同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第三十六話 告白じゃない。“観察終了報告”です

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 10月20日――金曜日。放課後。

 空は晴れ、まるで何事もない日常のような青だった。

 だが、俺の心臓は落ち着かなかった。

 暁月ひよりから送られてきたメッセージ。
 そこに記された「観察終了」の文字。
 意味がわからないまま、それでも俺は、約束の場所へと向かっていた。

 場所は、旧校舎の裏手。
 人目につかない静かな中庭。
 文化祭の倉庫に使われていた古いウッドデッキ。

 そこに、ひよりはいた。

 制服の上にカーディガン。
 その腕に抱えたのは、ひとつの分厚いファイル。

「……来てくれたんだ」

「……“観察終了”って、どういう意味なんだよ」

 俺の問いに、彼女は静かに微笑んだ。

「そのままだよ。
 わたし、今日で……真壁くんを“見つめる”の、やめることにしたの」

「……なんで」

「理由は、これ」

 彼女は、ファイルを差し出した。

「君の“全記録”。
 出会ってから、今日まで。
 言葉、表情、しぐさ、歩き方、好きな食べ物、寝癖の向き……全部、書いた」

 俺は、ページをめくる。

 そこには――文字通りの**「俺」**がいた。

 自分すら知らない自分の姿が、
 客観的すぎる視点と、主観的すぎる愛情で、びっしりと綴られていた。

「これは……」

「わたしの、“恋”だったもの」

「……“だった”?」

 ひよりは、笑った。

 寂しくて、でも、満足げな笑みだった。

「“好き”って、言いたかった。ずっと。
 でも、言ったら全部終わっちゃう気がして、怖かった」

「ひより……」

「君の周りには、たくさん“光”があった。
 妹さん。転校生の子。明るくて、まっすぐで、強い子たち。
 わたしなんか、いなくても……いいって思った」

 その言葉に、俺は返せなかった。

 彼女は、そっと歩み寄り、
 ファイルを俺の胸に押し当てた。

「これで、終わり。
 もう、わたしは君のことを“見てるだけ”には、ならない」

「それって……」

「“次に会うときは、ちゃんと戦う”って意味。
 ――わたしも、“ヒロイン”になるから」

 風が吹いた。

 彼女の黒髪が揺れて、カーディガンの裾が舞った。

 それは、まるで長い観察の幕を引くカーテンコールのように。

 彼女が去ったあと、俺はひとり、ファイルを抱えていた。

 胸が重くて、息が詰まりそうで――
 でもどこか、嬉しかった。

(俺は……こんなふうに、誰かに見られてたんだ)

 夜、帰宅後。

 ファイルを開きながら、
 あるページの端に、手書きの一言があった。

「彼が振り向く日が来るなら、それは“観察”じゃなく、“会話”に変わる。」

 その時、俺はようやく気づいた。

 この記録は、彼女からの告白じゃない。
 “観察終了報告”――つまり、“物語の始まり”なんだと。

(つづく)

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