。
「これは……」
「“兄妹”って、こんなことするの?
私、そういうの、信じたくなかった。でも……これが現実だよね」
「……っ」
「真壁くん。
“真実”って、何かを壊さなきゃ届かないこともあるんだよ」
ひよりは、瞳を揺らしながら、静かに告げた。
「わたし、この写真を誰かに見せたりはしない。
でも、それは――君が、わたしとちゃんと向き合ってくれたときだけ」
選択肢を、差し出された。
向き合うか、逃げるか。
“妹”という関係に甘え続けるのか、それとも――
その夜、俺は初めて、
碧純の部屋の前に立ちながら、ノックをしなかった。
言葉が見つからなかった。
彼女にあの写真を見せる勇気もなかった。
でも、何よりも――俺自身が、自分の気持ちをまだ“選べて”いなかった。
その頃、ひよりの部屋。
彼女はベッドに腰を下ろし、スマホを見つめていた。
画面には、“未送信”状態のメッセージ。
【To:碧純】
「あなたの“お兄ちゃん”が、どんな顔してるか、知ってる?」
その指は、送信ボタンの上に触れたまま、止まっていた。
(つづく)
10
あなたにおすすめの小説
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる