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第二四一話「脚本提出──そしてBLは爆発する」
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「……これでいい。これしかない……!」
深夜の机に一人座る俺は、ついに完成原稿を前に、戦慄の達成感を噛みしめていた。
──書き上げたのは、文化祭演劇用脚本。
タイトルは──
『君と、青空と、禁じられた制服の距離』
男子二人の友情が、やがて恋へと変わる。
その純情と葛藤、青春の痛みと優しさを描いた──
いわゆる、ガチのBL作品だった。
もちろん理由がある。
「これなら、ヒロインたちを“直接対決”させずに済む!!」
主役は俺ではない。
男子生徒役×男子生徒役。
ヒロイン枠は存在しない。
つまり、“選ばれる女の子”もいない。
「うん。完璧。もうこれしかない。革命だ。世界を救う」
俺は、自分の中の“脚本家スイッチ”を切って、脱力した。
これで修羅場は──来ない。
──翌日。
提出された脚本を読んだクラスメイトは騒然となった。
「……え、これ、男子同士じゃね?」
「ってか、ガチ恋……?」
「うわっ……“抱きしめるとき、制服の第二ボタンが外れる音がした”とか……めっちゃ良い……」
──なぜか、一部女子の目がキラキラしていた。
「ひ、ひろやん……このセリフ、“お前がいなきゃ、生きてけねぇよ”って……あたし、泣いた」
「“オレの初めて、もらってくれよ”って台詞、あれ、死んだ」
「尊い……ありがとう……」
──なんか知らんが、腐女子たちの心に刺さっていた。
だが──事件は起こった。
「真壁くん、職員室までいらっしゃい」
放課後。俺は職員室に呼び出された。
そこにいたのは、黒沢先生。
その目は──完全に教師モードだった。
「……これ、読ませてもらったわよ」
「え、あっ、ええっと……」
「“演劇で男子同士が抱き合って、ベッドに押し倒される描写”って、どういうことかしら」
「いや! あのっ! これはその、比喩表現というか、純粋な友情の延長というか──」
「“初めてをあげるよ”はどう読んでも初体験の暗喩よね?」
「ふ、伏線です! あと心の結びつきのメタファー的な!!」
「それから、“制服のボタンが外れてからが本番”って、どの段階の“本番”を示してるのか説明してもらえるかしら?」
「うわあああああっ!!」
──黒沢先生、完全にスイッチが切れていた。
「今、学校現場はとても“表現倫理”に敏感なのよ……」
「でも! この作品で、“誰がヒロインか”の修羅場は回避できるんです!!」
「その代わり、別の方面で戦争が起こるでしょ!! “男子2人でやらせろ派”と“これは教育現場に相応しくない派”で!!」
「ギャアアアアアア!!」
そのとき、職員室の扉が開いた。
「先生、そろそろ帰る……っ!? なにこれ、BL台本……“あの日、教室でこっそり脱がされたボタン”……」
碧純だった。
彼女の目が、台本の“問題ページ”に釘付けになっている。
「ひろや……なにこれ、“誰ともくっつかない回避案”がこれなの……?」
「……ああ……俺、やっちまったかも……」
碧純はしばらく台本を無言で読み続けてから、小さく、こう呟いた。
「……でさ、最後に“お前を選ぶ”って言うの、わたしじゃ……ダメなの?」
──言葉が、出なかった。
その声があまりに真剣すぎて。
◆ ◆ ◆
その夜。俺は、再び原稿用紙に向かった。
“誰かを選ばない”ことは、誰かを悲しませるってこと。
俺は、いずれ書かなきゃいけない。
“選ぶ物語”を。
深夜の机に一人座る俺は、ついに完成原稿を前に、戦慄の達成感を噛みしめていた。
──書き上げたのは、文化祭演劇用脚本。
タイトルは──
『君と、青空と、禁じられた制服の距離』
男子二人の友情が、やがて恋へと変わる。
その純情と葛藤、青春の痛みと優しさを描いた──
いわゆる、ガチのBL作品だった。
もちろん理由がある。
「これなら、ヒロインたちを“直接対決”させずに済む!!」
主役は俺ではない。
男子生徒役×男子生徒役。
ヒロイン枠は存在しない。
つまり、“選ばれる女の子”もいない。
「うん。完璧。もうこれしかない。革命だ。世界を救う」
俺は、自分の中の“脚本家スイッチ”を切って、脱力した。
これで修羅場は──来ない。
──翌日。
提出された脚本を読んだクラスメイトは騒然となった。
「……え、これ、男子同士じゃね?」
「ってか、ガチ恋……?」
「うわっ……“抱きしめるとき、制服の第二ボタンが外れる音がした”とか……めっちゃ良い……」
──なぜか、一部女子の目がキラキラしていた。
「ひ、ひろやん……このセリフ、“お前がいなきゃ、生きてけねぇよ”って……あたし、泣いた」
「“オレの初めて、もらってくれよ”って台詞、あれ、死んだ」
「尊い……ありがとう……」
──なんか知らんが、腐女子たちの心に刺さっていた。
だが──事件は起こった。
「真壁くん、職員室までいらっしゃい」
放課後。俺は職員室に呼び出された。
そこにいたのは、黒沢先生。
その目は──完全に教師モードだった。
「……これ、読ませてもらったわよ」
「え、あっ、ええっと……」
「“演劇で男子同士が抱き合って、ベッドに押し倒される描写”って、どういうことかしら」
「いや! あのっ! これはその、比喩表現というか、純粋な友情の延長というか──」
「“初めてをあげるよ”はどう読んでも初体験の暗喩よね?」
「ふ、伏線です! あと心の結びつきのメタファー的な!!」
「それから、“制服のボタンが外れてからが本番”って、どの段階の“本番”を示してるのか説明してもらえるかしら?」
「うわあああああっ!!」
──黒沢先生、完全にスイッチが切れていた。
「今、学校現場はとても“表現倫理”に敏感なのよ……」
「でも! この作品で、“誰がヒロインか”の修羅場は回避できるんです!!」
「その代わり、別の方面で戦争が起こるでしょ!! “男子2人でやらせろ派”と“これは教育現場に相応しくない派”で!!」
「ギャアアアアアア!!」
そのとき、職員室の扉が開いた。
「先生、そろそろ帰る……っ!? なにこれ、BL台本……“あの日、教室でこっそり脱がされたボタン”……」
碧純だった。
彼女の目が、台本の“問題ページ”に釘付けになっている。
「ひろや……なにこれ、“誰ともくっつかない回避案”がこれなの……?」
「……ああ……俺、やっちまったかも……」
碧純はしばらく台本を無言で読み続けてから、小さく、こう呟いた。
「……でさ、最後に“お前を選ぶ”って言うの、わたしじゃ……ダメなの?」
──言葉が、出なかった。
その声があまりに真剣すぎて。
◆ ◆ ◆
その夜。俺は、再び原稿用紙に向かった。
“誰かを選ばない”ことは、誰かを悲しませるってこと。
俺は、いずれ書かなきゃいけない。
“選ぶ物語”を。
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