同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第四十七話 竹林の誓い、瞳の揺らぎ(修学旅行・二日目・午後)

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午後の京都。班別行動が始まった。

 俺の班――というか、ヒロイン全員集合班は、嵯峨野の竹林へとやってきた。

 真っすぐに伸びる青竹の道。
 頭上でそよぐ葉音。
 光が揺れて、空気が透き通っている。

「さすがに綺麗だな……」

 思わず口に出すと、隣を歩いていた明花が、すっと俺の袖を引いた。

「ねえ、真壁くん。……写真、撮ってくれない?」

 彼女が差し出したスマホは、すでにカメラモード。

「いいけど、俺が撮るの?」

「ううん。“ふたりで”撮ってほしいの」

 その一言に、周囲の空気がピリついたのがわかった。

 でも、明花は気にせず、俺の隣に並び、腕をそっと絡ませてきた。

「はい、タイマー三秒。……笑って」

 カシャッ。

 シャッター音と同時に、彼女の横顔がこちらを見た。
 その瞳の奥には、ふだん見せない柔らかさがあった。

「……こうしてると、夢みたいだね」

「え?」

「昔、京都旅行のパンフレット見てたとき、“ここで好きな人と歩けたらいいな”って思ってたの。
 今、その願いが叶っちゃった」

 風が吹き、彼女の髪が揺れた。
 すれ違った観光客が、「お似合いですね」と囁いていったのが、やけに耳に残った。

 その後、竹林の出口付近で休憩を取ることに。
 ベンチに座っていた俺の前に、ひよりがそっと現れた。

「……ちょっと、歩こっか。観光地の裏道、見つけたんだ」

 彼女は俺の袖を軽く引き、竹林の脇道へと誘導した。

 静かな道。人の気配はほとんどない。

「さっきの、明花さんとの写真……綺麗だったね」

「見てたのか」

「見てたというか、記録してた。
 でも……わたしも、ちゃんと“記録”じゃなくて、“記憶”に残ることがしたい」

 彼女は立ち止まり、まっすぐに俺を見上げた。

「……私もね、真壁くんとこうして並んで歩くの、夢だったんだよ。
 だって、“記録対象”じゃなくて、“主役の相手役”みたいでしょ?」

 風が吹き、彼女のスカートが軽く揺れた。
 そしてその風に乗って、ひよりの髪と肌から立ち上る、微かに甘い体臭がふわっと香った。

 ふだんの無臭っぽさとは違う、女の子としての存在感。
 思わず喉が鳴った。

「……じゃあ、今日は記憶に残ること、しようか」

「え?」

 俺はスマホを取り出して、カメラをひよりに向けた。

「はい、笑って」

 カシャ。

 シャッター音に、ひよりの目が一瞬見開かれ、
 そして、ふっと――心底うれしそうに笑った。

「……ありがとう。すごく、うれしい」

 旅館に戻る道すがら。

 俺の横には、ルナがいた。

「なあ……今日はお前、妙に静かじゃないか?」

「……我が観測魔眼は、現実を直視しすぎて少々疲弊した」

「訳すと?」

「ふたりきりになれてない。イライラする」

「うわーめっちゃ素直ー!」

 そう言いながら、ルナは俺の腕に自分の腕を絡めてきた。

 マントの下、彼女の肌が俺の腕に触れた瞬間、
 ほんのりとスパイシーな香りが鼻をかすめた。
 どこか異国の香水のような、不思議な体臭の混じった香りだった。

「この夜。必ずふたりきりになって、契約の再締結を果たす……覚悟しておけ、契約者(エターナルパートナー)」

 ……二日目の夜も、絶対に静かには終わらない。

(つづく)

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