同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第七十四話 灯るランタン、二人の約束

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週末の土曜日。

 雪が降ったあととは思えないほどの快晴。
 校庭では、町と学校が合同で開催する「冬祭り」の準備が進められていた。

 模擬店、ライトアップ、そして夜にはランタン飛ばし。
 地元のボランティアや保護者も巻き込んだ一大イベント。

 俺たち二年B組は、ホットチョコレートとマシュマロの店を出すことになっていた。

 午前中から、俺は忙しく買い出しに出かけ、設営を手伝い、時にはリハーサルの案内役まで務めた。

 だが、心の中ではずっと引っかかっていた。

 ——碧純と、話ができていない。

 あの日から、必要な会話はしている。
 でも、そこに“気持ち”が乗っていない。

 目が合うと、彼女は微笑む。
 けれど、それが仮面だとわかるくらいには、俺たちは近かった。

 夕方。

 日が傾き、提灯とイルミネーションが灯り始めた頃。

 俺は、屋台の裏手で一息ついていた。

 手にはマグカップ。
 雪の名残が残る空気の中、湯気が指先を包む。

 そのときだった。

「……寒いね」

 背後から、静かな声。
 振り返れば、そこにいたのは——碧純。

 毛糸の帽子を深くかぶり、白いマフラーを巻いた彼女は、まるで雪の妖精のようだった。

「ちょっと、話せる?」

「……ああ」

 ふたり並んで歩き出す。

 照らされた校舎裏の道。
 誰もいない静かなその場所で、彼女は立ち止まった。

「弘弥くん。私……自分でもわかってたの。
 あなたが優しい人だってこと。だから、誰にでも優しくしちゃうってこと」

「碧純……」

「でもね、それを“わかってるつもり”だっただけで……
 実際に誰かに向けられてるところを見ると、やっぱり苦しくなっちゃう」

 彼女の声は震えていた。
 でも、その瞳はまっすぐだった。

「だから、今日はちゃんと伝えに来たの。
 私は、あなたの“一番”でいたい。
 他の誰かじゃなくて、ちゃんと、私だけを見ててほしい」

 その言葉は、嫉妬や独占じゃない。
 本気で誰かを好きになったからこそ出てきた、素直な願いだった。

 俺は、黙って彼女の手を取った。

「お前が一番だよ。……ずっと」

 彼女の目が、ふっと潤む。

「……ほんとに?」

「嘘じゃない」

「じゃあ、証拠見せて」

「は?」

「ランタン。ふたりで一緒に飛ばそ? 願いごと、書くの」

 夜、グラウンド。

 雪を照らす光の中。
 無数のランタンが、ひとつずつ空へと舞い上がっていく。

 俺と碧純の手にも、小さなランタンがあった。

 その紙面に、俺はこう書いた。

「この先も、ずっと手をつないでいられますように」

 彼女はそれを見て、くすっと笑った。

「じゃあ、私も」

「その手を、もう二度と離さないように」

 ふたりで指を絡めながら、ランタンに火を灯す。
 空へ、願いを乗せて。

 光の粒が舞い上がり、闇夜に溶けていった。

 そしてその光は、俺たちの距離を、確かに結び直してくれた気がした。

(つづく)

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