同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第八十二話 年越しカオス、こたつと恋の陣地戦

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紅白歌合戦の熱唱がテレビから流れる中、俺の部屋は“女子会×戦場”と化していた。

 大晦日らしい静けさも、恋人ムードも、すべて吹き飛んだ。

 こたつはすでに完全に占拠されていた。
 碧純、すみれ、ルナ、ひより、明花、そしてイザベラ。
 総勢六人の女子が一堂に会したこたつの中は、熱気と混沌の坩堝だった。

「お兄ちゃん……わたしの年越し、返して……」

 端っこで毛布にくるまった碧純が、小動物のように震えている。

「すまん……俺も、どこに座ればいいのか、もうわからん……」

 いつのまにか俺の指定席だった“こたつ中央の壁側”には、ルナが堂々と腰を下ろしていた。
 その両隣には、すみれと明花が対抗意識むき出しで陣取り、さらにイザベラは背筋を伸ばしながら、こたつの温もりに一人だけ気品をまとって座っている。

「はい真壁くん、あーん♡ 年越しおでん、ちくわぶですよ~♪」

「ちょ、ルナ、それ私が温めてたやつ——!」

「もう! 先にキスの一つでもしておけば、ここまでの事態にはならなかったのに!」

「なにそれ意味わかんない!」

「ふふふ……恋人席、明け渡してくれないなら、せめて公平にじゃんけんで!」

「じゃんけんは武力だわ……!」

 誰がどこで何を食べて、何を口に運ばれたのか把握できないほどの騒々しさ。
 おでんは煮立ち、カップケーキが床に転がり、テレビではアイドルグループが合唱していた。

 俺の膝の上には、いつのまにかひよりが枕を置いていた。

「真壁くんの動向、年内ラスト観察、記録中です。観察者モード、再起動します」

「やめろって言っただろ!? あと俺の膝から離れてくれ!!」

「観察対象に近距離からアプローチすることは基本です」

「本音出てるぞひより!!」

 その混沌の中で、唯一奮闘していたのは、碧純だった。

 自分の席を奪還すべく、こたつの中を忍者のように這い寄ってくる彼女は、もはや“地を這うヒロイン”。

「こたつの中でさえ、彼女としての尊厳は守らねば……っ!」

 俺のふくらはぎに小さな冷たい手が触れた瞬間、俺はすべてを悟った。

 このこたつ戦争において、彼女は決してあきらめていない。
 むしろ、最後の決戦に挑もうとしているのだ。

「大丈夫。俺はどこにいても、お前が“特等席”だから」

 俺がそっとその手を握り返すと、碧純の顔がこたつの布団からひょこっと覗いた。

「……ほんとに?」

「ほんと」

「じゃあ……キスして」

「えっ、今ここで!?」

「こたつの中なら、誰にも見えないから……!」

 それは、年越しの願い。
 ふたりきりで交わすはずだった約束の、最後のチャンス。

 俺は意を決し、こたつの奥で碧純の髪にそっと唇を落とした。
 見えない世界で、見える想いを伝えるように。

 その瞬間——

「ねぇ、年越しキス大会とかどう? 全員順番に!」

「やっぱり“真壁くん取り合い福袋くじ”やろう!」

「私に不利なルールは禁止します」

「今何か、こたつの中で不穏な空気を感じましたが!?」

 誰にも見られていない。
 でも、バレた気はする。

 テレビが大きなカウントを刻む。

「……五、四、三、二——」

 手を握る。
 笑い声が響く。
 足が重なる。
 たった一つの温もりが、心に染み渡る。

 そして——

「ハッピーニューイヤー!!」

 誰かがクラッカーを鳴らした。
 誰かが叫び、誰かが笑い、誰かが涙を堪えた。

 そんな、うるさくて、あたたかい新年の始まりだった。

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