同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

第二五八話 「夏、再び──海と水着と“あの宿”へ」

蝉が鳴き、空は澄み渡り、日差しは容赦なく照りつける。

今日から──夏休み。

制服を脱ぎ捨て、教科書を置き、俺たちは自由な日々に飛び込んだ。

「で、本当に行くの？ またあの宿」

俺の問いかけに、ヒロインたちは口々に答える。

「当たり前でしょ！ ゴールデンウィークに泊まったあの海沿いの宿、最高だったじゃん！」
「部屋も広かったし、ご飯もおいしかったし……なにより、弘弥と一緒だったから」
「わたし……もう一回、あの布団で……隣に……♡」
「観察記録の続きを取らないといけないから」
「お兄、私の水着、覚えてる？」

「こえぇよ、圧が！ 全員の愛と欲が重すぎるよ！！」

◆　◆　◆

当日朝。

真夏の日差しの中、俺の家の前に止まったのは──

大きめのレンタカー。
運転席の窓が開き、ゆるくまとめた栗色の髪が見えた。

「おまたせ♡ みんな乗った？」

篠宮みつき。

看護師で、俺の初恋で、そして──今日はみんなの“運転手”。

夏休みを利用して、一緒に同行してくれるという。

「みつきお姉ちゃん、ありがとう！」
「お姉さんが隣にいると安心する～♡」
「お兄を後部座席で押し倒しても怒らないなら、なお最高」

「怒るからな！？ 即刻怒るからな！？」

車内はすでにカオス。
出発前からヒロインたちのテンションは最高潮。

俺は助手席でシートベルトを締めながら、小さくため息をついた。

（去年の夏は……こんなんじゃなかったのになぁ）

いや、良い意味で“こんなんじゃなかった”。

◆　◆　◆

数時間後。

目的地に到着した。

目の前に広がるのは、青く透き通る海。
そして──俺たちがGWにも訪れた、例の宿。

「うわぁぁぁ！！ なつかしーーー！！」
「ここだよね……あの夜、弘弥と……」
「観察記録によると、第一回添い寝案件発生地」
「お兄、今回は“ナニ回発生”かな？」

「やめろォォォ！！！ その発言やめろォォォ！！！ 完全にアウトだろぉぉぉ！！」

宿のご主人は顔を覚えていてくれて、にこやかに迎えてくれた。

「おかえりなさい。また来てくれて嬉しいよ。賑やかだねぇ」

「毎回、すみません……ほんとにすみません……」

◆　◆　◆

チェックイン後、さっそくみんなは水着に着替えて──

「弘弥、見て見て～♡」

ルナはビキニ。
すみれは清楚系ワンピース。
碧純はフリル付き。
りあは黒のセパレート。
イザベラは……民族っぽい布多めだけど、逆にえっち。

そして──ひよりは、学ランの水着バージョン。

「なぜそれにした」

「“泳げる学生服”を試してみたくて」

「誰かつっこんでえええええ！！！」

──そしてその後。

「弘弥、ちょっとお願い」

すみれが日焼け止めを手に、背中を見せる。

「ここ、自分じゃ届かないの」

「え、あ、うん……」

俺は緊張しながら、すみれの肩にそっと日焼け止めを塗り始める。

「ひゃっ……ちょっと、冷たい……けど……その、優しくて、気持ちいい……かも」

「うわ、すみれさん！ なんか艶っぽいんだけど！？」

「次、私！」

ルナがバスタオルを外してビキニ姿で振り返る。

「うなじから腰までお願いね、弘弥♡」

「ちょっ、ルナ近い！ 肌が！ それ完全に狙ってるでしょ！？」

「わたくしも塗っていただけると……この国の風習として」

イザベラが真顔で言ってきた。

「そんな風習ねぇからあああああ！！」

「観察対象に触れる機会、記録対象」

「りあも……お願い……ほかの子だけって、ズルい……」

「塗り係、俺一人なんだけどおおおおお！？」

◆　◆　◆

浜辺での水遊び、スイカ割り、ビーチバレー（球は俺の顔に命中）。

その合間にも、俺は日焼け止め係として奔走していた。

そして日が暮れて、宿に戻る。

「今日の夕飯は、みんなでお鍋だって！」
「夏に鍋！？ 熱いのになんで！？」
「“密着率が上がる”からじゃない？」
「心理的には、鍋の共有で親密度が26％アップするらしいよ」

「科学で恋愛を測るなああああ！！」

◆　◆　◆

部屋に戻ると、宿の人から「大部屋でみんな一緒です」と言われた。

「布団、どこ並べる？」
「わたし弘弥の右！」
「私は左！！」
「わたくしは脚元……いえ、やはり胸元で」

「それ上下！！ 方向おかしいから！！！」

こうして、

笑って、騒いで、日焼け止めにまみれた一日が終わる──